=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
アン・ファイン 「キルジョイ」 <早川書房 文庫本>
傷のため、異常なまで醜い容貌となった大学教授は、その醜さを利用して、人をひれ伏させていた。 ところが、ある夕方のセミナーで、美しい女子大生が彼の顔を笑い、頬を思いきり叩いた。この時から、 大学教授の彼女への異常なまでの執着がはじまった。 | |
これを読むと、どうしても連想するのはジョン・ファウルズの「コレクター」。 | |
この本の教授も、女子大生を軟禁状態にしちゃうのよね。 | |
違うのは、大学教授がひたすら続ける知的な自己分析と、それに対する女子大生のオバカっぷり。 | |
そう、醜い教授と美人女子大生って構図は、”美女と野獣”にも共通するんだけど、この歴然とした知性の差が、雰囲気を異ならせてるのよね。 | |
ねじれまくってる人なのに、この大学教授には妙に共感できるのよね。最初のうちの、恋愛という感情に流されず、かたくなに冷静、理知的であろう ともがくところとか、若い学生への不快感とか、別れた奥さんとの結婚生活を分析する公平さとか。 | |
でもやっぱり異常なのよね。相手を黙らせようとするために、自分の醜い傷をわざと見せつけちゃうんだもん、根性悪! | |
でもさ、女性作家だからかな。こんな邪悪な男なのに、生理的な不快感をもよおさないで読めちゃう。 | |
それにしても、この教授は強烈な個性だった。 | |
だからこそ、最後の告白シーンも壮絶で、しかも納得いくのよね。 | |
ほんと、この説得力はすごい。 | |
この作者、実はふだん、童話を書いたり、「ミセス・ダウト」のような楽しい作品を書いている人。 | |
そういう人が、こういう小説を、ここまで緻密に書けるって不思議よね。 | |
この押さえた文章で描かれた異常者の心理描写はぜひ読んでいただきたい。 | |
やっぱり、こういう作者だからかしら、こんな壮絶な話でも、エッチな描写とか、暴力描写はひかえてあるから、そういった意味では安心して読めるよね。 | |
そうそう、邪悪な存在である一人の男の心理だけをひたすら追える。 | |
長すぎず、量的にもちょうど良いのでは? | |