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2003年・グラニットの年間ベストほんやく本
日時: 2004/01/04 12:13
名前: グラニット
参照: http://kiltrog.fc2web.com/

ミステリー、SFを中心とした翻訳本149冊からのベスト10です。旧作ばっかりなんで全然他の人とかぶってないのが笑えますね。今年は古典文学作品もいっぱい読んでみようと考えています。手始めの予定は『月と六ペンス』『嵐が丘』。

■1位■
アーシュラ・K・ル・グィン『所有せざる人々』(ハヤカワSF文庫)
「1月という早い時期に読んだこと、過度の期待をしてなかったことなど、感想に有利な要素がいくつかあるが、それらを差し引いてなお、この作品は素晴らしい。おそらくどんな本好きにとっても、それを読んだことで1年が報われるというような一冊があるのではないか。ル・グィンは私の2003年に祝福をくれた。」

■2位■
ジェレマイア・ヒーリイ『つながれた山羊』(ハヤカワポケットミステリ)
「ハードボイルドを読むと、決まって居心地の悪さを感じる。その点は今作も変わらない。小粒で地味な作品だ。しかし、作者の確かな筆使いには信用が置ける。貧困に対するまなざし、主人公の深い悲しみ。何より感心するのは、テーマを奥深くする二つの事件の交錯だ。浅学にしてこういう決着のつけ方を、自分は他に知らない。」

■3位■
マーガレット・ミラー『これよりさき怪物領域』(ハヤカワポケットミステリ)
「ミラーの心理サスペンスが描いたのは、果てのない奈落を落ちていく不安感ではないのではないか。彼女の本領は多分、高いところから地面を見下ろしたときの眩暈、落差がもたらす一瞬の酩酊感だ。この本の最後にも、陥穽が口を開けている。一文で読者を飲み込み、物語に決着をつける。何という鮮やかさ!」

■4位■
リチャード・アダムズ『ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち』(評論社)
「評価のポイントは、ミクロ的視点の斬新さでも、SF的手法によるうさぎ文化の構築でもない(むしろこちらには妥協のあとが見られる)。本書の魅力は、キャラクターが単純極まりないにも関わらず、誰もが活き活きと輝いている点だ。これぞ物語の持つ原初的なパワーである。どのうさぎも優れた鋳型であり、誰もが彼らに似た友人を思い出すだろう。」

■5位■
エドワード・ケアリー『望楼館追想』(文芸春秋社)
「小説は文字だけを媒体にして物語を伝える。読者の五感に訴えるのは本当に難しい。作者は特に視覚を刺激することで我々を世界に引きずり込む。印象的な数々の小物は水先案内人である(本人が挿絵まで入れているのは少し反則だが)。私が特に好きなのは蝋人形館の試験シーンだ。人形が突然動き出し、立ち去る靴音までが聞こえるような気がした。」
メンテ

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Re: 2003年・グラニットの年間ベストほんやく本 ( No.1 )
日時: 2004/01/04 12:15
名前: グラニット
参照: http://kiltrog.fc2web.com/

■6位■
イアン・マクドナルド『火星夜想曲』(ハヤカワSF文庫)
「火星にひとつの街が出来、半世紀後に滅びるまでの物語である。5〜7ページ程度の短いエピソードを連ねていく手法で描かれており、投入されたイメージとアイデアが洪水のように襲ってくる(『所有せざる人々』の本歌取りを含む)。中盤以降の怒涛の展開はあまり好きではないが、読まずにおくには惜しい本だ。迷う人は、ためしに15章を読んでみるといい。」

■7位■
アーサー・ランサム『ツバメ号とアマゾン号』(岩波書店)
「優れた児童書は、大人と子供の視点、両方を有している。『ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち』は、物語の持つ力でそれを一まとめにしてみせた。ランサムの本書はそれに劣らないはなれわざだ――というのは、すれっからしの大人が、ごっこ遊びの興奮と感動を内側から描くのは、ほとんど不可能だからだ。しかし作者はやり遂げた。これは奇跡のような本である。」

■8位■
ジョアン・ハリス『ショコラ』(角川文庫)
「お菓子も魔女も背徳の臭いがする。甘いチョコを一粒口に入れる幸せ、それはもしかしたら、罪を人生のスパイスとして楽しんでしまおう、というオプティミズムなのではないか。だとしたら、この作品のある意味残酷な結末も理解できる。映画はもう少し話を単純にし、救いを差し伸べたため、まさに「大人のおとぎ話」となってしまった。どちらがよいかはその人次第。苦いのと甘いの、どっちがお好き?」

