=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「石に刻まれた時間」 ロバート・ゴダード (イギリス)
<東京創元社 文庫本> 【Amazon】
トニーは、妻マリーナの望むまま、都会の街ロンドンから、豊かな自然の残るコーンウォールへと引っ越した。弁護士のマリーナは、地元の引退した弁護士の仕事を引き継ぎ、すぐに仕事を始めたが、人材スカウトの仕事をしていたトニーは、しばらく休業状態だった。あわてる必要もなく、夫婦二人だけのしずかな生活を楽しんでいた矢先、マリーナが断崖で謎の転落死を遂げた。呆然とするトニーを、古くからの親友であるマットと、マリーナの妹であるルーシーの夫婦が自宅に招待した。そこはレスターシャーにある、石造りの風変わりな屋敷アザウェイズだった。第一次世界大戦直前に建てられたこの異形の家は、円柱形の外観で、茶色のスレート屋根は円錐。屋内でも円を基調とした設計は続き、遠近感を狂わせずにおかない変わった家だが、その来歴もまた複雑で奇妙だった。奇妙な夢に悩まされるようになったトニーは、アザウェイズにまつわる過去を調べはじめた。 | |
これは邦訳の順番が逆になってるけど、「今ふたたびの海」の前に 書かれた作品なのよね。 | |
ちょっとだけホラー色が入ってるというところが、ゴダード作品としては 目新しい感じだったかな。 | |
でも、やっぱりメインの謎は、政治がらみの歴史ってところでいつものゴダードだったよね。 歴史上あたりまえのようにされてきた過去の政治の裏では、こんな真実があったのだ! というお得意のパターンだし。 | |
主人公はいつもよりマシかな。そんなに酒に溺れないし、グニャグニャ、イジイジとはしてないし。 | |
亡き妻に語りかける一人称形式だから、多少はカッコつけてくれたかな(笑) | |
主人公のトニーは、妻のマリーナが落ちるはずのない崖から落ちて死亡。意気消沈しているところに、 誘われるのが謎の屋敷アザウェイズなの。 | |
アザウェイズは、トニーの親友マットとマリーナの妹のルーシー夫妻が、最近になって購入した屋敷なんだよね。 建ったのは第一次世界大戦直後らしいんだけど。 | |
石造りで、なんだか妙に丸みを帯びていて、見ているうちに遠近感が狂ってくる、 不思議な屋敷なのよね。 | |
設計したのは建築家のエミール・フェンビー・ボズナン。ボズナンは、アザウェイズが評判になって、 たくさん注文の話が舞い込んだらしいんだけど、建てたのはあとにも先にもアザウェイズだけ。アザウェイズを建てたあとは引退して、ポルトガルへ。 そこで酒に溺れ、悲惨な最期を遂げたらしいの。 | |
最初の持ち主は、裕福な世捨て人のバジル・オーツ。オーツは1930年代に亡くなって、それから アザウェイズは何人かの手に渡っていった。そのなかでも、とくにミルナー家とストラサラン家には、とんでもない不幸があったらしいんだけど。 | |
ミルナー家は、夫が罪のない妻を疑い、自分の弟と不倫をしてると思いこんで、妻を殺してしまったのよね。 | |
ストラサラン家では、婚約者もいて、大学で充実した生活もしていて、幸せいっぱいのはずの一人娘が自殺しちゃってるの。 | |
調べていくうちに、その二つの出来事にはいろんな人がからんでいて、 複雑な様相を呈していることがわかってくるのよね。 | |
トニー自身も、アザウェイズに泊まるようになってからは、亡霊が見えたり、 未来らしきものが見えたり、とおかしなことに。 | |
アザウェイズに異常なほどの興味をしめし、とくにミルナー家にまつわる秘密を執拗なまでに探る 男レインバード、なんてのも現れたりするのよね。 | |
ミルナー家の惨劇で不義を疑われた弟の婚約者であり、殺された妻の 妹でもある、彫刻家の老嬢デイジー、なんて気になる存在もすぐ近所に住んでたりしてね。 | |
どんどん話は複雑になっていき、それから謎がどんどん解けていき、と なかなかスッキリきれいにまとまってるって印象だった。でも、最後まで残る謎もあったりするのよね。この 読後も残尿感のようなスッキリしないものの残るミステリって、ここのところのイギリス・ミステリの流行りかな。 | |
いろんな謎が解けるけど、この謎とこの謎だけはわざと残して終わらしてしまえ、みたいなね。 それでリアリティーと読後の余韻を呼ぼうとしてるのかな。あと、人の心を狂わす屋敷の謎についても、原因はつきつめられなかったね。 | |
でも、政治的な秘密が暴かれる部分は、意外性があって驚いたな〜。まさかそう来るとは。 | |
あいかわらず、主人公が謎を解かなければならないところまで追いつめられる理由付けは無理があったけど、 これはいつものことか(笑) ゴダードは主人公がどうのっていうんじゃなくて、ストーリーのおもしろさだからね。 | |
そうそう、相変わらず、ユーモアのセンスにも疑問を感じたけど、そのへんはいいのよ(笑) | |
ややこしい話を長引かせず、手堅くまとめたなって印象。この小説じたいは、夢中になって読めてよかったんだけど、 なぜか読み終わったあとに、これから先のゴダード作品は大丈夫なんだろうかと不安を感じさせる気がしなくもないような・・・。 | |
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