このスレッドはロックされています。記事の閲覧のみとなります。
トップページ > 記事閲覧
2004年・雫の年間ベストほんやく本
日時: 2005/01/11 23:27
名前:

いや〜怪我や病気に翻弄された1年でした……どうしても不調の時に読んだ本は印象が薄いし、前に読んだのは忘れていくしで、そのへん順位に多少影響があったかもしれませんが、とりあえず10冊選んでみました。

■1位■ 『灰色の魂』 フィリップ・クローデル
重さ暗さといい謎めいて古風な雰囲気といい、私にとっては小説としてもうほとんど完璧!孤高の悲しみも下賤のたくらみもすべては灰色の靄の中。酔わせていただきました。

■2位■ 『ミドルセックス』 ジェフリー・ユージェニデス
ランクインコメントは↓こちらの1位をご参照下さい(手抜きかっ)
http://park8.wakwak.com/~w22/cgi-bin/best/patio.cgi?mode=view&no=56

■3位■ 『星と呼ばれた少年』 ロディ・ドイル
アイルランド独立に関わる流血の歴史を追いながらも、歴史の大きなうねりに翻弄される人々、そしてそれに押し流されまいとすっくと立つ人間の姿が、悲惨な中でも本当にいきいきと愛らしく無骨に描かれている、ドイル渾身の情熱作。続編が楽しみで夜も眠れません。

■4位■ 『アルヴァとイルヴァ』 エドワード・ケアリー
前作を読んだ時も感じたことですが、この作家が記憶と失われたものたちへの愛着で構築する孤独な塔の眺めが私は好きなのかも。特にこの作品においては、作者自身の手による粘土細工の写真が、エントラーラとそこに生きた双子の奇妙で哀しい物語を、何度も繰り返し語り出すのです。

■5位■ 『その名にちなんで』 ジュンパ・ラヒリ
さすがはラヒリ、深くて軽やかでしみじみとした上質な小説。劇的な事件など何も起きないのに、なにげない日常の風景を淡々と描くその先に透けて見える、遠い祖国への複雑な感情---いとおしみ懐かしむ気持ちと疎んじる気持ちが見事なバランスで、なるほどそういうものだろうと思わせるリアルさです。

■6位■ 『水源』 アイン・ランド
思想小説でありながら娯楽大作。作者の強いメッセージ性、サイボーグめいた主人公や屈折しまくりの登場人物など、ツッコミどころは山盛りなんだけど、とにかくその熱くストレートなパワーは「寝食を忘れる」レベルでした。骨太で洗練されていなくて瑕があって、でもそれを超えて夢中になれる魅力、とにかく面白い。建築物の美しさ、崇高さも印象深い。
『肩をすくめたアトラス』も読みましたが、こっちはずいぶん長く感じてしまったこともあって、『水源』だけランクイン。

■7位■ 『ヒューマン・ステイン』 フィリップ・ロス
ランクインコメントは↓こちらの2位を(手抜き再び)
http://park8.wakwak.com/~w22/cgi-bin/best/patio.cgi?mode=view&no=56

■8位■ 『奇跡も語る者がいなければ』 ジョン・マグレガー
いまいち不評な気配?だけど私は好きです!と大声で宣言してみる。少し前に観た映画『エレファント』の影響もあってか、冒頭から悲惨な出来事の気配だけを漂わせつつ、いきつもどりつして静かな声で語られる普通の人たちそれぞれの人生、その何気ないけれどかけがえのない一瞬のしぐさや音や匂いに、何度もこみ上げるものがありました。

■9位■ 『ウェイクフィールド/ウェイクフィールドの妻』 N・ホーソーン/E・ベルティ
よく知られた古典と、時代も国籍も違う現代作家による競作(オマージュ?)が一冊で楽しめる美味しい企画アリガトウ♪ってだけじゃない!E・ベルティはホーソーンの短篇が持っていた謎めいて古めかしい雰囲気をそのままに、幽かな匂いや一種独特の隠微ささえ醸し出す新たな小説世界を見せてくれました。オトナの小説よね。

■10位■『天使はポケットに何も持っていない』 ダン・ファンテ
そして、誰も入れないだろうけど私だけはっ。とどうしても入れたかったこの1冊。どうしようもない崖っぷちアル中オヤジがゲロとスラング吐きまくる下品な小説なんだけど、どこか愛らしくて笑えてしみじみ心を打つ。相棒の犬がまた臭い汚らしいボロ雑巾みたい、でもいかにも犬っぽくていとおしい。クズ白人が酔っ払ってダミ声で唸るブルーズを聴いているような小説でした。