■9位■
ウィリアム・アイリッシュ『幻の女』(ハヤカワミステリ文庫)
「自分にとって、2つの意味で重要な作品だった。ミステリーの面白さを思い出させてくれたし、「古典侮るまじ」という教訓をくれたからである。とりわけ本書のように、名前が先行しがちな作品は、読んでもいないのに知った気になるものだ。物語だけでなく、演出のうまさにも注目したい。『幻の女』はサスペンスの教科書である。」

■10位■
スーザン・フロンバーグ・シェイファー『黒猫フーディーニの生活と意見』(新潮社)
「猫の魅力は二面性にあると思う。可愛いようで可愛くなく、賢そうで馬鹿である。漱石の何某は人間社会の観察者だったが、フーディーニはただの等身大の猫だ。いろいろと設定の不備が目につくのだが、猫の可愛くない可愛さを描いた本では一番のように思う。老犬との交流も印象的なので、犬好きの方にもお勧めしたい。」
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Re: 2003年・グラニットの年間ベストほんやく本 ( No.2 )
日時: 2004/01/05 02:28
名前: すみ&にえ
参照: http://park8.wakwak.com/~w22/

わ〜、アーシュラ・K・ル・グィン『所有せざる人々』が1位ですか。これもぜひ今年には読みたい本なんですよね。やっぱり絶対読まねばっ。
あとのも私たちが読んでない本が多いので、参考になります〜。あ、『ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち』は本当に凄かったですよね。
メンテ
Re: 2003年・グラニットの年間ベストほんやく本 ( No.3 )
日時: 2004/01/08 00:37
名前: グラニット
参照: http://kiltrog.fc2web.com/

私の嗜好をはなれてお勧めするならば、『所有せざる人々』、そして『火星夜想曲』でしょうか。二つともSFですが、どっちも文学色が濃いんですよ。またベクトルが全然べつで面白いんですが。

後者はどなたかが2002年ベストでセレクトしてらしたように思います。確か6〜8位でしたが、もしかしたら同じような感想かもしれない(笑)。中盤の「アレ」がなければ、ためらいなくベスト3にいれていいくらいの出来なんです。つまり、一個でっかいひっかかりがあるので、ベスト10には入るが、微妙な位置であると。これだけが他のランクづけと意味合いがすこし違います。すみ&にえさんには、2作とも同じくらいの推薦度でプッシュしておきます。解説によると『火星年代記』や『百年の孤独』も本歌取りしてあるようなので、私なんかよりよく理解されるのでは。
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Re: 2003年・グラニットの年間ベストほんやく本 ( No.4 )
日時: 2004/01/12 11:36
名前: もぐら

『所有せざる人々』、気になりますね。『言の葉の樹』と同じシリーズなのでしょうか?あ、調べればわかるか。これは今度入手します。『火星夜想曲』も。
『ショコラ』が入ってますね。『ブラックベリーワイン』は良かったのですが、こちらも良さそうですね。積ん読の前の候補に入れさせてもらいます。
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Re: 2003年・グラニットの年間ベストほんやく本 ( No.5 )
日時: 2004/01/12 23:38
名前: グラニット
参照: http://kiltrog.fc2web.com/

『所有せざる人々』と『言の葉の木』とは、ハイニッシュ・ユニバース(ハイン宇宙)シリーズとして、同じ背景世界を共有しています(言の葉の方は読んでないんですが)。このシリーズ、基本的にストーリー自体は別個の惑星で進むうえ、相互の影響が希薄なので、気にしないで何ら問題ありません。同じ日本でも、太閤記と義経記の関連は薄いですよね。そんな感じです(例えがあってないかもしれないですが)。

私は『ブラックベリーワイン』も未読ですが、こちらは『ショコラ』と同じ舞台であり、『ショコラ』後の村が描写されていると聞いています。
メンテ
Re: 2003年・グラニットの年間ベストほんやく本 ( No.6 )
日時: 2004/01/13 01:50
名前: もぐら

ショコラ>
そのようです。『ショコラ』があれだけ流行ってしまったのでなんか気後れしちゃってるんですよねぇ。『ブラックベリーワイン』は、後の話だってのを知らないで手にとって読んだら面白かったんですけど。
ル・グィンは、今『闇の左手』を読んでいますが、難しい、というより、ホントにじっくり読まないといけませんよね。しっかり書かれている、というか。『所有せざる人々』、今年の課題図書(笑)にします。
メンテ

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