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 「今ふたたびの海」 ロバート・ゴダード (イギリス)  <講談社 文庫本> 【Amazon】 (上) (下)
1721年、ロンドンは南海会社の株の大暴落によってかつてないほどの不景気に陥り、南海会社に関わった政治家、貴族といった著名人たちは民衆の激しい非難により苦境に立たされていた。親子で地図製作を生業としていたスパンドレルは父を亡くし、借金を返済できずに投獄され、洗濯女として働く母を助けながらも、どん底の生活を強いられていた。スパンドレルは南海会社の理事であり、有力な下院議員だったサー・シオドアに呼び出された。サー・シオドアは、ある物をアムステルダムの知人に届けてくれるという簡単な仕事をするだけで、借金をすべて返済してくれると約束した。もちろん、スパンドレルには引き受ける以外の道はない。しかし、それはそれはスパンドレルにとって、危険に満ちた旅の始まりだった。
にえ ゴダードの2000年の作品の邦訳です。ゴダードの作品は他に、 1999年のものと、2001年のものがすでに近刊予定、順調だね〜。
すみ ゴダードの作品というと、歴史を題材に扱ったものと、そうでないも のとあって、やっぱりゴダードファンの多くは、歴史を扱った作品を期待してると思うんだけど、この 「今ふたたびの海」は待望の歴史ものなのよね。
にえ うん、イギリスで18世紀に起きた南海泡沫株事件を題材にしてるの。 バブルだの、バブル崩壊だのと気安く言ってたけど、語源はこの事件なんだとか。
すみ 当時のイギリスといえば、東インド会社が大躍進を遂げたこともあって、 投資の気運は上がり邦題。で、1711年に南海株式会社ってのができると、みんながこぞって投資したってわけ。
にえ 「今ふたたびの海」は1721年からのお話なんだけど、その前の年の 1720年には、1月にわずか128ポンドだった南海会社の株価は、6月には1050ポンドに暴騰したのだそうな。
すみ この南海会社ってのは、イギリス政府の負債の一部を引き受けることによって、 政府から南アメリカ大陸との貿易の独占権が与えられているっていう、パッと見、いくらでも業績が伸びそうな会社 だったんだけど、じつは、なのよね。
にえ そうなの、当時の南アメリカ大陸はスペインの勢力下にあって、 イギリスと南米との貿易の拡大なんて、じつはぜんぜん期待できなかったの。
すみ もちろん、こんなまやかしがいつまでも気づかれないはずはなく、 南海会社の株は大暴落して、同じ1720年の9月には、175ポンドまで下がっちゃう。
にえ もちろん、イギリス経済は大混乱、破産した人も大人数なら、 南海会社に関係のある貴族や政治家が、自殺したり、財産を没収されたり、刑務所に入れられたり。
すみ そんな中で、南海会社の裏帳簿であるグリーンブックってのが消えてしまい、 いまだに見つかっていない。その謎を題材にして書いてあるのが、この「今ふたたびの海」なの。
にえ 南海会社に関わった実在の人物も登場人物としてタップリ出てきて、 そこに架空の登場人物たちも混ざっていて、もともとこの事件を詳しく知っていた人には楽しくてたまらない 小説だろうね。
すみ 実在の人物はここまでキャラ作って書いちゃって大丈夫なのってぐらい、 はっきり個性のある登場人物として登場いてるからね〜。私のように、にわか知識で挑んだ読者は、登場人物一覧を見ながら、 必死でついていくのみだけど(笑)
にえ でも、主人公が政治家じゃなくて、庶民階級の地図制作者だったから、 そうそう政治の難しい話ばかりにならなくて、読みやすかったよね。
すみ うん、それにねえ、この作品は登場人物が薄っぺらすぎるって評判を あちこちで目にしてたんだけど、正直言ってゴダードのジクジクと感傷的な主人公ってのが苦手だった私は、 この本が今までで一番読みやすかった。
にえ あいかわらず、女性には弱くて、意志薄弱で、騙されやすい主人公だったけどね〜(笑)
すみ うん、でも、今回の主人公はおセンチなことをネチネチ言ったりはしないで、きれいな女がほしい、 楽に生活できる金がほしい、命が惜しい、と単純でわかりやすい言動をとるから、うんざりさせられなくて私には良かったよ。 なるべくなら危険を避けたいって小市民根性も理解できる範囲だし、いつものように母親孝行の息子だったし、わかりやすくて好感が持てた。
にえ グリーンブックを届けにアムステルダムに行った主人公のスパンドレルは、 罠にはまって殺人犯の濡れ衣を着せられることになり、奪われたグリーンブックを追いかけることになり、とまあ、定番的な展開なのよね。
すみ もちろん、スパンドレルなんか軽く手玉にとっちゃう悪女も出てくるし、 スパンドレルを助けるカッコイイ軍人のおじさんも出てくるし、ストーリーは二転三転するし、ほんと展開は期待通りの定番もの。 安心して楽しめた。
にえ そのカッコイイ軍人のオジサンのマクルレイス大尉が良かったよね。状況によって善にも悪にもなるんだけど、 なんか心の底があったかい人で、一本筋が通っていて。
すみ ゴダードの小説だと、こういうかっこいい人が主人公になることはないんだけどね(笑) あと、 悪女のほうも、あんまり回りくどくなくてわかりやすい悪女で、厚みのない人物像だけど私はこれでいいと思ったよ。
にえ とにかくよけいなものを省いて、スッキリまとまってたって感じだよね。 個人的には政治家の話じたいがあんまり好きじゃないんだけど、それでも一気に読めました。
すみ 史実の取り入れ方のうまさと、エンタメに徹した起伏のあるストーリー、ゴダードについてはそれだけ あれば大満足。って意見に賛成な方にオススメ。
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