★そして短篇集の中から。
  『地図に仕える者たち』アンドレア・バレット
  『コンスエラ』ダン・ローズ
  『すべてはキンタナ・ローの海に消えた』ジェイムズ・ティプトリーJr.
特に『地図に仕える者たち』は、自然科学と詩情あふれる物語性の融合が見事で、短編集というよりひとつの流れとして読みました。そういえばほかの2作品も、バラエティよりは統一性の短編集……そういうのが好きなのかも。


おや?こうして書いてみれば案外順当なところじゃないのと自画自賛しつつ、今年は健康第一、いっぱい読んでいっぱい遊んでちょっぴり働くエライ人を目指します!
メンテ

Page: 1 |

Re: 2004年・雫の年間ベストほんやく本 ( No.1 )
日時: 2005/01/12 00:13
名前: すみ&にえ
参照: http://park8.wakwak.com/~w22/

雫さん、ご参加ありがとうございます。ホントに2004年は大変でしたね。厄払いは終わったってことで、2005年は雫さんにとって良い年でありますように。無病息災!
それにしても、他はともかく1位は驚きました。『灰色の魂』はたしかに素晴らしい小説でしたが、まさか『ミドルセックス』まで抜き去って1位になるとはっ。というか、雫さんが『ミドルセックス』を2位にしたほうに驚きっ、ですね。私たち的には、 『星と呼ばれた少年』の3位が嬉しい。良かったですよね〜、ウルウル。
メンテ
Re: 2004年・雫の年間ベストほんやく本 ( No.2 )
日時: 2005/01/12 07:12
名前: 藤森かよこ  <Kayokofuji@aol.com>
参照: http://www.aynrand2001japan.com/

雫さまへ:

アイン・ランド『水源』の翻訳者の藤森です。2004年「ベストほんやく本10」に『水源』を選んでいただいて、私は嬉しいです。共感してくださる方がいるのが、なんか、「やっぱりそうだよね〜」と嬉しいです。日々の怒涛の労働が、癒されます。

アイン・ランドは変な人で、小説としては、『水源』より前に書いたものの方が、面白かったりします。思想を伝える道具として意識して書いた小説は「楽しむにはしんどいし、少し不快」なものになる傾向がありますが、物語の骨格を作る才能は豊かなオモロイ女性作家です。

ありがとうございました!
メンテ
Re: 2004年・雫の年間ベストほんやく本 ( No.3 )
日時: 2005/01/12 21:11
名前: Hiro

雫さんのベスト本はいつも参考にさせていただいてるので、いつ出てくるかと待っておりました。(笑)
『灰色の魂』は私のチェックには入ってなかったんだけど、第1位に入ってると俄然気になってきますね〜。
メンテ
Re: 2004年・雫の年間ベストほんやく本 ( No.4 )
日時: 2005/01/12 21:46
名前:

>すみ&にえさん
そ、そう言われるとだんだん自信がなくなる気弱な私……順位入れ替えようかな(笑) いや、『灰色の魂』をどこに入れるか迷ったのは事実なんですよ、でもほら読んだのが比較的最近だし(笑)タイミングもあるだろうけど、それほど好みだったってことで。

>藤森かよこさま
ひゃー、わざわざコメントいただいて恐縮です。思えば『水源』が出る前のこと、偶然藤森さまのHPに行き当たりまして、そこで初めてアイン・ランドという名前と近々邦訳されるという『水源』の熱意あふれるご紹介を拝見し、これは読まねば!と出版を楽しみにさせていただいていたのでした。待った甲斐がありました。この魅力的な本に出会わせていただいて有り難うございます!HPも時々覗かせていただいていました。Anthemも読ませていただきますね。

>Hiroさん
参考にしていただいてるなんて、そ、そんな恥ずかしい……(笑)『灰色の魂』は1Pめでなんだかもう持っていかれちゃいました。内容といい本の佇まいといい、好みなんです〜。
Hiroさんにはロディ・ドイルもぜひ読んで欲しいです。冒頭『アンジェラの灰』を彷彿とさせますよ、ただし最初だけですが(笑)
メンテ
Re: 2004年・雫の年間ベストほんやく本 ( No.5 )
日時: 2005/01/13 22:27
名前: 海ねこ

