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2003年・Shimizuの年間ベストほんやく本
日時: 2003/12/27 19:18
名前: Shimizu   <shimizu_11@hotmail.com>

今年読んだベスト翻訳本5冊。順位はつけられませんでした。

■「贖罪」 イアン・マキューアン
 19世紀の純文学を思わせる正統派作品。セシーリアとロビーの真実の結末を知ったときには、完璧に打ちのめされ、二人のために号泣しました。この作家は底が知れない。

■「灰色の輝ける贈り物」 アリステア・マクラウド
 この作品こそ、まさしくGolden Gift。何度も読み返す作品になるだろう。「夏の終わり」の”…話したい。…説明したい。…伝えたい。”と続くくだりなんかは、胸が熱くなってしまった。こんな作品を書いてしまう作者に、ほとんど惚れています。

■「エドウィン・マルハウス」 スティーヴン・ミルハウザー
 子ども特有の価値観・世界観、カタログ的記述と過剰に詳細な描写など、ミルハウザー・ワールド全開。エドウィンの死の真相と、ジェフリーがかいま見せる伝記作家としての異様な視線…。終盤で物語の様相が変容してしまう辺りは、凄いの一言。作家の天性が全て現れている、まさに奇蹟の書でしょ。

■「冬かぞえ」 バリー・ロペス
 静寂の中に深遠な孤独を感じさせるロペスの世界。「冬の鷺」にある、冬の夜ニューヨークの街頭に鷺が舞い降りるシーンなんて、美しすぎる。シーン自体がポエムだ。読者の想像力を信頼した、簡潔で抑制のきいた文章も好きです。

■「愛の続き」 イアン・マキューアン
 気球事故を描いた最初の3章だけで、ベスト翻訳本入りです。出だしが凄すぎるのだが、作品全体の出来も見事。パリーの狂気にジョーの狂気が加わって、最後まで一気に読ませてしまう。やはり「アムステルダム」よりこの作品がブッカー賞にふさわしいよね。


ベスト5には入らなかったものの、印象に残った作品。

□「蜘蛛女のキス」 マニュエル・プイグ
 作中で好きな映画の話をするモリーナの語り口がすばらしい。会話の妙とあいまって、とにかく読ませる。バレンティンと同様、蜘蛛の糸に完全にからめとられてしまった。

□「白の闇」 ジョセ・サラマーゴ
 作者は人間の理性と感情を極限状態にまで追い込み、人間のもつ醜い側面を次々に暴いていく。とにかく圧倒された作品です。

□「ボディ・アーティスト」 ドン・デリーロ
 全編に漂う何ともいえない緊張感と違和感。その文章は脆くて美しいガラス細工を思わせる。どの作品とも違う雰囲気を感じた。

□「存在の耐えられない軽さ」 ミラン・クンデラ
 小説としては、余計な哲学的考察が多すぎるとも思えるが、慣れてしまうと普通では物足りないクンデラ病になる。ダンス・フロアの最後のシーンがとてもいい。”幸福が悲しみの空間を満たした”って、もう心底しびれました。

□「ヒヤシンス・ブルーの少女」 スーザン・ヴリーランド
 絵を手放さざるおえない状況に陥っていく主人公たち。大きな時の流れと人生のはかなさを感じさせる。使い古された手法とはいえ、構成は見事です。唸るような凄みはないものの、胸を締めつけるような深い味わいがある。


ついでに短編集に入っている好きな作品も挙げておきます。

▼『三度目で最後の大陸』 ジュンパ・ラヒリ(「停電の夜に」より)
 短編でここまで人生を感じさせる作品はそうない。

▼『宮殿泥棒』 イーサン・ケイニン(「宮殿泥棒」より)
 この作家はとにかく巧い。普通の人の日常的な出来事だけで、すばらしい作品を書いてしまう。

▼『焚き火』 ジャック・ロンドン(「極北の地にて」より)
 火をつけることに生死がかかる極限状態。読んでてドキドキした。現代作家とは言いがたいが、まあいいでしょ。

