すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「さよならは言わないで」 ロバート・ゴダード (イギリス)  <扶桑社 文庫本> 【Amazon】 (上) (下)
建築家ジェフリーはある朝、新聞記事に驚愕する。夫を毒殺しようとした妻コンスエラが誤って姪を殺害したというのだ。12年前、ブラジル生まれのコンスエラはイギリスで、愛のない夫との孤独な生活に耐えていた。彼女と激しい恋に落ちた末、棄てた男こそがジェフリーだった。罪滅ぼしのため、彼女の冤罪をはらそうとするジェフリーだが。
にえ いきなりぶっちゃけます。けっこうスローテンポでかったるかった、この本は。  
すみ ストーリーは悪くなかったよね。ジェフリーの罪悪感がせつせつと綴られてて。にえちゃんの口癖になったアホなヒロインでもなかったし(笑)
にえ でも超スローテンポ。特に下巻のなかばまでは複線まるみえだし、魅力的な登場人物はいないし、つらいよ。  
すみ うーん、コンスエラやコンスエラの娘はいい雰囲気出てるんだけど、ほとんど登場しないからね。
にえ いつもはね、ゴダードは長編だけど、本当はもう何倍も長くなっていいはずの話を短くまとめてくれてるのよ、感謝して読まなくっちゃね、と思ってたけど、これは縮めろ〜、縮められるだろ〜と思ったよ。
すみ この雰囲気を出すためにはしかたなかったんじゃない。それにジェフリーもジェフリーの友達も建築家なんだから、建物の描写が細かくなるのはしかたないし。
にえ でも、それにしても、これって約800ページってとこだけど、450ページぐらいで充分だよ。ダラダラしすぎ。 
すみ でもさ、いつになく主人公の理由づけがはっきりしてたよね、得体の知れない情熱にかきたてられて、とかじゃなくて、棄てた女を今度こそ救いたいっていうわかりやすい理由があったよ。
にえ 歴史も絡まないのよね。12年前の不倫があるだけで、そこも厚みがなくて退屈の原因。  
すみ でも、二人の恋はせつなかったよ。
にえ そうだ! こんなにつっこんで楽しい作家はいないんだから、ひとつ、つっこんどきましょ。
すみ まあ、読んだあといろいろ話が出きる楽しみがあるよね。こいつってなんでこんなことするんだろうね〜、みたいな。そういうのって、売れる作家の要素のひとつだから。
にえ 前から思ってたんだけどねえ、ゴダード本の登場人物ってみんな、会話にウィットなさすぎ。 
すみ 例えば?
にえ この本の132ページ。ターンブルってやなやつがコンスエラをブドウに譬えて、ジェフリーに皮肉を言うところがあるでしょ。 
すみ ああ、ここね。
にえ 「浅黒い肌。やわらかい肉(中略)ほんとうにいらないのか?」それに対して、ジェフリーは?
すみ 「ええ、結構です(中略)ただし、気をつけないと、種がのどに詰まりますよ」
にえ 小学生じゃないんだからさあ、もうちょっとひねりをきかせてよ。ブドウで種じゃそのまんまじゃない。せめてイソップ童話の「すっぱい葡萄」に譬えるとかさ〜。
すみ それじゃあ、ジェフリーが羨ましいだろうって自慢してることになって、話がめちゃくちゃじゃない。
にえ だから例えばよ。ゴダード本の登場人物っていつもこの調子で、会話にひねりがなくって、おもしろくないし、リズム感がない。
すみ みんな基本的に、真面目な性格だからね。あんまり愉快な会話をしてたら、全体の雰囲気が壊れちゃうでしょ。
にえ でもな〜、皮肉の応酬ぐらいはバチッと決めてほしいよ。
すみ そりゃそうだけど。
にえ あんただって、法廷シーンが始まったとき、ゲロゲロって言ってたじゃない。
すみ うっ。だって法廷シーン、嫌いなんだもん。裁判が始まると、もうわかってることが検事と弁護士の口から、もう一回繰り返しで聞かされることになるでしょ。あれがどうも。
にえ この本に関しては、裁判の描写はあまり上手とは言えなかったから、特にもたついたねえ。まあ、長くないから堪えられないってほどではないけど。
すみ なんかでも、ジェフリーの友達の記録日誌が笑えなかった? おいおい、友達に読ませるのに、そういう書き方はないだろう、作家きどりかおまえは、みたいな(笑)
にえ あとさ、せっかく視点がジェフリーから友達に移ったんだから、それぞれの人物の描写の切り口を変えてほしかったよね。 
すみ まあねえ。「ジェフリーの言ったとおりの人物だった」の一点張りだからねえ(笑)
にえ ただね、ラストシーンは良かった。
すみ そうなのよ、私もそれが言いたかった。美しい映画を見ているみたいだったよね、最後のシーンは。
にえ 最後が美しいと報われた気はするし、読後感がいいから、「ああ、いい本だった」ってつい言いそうになるけどね。
すみ そうそう。結論としては、かなりゆっくりモ−ドだけど、美しい物語だったってことで。 さ、では落ち着いたところで、来週は「鉄の絆」です。お楽しみに♪
 週刊ロバート・ゴダード 2001年2月16日号