おっ!待ってましたっ「雫ベスト」♪
掲示板では時々か弱い「害獣?」海ねこをイビる「天敵?」のような雫さんですけど、でもそれを結構楽しみにしてたりして...。だから今年は健康に注意して舌鋒鋭く元気はつらつと海ねこいびりをしてくださいな。しか〜し、『灰色の魂』をベスト・ワンに見出してわたしはのけぞりましたわ〜 最近読んだばかりですけど、並み居る大作を押しのけて一位に輝くとはちょっと意外でした。でも、確かに雰囲気は独特のものがありましたね。冬に読むにはぴったり!
メンテ
Re: 2004年・雫の年間ベストほんやく本 ( No.6 )
日時: 2005/01/13 20:16
名前: mopsa
参照: http://granola.jfast1.net/

おお、ランド仲間よ(笑)好き嫌い分かれる作品だとは思いますが、とりあえず、読み終えたことをうぬ褒めしたくなるゴッツさでしたよね。
1位、3位、4位の本は、読む本リスト上位に上がっています。雫さんの折り紙つきとあれば頼もしさ倍増ですわー。とりわけ3位の『星』は、雫さんご鍾愛の『ケリー・ギャング』に似ているという、すみ&にえさんの評もあり、楽しみです。
メンテ
Re: 2004年・雫の年間ベストほんやく本 ( No.7 )
日時: 2005/01/14 02:01
名前: ベック

「灰色の魂」の1位は期待させますねえ。読むのが楽しみだな。ドイルも舌なめずりしております。きっと素晴らしいんだろうな。おや、気がつけば雫さんも長編主流のベスト10ではないですか。やはり昨年は長編作品にいいものが多かったってことですかね。
メンテ
Re: 2004年・雫の年間ベストほんやく本 ( No.8 )
日時: 2005/01/14 22:42
名前:

>海ねこさん
や、やだわ「イビる」だなんて「天敵」だなんて、人聞きの悪い……海ねこさんのボケがあんまり愛らしいからちょっとからかいたくなるだけじゃありませんか、そうね「鍾愛」というのかしら♪(↓を参照)
えーっ、海ねこさんも意外ですか『灰色の魂』……うーんそういえば、どなたも挙げてらっしゃらないのかな。

>mopsaさん
そうですよね、ランドは好き嫌いあるかも。私は夢中になりましたが、ケチつける人の気持ちもわからないでもない(笑)mopsaさんは『肩を〜』びいきでしたよね?私はあの70p余の演説がやはりネックで……(笑)
それにしてもmopsaさんてホント、難しい言葉をいろいろご存知ねっ♪「鍾愛」だなんて私ぜんぜん知らなくて、思わず辞書引いちゃいましたよ(笑)

>ベックさん
そうですねやっぱり印象に強く残ってくるのは長編かな。というか短篇はすぐ忘れる……(こらっ)
もちろん『灰色〜』もドイルもそうですが、ベックさんにはここはひとつ10位の『天使は〜』もオススメしておきたい!あのダメダメぶり、ベックさんならきっと笑ってしみじみしてくれるに違いない。
メンテ
Re: 2004年・雫の年間ベストほんやく本 ( No.9 )
日時: 2005/01/23 22:17
名前: おはな

ご不調にもかかわらず、さすが雫さん読むべきものは全て抑えてらっしゃるようですね。この中で共通既読本はたったの1冊‥しかし堂々1位の『灰色』です〜。あとの9冊はぜーんぶリクかーどには書いてあるんだけどという状態デス。『灰色』は語り手のスタンスから始まって全てが余りに絶妙で、この著者はもう2度とこんな風には書けないのでは‥?と余計な心配をしてるんです(笑)。普通では得難い感覚にあふれてましたね。
しかし、ぴんさら本が10冊並ぶと‥このように眩しいものであったかとしみじみ感じる次第。
メンテ
Re: 2004年・雫の年間ベストほんやく本 ( No.10 )
日時: 2005/01/25 21:39
名前:

あっおはなさんしばらくです〜。や、やばっ『眩暈』を読まずに返却しようとしているのがバレたか?(笑)
それはともかく、『灰色の魂』はほんと絶妙で完璧な感じでしたね。おはなさんのおっしゃる通り、著者への今後の期待というよりすでに心配してしまいたくなる感じさえいたしました。
え?新刊本が眩しい?実は匂いもよいのよ〜(笑)
メンテ

Page: 1 |