2003年上半期・グラニットのベストほんやく本 |
- 日時: 2003/07/04 22:15
- 名前: グラニット
- 既刊のミステリとSFが中心で、新刊は全くありません。乱読状態のため、質と方向性のばらつきが著しいのですが、ベスト3までは、胸を張ってお勧め出来る傑作です。4位以下は団子なので、12月末には、おそらく激しく入れ替わっているでしょう。
【1】アーシュラ・K・ル・グィン『所有せざる人々』(ハヤカワSF文庫)
宝石のように美しい最後の一文。主人公とともに長い旅路を終えて、ここに到達した読者は、等しく次の言葉を思い出すだろう――「真の旅は帰還である」。
【2】マーガレット・ミラー『これよりさき怪物領域』(ハヤカワポケミス)
『狙った獣』と同じ作者とはとても思えない、ねっとりとした作風。農場主はどこへ消えたか?泥土の底から浮かび上がった真相と、その結末は?いったい「どこから」怪物領域なのか?
【3】ポール・ギャリコ『愛のサーカス』(早川書房)
原題は「Love,Let me not hunger(愛よ我を餓えさせ給うな)」。サーカスを襲った天変地異と極限の飢餓。ストレートな作品が多いギャリコが底力を発揮。馬鹿すぎる主人公トービーも最後に救われる。
【4】ジョアン・ハリス『ショコラ』(角川文庫)
映画は原作をよく要約しており、変更点も光っていたが、ジプシーたちの描写に時間を裂けなかった。アルマンド婆さんの立ち位置も違う。原作では彼女は、ヴィアンヌと同じ側にいる「魔女」なのである。 【5】ジェイン・スタントン・ヒッチコック『目は嘘をつく』(ハヤカワミステリアスプレス)
真相の吸引力が不足して、「騙し絵」というモチーフには届いていないが、一読忘れがたい作品。とりわけ前半が素晴らしい。
【6】アーサー・C・クラーク『2001年宇宙の旅』(ハヤカワSF文庫)
個人を扱うのが文学なら、人類を扱うのがSFである。わずか300ページの中に込められた雄大な宇宙叙事詩。構成に難を残すのが惜しい。
【7】クリスチアナ・ブランド『自宅にて急逝』(ハヤカワポケミス)
本格ミステリ。利害と愛憎絡まる被疑者たちの奇妙な関係。トリックでは劣れども、この毒毒しいユーモアは、『ジェゼベルの死』を圧倒的に凌駕している。
【8】ネビル・シュート『パイド・パイパー』(創元推理文庫)
冒険小説であり、反戦小説であり、恋愛小説。
【9】ウィリアム・アイリッシュ『幻の女』(ハヤカワミステリ文庫)
ふっと体臭が匂うように、行間から都会の孤独を漂わせるアイリッシュ。同時に彼は優れた「映像」職人でもある。本作はその金字塔。
【10】ジェフリー・ディーヴァー『静寂の叫び』(新潮文庫)
ハリウッド・ジェットコースター・サスペンスも、ここまでやられると脱帽するしかない。
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