▼『アウグスト・エッツェンブルグ』 スティーヴン・ミルハウザー(「イン・ザ・ペニー・アーケード」より)
 「マーティン・ドレスラーの夢」に共通するモチーフが見える。アウグストのパトロンとなるハウゼンシュタインの複雑で破滅的な性格描写は凄い。ちなみに、本書収録の『橇滑りパーティー』も秀逸。女の子の心理描写がすごい。


以上が、いまの時点での私的ベスト翻訳本です。この他にもすばらしい本が沢山あったのですが、個人的趣向を優先するとこうなりました。時期のズレた本もありますが、ご容赦を。


メンテ

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Re: 2003年・Shimizuの年間ベストほんやく本 ( No.1 )
日時: 2003/12/25 23:23
名前: すみ&にえ
参照: http://park8.wakwak.com/~w22/

うわ〜、読んでないジャック・ロンドン『焚き火』以外は、私たちにとっても大好き、大好きって叫んじゃう本ばかりで、逆になにを言ったらいいのやらって感じですね(^^;)(^_^;)
そうそう、イアン・マキューアンはまだ底を見せませんね〜。『贖罪』は驚きました。 アリステア・マクラウドは1冊でもう、私たちにとって神様です。『エドウィン・マルハウス』はもう、しばらく他の本読んでも身が入らないぐらい衝撃でした。『冬かぞえ』には余韻も圧倒されましたよね。『愛の続き』はそう、冒頭ですでにノックアウトされちゃいました。わ〜、もう意見まで一緒だっ♪ 『ヒヤシンス・ブルーの少女』をあげていただいてるのが、また嬉しいっ。良い小説でしたよね。
は〜、ホントきりがない。これほど好きな小説があうと、ニマニマし続けちゃいます〜。
メンテ
Re: 2003年・Shimizuの年間ベストほんやく本 ( No.2 )
日時: 2003/12/27 12:14
名前:

あっ、マクラウド……あっ、『冬かぞえ』。あああああ「そうだった、これも入れたかった」という後悔しきり(笑)ほんとうにベストを選ぶのって難しい。でもそんなこと言ってると、きりがありませんよねえ。

すみ&にえさんもおっしゃってますが、Shimizuさんが挙げてらっしゃる本、激しく好きなのばかりで、ホント良いご趣味ですね♪(笑)
個人的には、ミルハウザーは勿論、『ボディ・アーティスト』のコメントと、ケイニンが入っていたのが嬉しかったな。
メンテ
Re: 2003年・Shimizuの年間ベストほんやく本 ( No.3 )
日時: 2003/12/30 20:57
名前: H2
参照: http://www2.ocn.ne.jp/~h2tea/

はじめまして。わー、ミルハウザー!「エドウィン・マルハウス」ももちろんいいのですが、私は「アウグスト・エッツェンブルグ」が大好きなのです。
「灰色の輝ける贈り物」「冬かぞえ」など、私の好きな本がたくさんっ!!
そうだ、ジャック・ロンドン「極北の地にて」を読みたいと思っていたのでした。『焚き火』を読むのが楽しみです。
メンテ
Re: 2003年・Shimizuの年間ベストほんやく本 ( No.4 )
日時: 2004/01/02 13:31
名前: Shimizu

すみ&にえさん:
好きな本が一致すると、単純にうれしいですよね。それだけで分かり合えた気がする。(笑) 読書のツボがかなり似通っているという印象は、お二人がお勧めしている本を読み進めていくうちに感じておりました。密かに驚いていたくらいです。好きな本の話でもしたら、たぶん話の尽きることはないかも。(笑) 
HPの運営は大変でしょうけど、末永く続けて欲しいと思っております。

雫さん:
ベスト本を選ぶって難しいですよね。他の方のベストを見ると「あっ、この本も確かに良かった」って、再吟味したくなるし、時間が経つと本の印象も微妙に変わったりするし…。ホントきりがない。(笑)

H2さん:
ジャック・ロンドンの「極北の地にて」はいいですよ。自然の掟に従って生きるしかない人間の姿を、ロンドンは終始突き放した視線で捉えている。感動するとか広がりのある余韻が残るとかいう本ではないけれども、人間の生死を見つめざるおえなくなる。「焚き火」のリアリティには参りますよ、きっと! 
メンテ

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