すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「永遠(とわ)に去りぬ」 ロバート・ゴダード (イギリス)  <東京創元社 文庫本> 【Amazon】
欧州共同体の官僚として働いていたロビンは、一番上の兄の死により、親族会社に入ることを誘われた。迷ったロビンは旅に出る。そこで、四十代なかばの美しい女性と出会った。意味深長ながらも短い会話を交わしたあと、二人は何事もなく別れる。ところが、その女性が直後に二重殺人の被害者となったことで、ロビンはふたたび関わりを持つこととなった。真犯人はだれなのか?
にえ いつもと違〜う! 
すみ ほんと、ほんと。ゴダードっぽさが、かなりなかったよね。
にえ 歴史が絡まない、アホなヒロインがいない、過度に世話好きの友達もいない、ストーリーの流れはかなりゆっくり、伏線が見えな〜い。
すみ 一番驚いたのは主人公だよね。卑屈なところがまったくない! どっちかといえば、エリート。でも、鼻持ちならないプライドの高さもない。独身だから家庭も捨てないし、もちろん、酒に溺れてない(笑)
にえ びっくり、びっくり(笑)
すみ ちょっと女に弱いけど、今までの主人公に比べれば、かなり自制がきいてるよね。
にえ ストーリーは、殺人犯がすぐに逮捕されちゃうんだけど、なにかがおかしい。で、この殺された謎の女ルイーズが果たしてどんな女だったのか、知ってた人の言うことが食い違ってるので、その辺を探るって話。 
すみ 謎の女ルイーズが最初に死ぬところは、「鉄の絆」と同じだけど、この場合は死んでて正解!(笑) ルイーズが直接登場してペチャクチャしゃべっられちゃうより、いなくて他の人の口で語らせたほうが、謎を含めた不思議な存在感がぐっと魅力的に浮かび上がってるみたい。
にえ いいよね、このルイーズさん。四十歳を過ぎてるのに、本人が愛想をふりまかなくても、いろんな男に崇拝され、慕われてる。 
すみ これぐらいモテモテになってみたい(笑)
にえ その人が意地の悪い友だちの口から悪く語られ、一緒に死んだろくでもない画家との関わりを取りざたされたりして、なぜかかえって魅力が増してくんだよね。
すみ 人間なんて誉められてるだけじゃダメなのね〜(笑)
にえ あとさ、ベラって頭がきれて、我儘で、気が強い女が出てくるんだけど、これまた魅力的。
すみ そう? あの性格なら、もっともっと無茶やってくれてもいい気がしたけど。正常の範囲内だったな。
にえ あなたは登場人物に何を期待してるの(笑) でもさ、今回はあなたの嫌いな法廷シーンが大丈夫だったでしょ? 
すみ うん。裁判の描写は余計なところをぜんぶ省いて、はしょれるところははしょってくれて、これなら文句なし。
にえ それにしても、謎は深まってくばかりだよね。ぎりぎり最後まで読めなかったよ。
すみ 私も後半で黒幕の一人はもしかしたらって感じがしたけど、その程度で、あとはなんにもわからなかった。完敗です(笑)
にえ あいかわらず主人公は、根源のわからない情熱につき動かされてるけど、とにかくラストまで驚かせてくれるわね。
すみ そうそう、驚かすといえば翻訳。驚いたよね。
にえ すなおに当用漢字を使え〜!!(笑)
すみ 最初の20ページあたりまで、凝った漢字にふりがなだらけだったよね。どうしようかと思っちゃった。まあこの内容に合ってると言えば、合ってたけど。
にえ だけど、作家が自分の作品にこれをやるのは勝手だけど、翻訳にここまで凝らなくても・・・。普通に読みたいだけなのに〜。
すみ まあ、それはともかく(笑)、結局この本の総評は?
にえ ゴダードとして期待するとだいぶずれてると思う。物語の流れはゆっくりしてるけど、二転、三転のストーリー展開は期待していいし、かなり楽しめる。つまり、じりじりと焦らすタイプの推理小説が嫌いじゃない人なら、喜んでいただけるのでは。
すみ これまた、ゴダードとしては賛否両論の作品になりそうだね。
にえ 歴史が絡まないのは残念だけど、読み応えと重みがあって、私はわりと好きだったけどね。読んでるあいだは先が読めなくてワクワクさせられたし、最後まで期待した以上のものは与えられた。
すみ 面白い読み物としての期待は裏切らないよね。だからさ、ゴダードファンじゃないほうが単純に喜べるかもね。それに、今までのゴダード作品ににありがちな主人公が嫌いだった人には、逆におすすめしたいところかも。
にえ それでは来週は?
すみ 「閉じられた環」です。お楽しみに〜♪
 週刊ロバート・ゴダード 2001年3月1日号