=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「蒼穹のかなたへ」 ロバート・ゴダード (イギリス)
<文藝春秋 文庫本> 【Amazon】 (上) (下)
社長の息子に嵌められ、会社を辞めさせられたハリーは52歳。ギリシアのロードス島で古くからの知人、国防次官ダイサードの別荘で管理人として酒浸りの日々を送っていた。そこに現れた娘ヘザーに惹かれるハリーだが、ヘザーは忽然と姿を消す。ヘザーの行方を捜すハリーだが。 | |
いや〜、へなちょこ男が主人公と聞いたような気がしてたけど、ゴダードの男主人公にしては、いたってまともな人だったよね。 | |
そうね。自分が過去に犯した罪に罪悪感を感じまいと言い訳しまくったり、一人娘に対する親としての当然の責任から逃げ回ったり、そういう卑劣な人ではなかったよね。 | |
アル中でもないしね。 | |
アルコール依存症気味だけどね。お酒飲み過ぎ(笑) | |
まあ、劣等感は丸出しだけど、52歳で家庭も持てず、仕事でも成功できなかったら、この程度の負け犬根性は普通だよね。 | |
ただ、自分が嵌められて2度も仕事に失敗したことに目一杯こだわって、ねちねち恨んでるくせに、自分の気持ちを認めないで、忘れた、忘れたって言い張るところは素直じゃないけど。 | |
そうねえ、プライドが高すぎるから、認めたくないんでしょう。劣等感が強い人っていうのは、裏返せばプライドの高すぎる人ってことだからね。 | |
ゴダードはこういうプライドの高い卑屈な人を主人公にするの、好きねえ(笑) | |
でも、なんか優しい人だったから、このハリーさんはわりと好きかも。 | |
で、ストーリーのほうは、「闇に浮かぶ絵」とちょっと似てるから、続けて読まないほうがいいかも。 | |
間をあければ、充分楽しめるよね。 | |
そうそう。それにね、これまでの謎解きパターンとはちょっと違ってた。 | |
うん。黒幕は主人公が気づかないだけで、読者には丸見えなのよね。ていうか、わかるように書いてある。 | |
それを、いつ気づくの、いつ気づくの、ってじりじりしながら読むのよね。 | |
「8時だよ!全員集合!!」の、舞台にいる志村けんだけがうしろにいるやつに気づかなくて、客席の子供たちが「しむら〜、うしろ〜」「しむら〜、うしろ〜」って叫びながら大笑いするような、ああいう面白味があるよね。 | |
……。で、黒幕の実体が暴かれるのが、なんと下巻の後半なんだけど、そこまでの長い間、読んでて退屈かっていうと、どんどん謎が解けていくから充分楽しく読める。こういう焦らし方、面白いなあ。捜しているヘザーちゃんも笑っちゃうぐらいなかなか見つからないし。 | |
黒幕ってがまた、魅力があっていいよかったよね。 | |
そこが「闇に浮かぶ絵」との共通点のひとつでもあるんだけど、悪い人なんだろうけど、なんか憎みきれない、人間的な魅力のある人だよね。 | |
黒幕さんに関しては、「闇に浮かぶ絵」よりさらに厚みがあっていいかも。他の登場人物もよかったよね。いやみったらしく登場しながら実はいい人とか、どもってるけど頑張るとか、見かけは子供、中身は鋭利な頭脳、みたいなおもしろキャラがいっぱい登場! | |
主人公と年老いた母親の会話もよかったよね。ほっとさせられちゃう。 | |
今回の謎は歴史じゃなくて、オックスフォード大学にあるんだけど、こういう歴史のある、エリート大学ってそれはそれでまた雰囲気があって、舞台としてはいいよね。 | |
あとさ、政治絡みのところがあるから、イギリスで一番やっかいなアイルランド問題が出てきて、これは私としては、いくら本で読んでもニュースで見ても、なかなか理解しづらい問題なんで、やばいな〜と思ったけど、そんなに深い記述がなくて助かった。 | |
そうだね。単純にミステリだけで楽しめるストーリーだよね。 | |
うん。この本、予想外におもしろかった。 | |
歴史上の人物は出てこないから、ゴダード作品のそういうところに惹かれてる人は物足りないかもしれないけど、長編ミステリとしてはじゅうぶん満足できるよね。 | |
ラストもよかったよね。主人公の優しさにじ〜んとしちゃったよ。 | |
私、この本に限ってはオチ部分の伏線みおとしちゃって、ちょっと驚かされちゃった、くやし〜。 | |
うん、これはうっかり見落とす可能性アリだね。そういう意味でもおもしろい(笑) | |
ということで。私たち的には、「闇に浮かぶ絵」と前後しなければ、という条件つきで、けっこうお勧めです。 | |
来週は「さよならは言わないで」です。お楽しみに〜♪ | |
週刊ロバート・ゴダード 2001年2月9日号 | |