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ロケットマンの2007年ベストほんやく本
日時: 2008/02/28 22:08
名前: ロケットマン

はじめまして。ときどき遊びにきていたロケットマンです。遅ればせながら、わたしの07年ベストを発表します。

1.百年の孤独 マルケス 鼓直 訳
なんともすごい終わり方ですね。ショパンのピアノソナタ葬送の最後のパッセージようだと思いました。時間とともにあの終わり方がなんども思い出されるようになりました。テーマは、現代人に愛は可能か?という風にわたしは読みました。それから、彼らしく、独裁者の行状をうまく書いています。アルキメデスを入れ替えたような脇役メルキアデス(でしたっけ?)も謎めいていて楽しい。訳文がまたすばらしい。

2.また会う日まで アービング
アービング・ファンにはうれしい一冊。いつも「父」を求めていた彼にとって、とても重要な作品だと思いました。ただ、展望のない、ロマンチックでもない性愛が頻出する部分を嫌う人もいるかも?(アメリカでもこの点は賛否半ばしたようです。)アービングにしては珍しく、悪役としての女性を描こうとしているところも面白い。子を思う父親の気持ちが切ないです。港や川の描写がいつもながら素敵です。 

3.カラマーゾフの兄弟 ドストエフスキー(フョードル・ミハイロヴィチ)亀山郁夫 訳
亀山訳は一気に読める明快さとテンポを保っていてすばらしいです。どこまで現代人の問題に答えたり挑発したり、気持ちを解き放ってくれるかというと、言われるほどのものではないのかもしれません。でもまあ、すごい文学です。

4.競売ナンバー49の叫び  トマス・ピンチョン 志村正雄 訳  筑摩書房
ピンチョンをはじめて読み、趣味が合わないところがあるなと思いつつも、かなわないな〜と、すごい作家が現代にいるものだなと感心しました。物語は、知り合いの大金持ちの遺言執行者に指定された普通のおばさんが、いろいろ現代的な冒険をして、自分を発見していくお話。アメリカの郵便事業の裏面史のからませ方や、現代(60年後半から70年代という感じですが)のカリフォルニアの描写が光っています。

5.エラスムス J.ホイジンガ
何年も読まずのほうってあった本ですが、いざ読んでみたら、面白く、拾い物でした。印刷術の黎明期に現れ、ギリシアやローマの古典をよみがえらせた大修辞家の評伝。強烈な個性の宗教改革者ルターに頼られながらも受け入れられない、現実政治にはどうしても飛び込めない、『痴愚礼賛』の著者エラスムス。政治にかかわりとうとうそのために命を絶ったトモスモアと強い友情で結ばれた、稀有なコスモポリタンの光と影を、これも第一級の文人ホイジンガが温かい目でしかし冷徹に書いています。歴史がお好きな人におすすめ。

6.フーコー・コレクション2 文学・侵犯  ミッシェル・フーコー ちくま学芸文庫
フーコーの文学理論が、彼らしいおしゃれでセンシティブな書き方でつづられています。共訳です。訳者によって読みやすかったり、妙に難解(ほとんど意味不明なぶぶんもある)になったり。

7.たいくつな話 浮気な女 チェーホフ  木村彰一 訳
表題のほか、4作品、スターリン時代のロシアを予言したかのような部分を含む重要な作品『殻にはいった男』、佳篇『アリアドナ』、初期の佳作『たわむれ』、初期の名作『コーラス・ガール』が入っています。登場人物もロシアの自然も見事に描写して読み手を厭きさせません。『浮気な女』は名作。これは、名訳者の池田健太郎訳が『短編と手紙』大人の本棚(みすず書房)にもありますが、わたしの読み比べでは、こちらの講談社文庫、木村彰一訳のほうが、現代的で読みやすいと感じました。

8.ヴェネツィアに死す トーマス・マン 岸美光 訳
大家にしてはじめて書ける無駄のない、緻密なすばらしい作品。マンなんかつまらないだろうと思っていたわたしは、有無を言わせず脱帽させられました。昔なんども見たヴィスコンティの名画を思い出しました。

9.浮世の画家 カズオ・イシグロ

86年に発表されている。イシグロは54年生まれだから、31、2歳のときの作品。「わたし」語りが、作品ごとにちがう人物によってなされ、作者の私生活の暴露がない点で私小説とはまったく違うが、彼はとにかく上手い。歴史の流れの中で人が犯してしまう誤りやそれの克服が日本の戦中、戦争直後の風物とともに、几帳面に綴られている。希望を抱かせる終わり方は良いが、でも、主人公の責任の取り方については、割り切れなさが残りました。『浮世の画家』はブッカー賞を一票差で逃したものの、ウイットブレッド・ブック・オブ・ザ・イヤーを87年1月に受賞している。訳者あとがき(飛田氏)も、解説(小野正嗣)いずれもすぐれている。

10.マダム・エドワルダ/目玉の話 バタイユ 中条省平訳

奇妙で背徳的な物語。宇宙的な広がりを感じる部分もある。ただ、ここに書かれているエロチックな行為と放縦は他の欲望と同じくとどまるところを知らないわけで、その先に何か人間にとって価値のあるもの、文化にとって意味のあるもの、豊かにするものがあると思えるかどうか?わたしはどうもこういうのは苦手です。でも完成度は高いと感じました。
メンテ

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Re: ロケットマンの2007年ベストほんやく本 ( No.1 )
日時: 2008/02/28 23:16
名前: すみ&にえ
参照: http://park8.wakwak.com/~w22/

ロケットマンさん、はじめまして、ご参加ありがとうございます♪

おおっ、1位は「百年の孤独」ですか。他のベストテンに選ばれた作品、作家のそれぞれの迫力を思えば、それでもやっぱり1位はってことにあらためて頷いてしまいますねえ。一生の間に、せめて三回ぐらいは読んでおきたい小説ですよね。
あ、ロケットマンさんもアーヴィング好きですか。嬉しいなあ。やっぱりアーヴィングがまだ健在だという、それだけでもう嬉しくなっちゃいますよね。
あと、私たち的には9位の「浮世の画家」に食いついちゃいますね。これって暗さやご指摘の割り切れなさのために、なかなかベストには選ばれない作品って気がしますが、やっぱりスゴイ作品ですよね。31、2歳で、よくまあ腰を据えてこういう作品が書けるものですよね。読者の嫌悪感とか、そういうものまで計算に入れて書いているようで、怖くなります。
メンテ
Re: ロケットマンの2007年ベストほんやく本 ( No.2 )
日時: 2008/02/28 23:45
名前: ロケットマン

うわっ、もうお返事、ありがとうございます。マルケスは読んでいたときは、年間ベストになるとは思いませんでした。終わってからじわじわときました。
イシグロの暗さはどこから来るのでしょうね?『わたしたちが孤児だったころ』が一番好き(最新作は、じつはまだ未見)ですが、あれも暗いですよ〜。ね。
アーヴィングは、これからももっと書いて欲しい人です。
今年はあまり本が読めないかもしれませんが、遊びによらせてもらいます。素敵なサイト運営、感謝感謝です。ではまた。
メンテ

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