=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
マーガレット・ローレンス 「石の天使」
<彩流社 単行本>
長男夫婦に世話を焼かれながらも、90歳の老女ヘイガーが思い出すのは次男のことばかりだった。ぼけていく頭のなかで、過去を振り返るヘイガーが辿り着いたところはカナダ平原の町マナワカの丘に立つ石の天使像。恵まれた環境に育ちながらも、誤った選択を繰り返した苦い人生は、すべてそこから始まっていた。 | |
これは傑作中の傑作。とくに女性の方には、ぜひ読んでもらいたい。 | |
まず、ボケ老人を客観的にではなく、内面から描いてるんだけど、これがすごい。 | |
当然、作者も経験なく書いてるはずなんだけど、怖ろしくリアル、ここまで書けるなんて信じられない。 | |
そして、老女が振り返る過去の人生、これがまた他の小説で見られないような深さがあるのよね。 | |
プライドもあり、幸せになりたいと願う気持ちはヘイガーも同じなのに、うまくいかない。 | |
年をとってみれば、あのときはこっちを選択するべきだった、とかって思うけど、若いときは誰が見ても正しいと思う選択はしないもんね。そのせいで苦労するのは目に見えてるから、まわりの人は止めるんだけど。 | |
その辺がすごくリアルで、「わかる、わかる、でも間違ってるのよ〜」って言いたくなるよね。 | |
結婚ひとつとっても、親から見ればちゃんと食べていける相手かとか、将来性はあるのかとか、一時的な愛の情熱が冷めたときのことを考えるけど、娘は今目の前にある愛しか見てないもんね。 | |
そうやって、ヘイガーの人生を追うごとに、いくつかの選択肢が現れる。 | |
間違った選択、苦い人生、でも後悔せずに前を向いて生きていくしかない。 | |
そういうのってホント、他人事とは思えない、自分のことのように読んじゃうよね。 | |
ヘイガーが普通の人だからだろうね。特別立派な人でもなく、賢い人でもなく、かといって愚かすぎもせず、自分との距離を感じさせない。 | |
それだけに、読み終わったあとは魂抜けたみたいになっちゃうよね。考えさせられる小説でした。 | |
何度も思い出しちゃうよね。 | |
でも、ラストはかならずしも悲惨ではないのよね。 | |
人間なんて、最後にひとつだけ正しい選択をすればじゅうぶんなのかしら。 | |