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2006年上半期・エラーのベストほんやく本
日時: 2006/10/05 17:10
名前: エラー

お邪魔かと思いましたが、今さらながら投稿させて戴きます。小説以外は対象外だとわかっているのに「ベストほんやく本」だからと入れた本もあります。読んだ順です。

ジャレド・ダイアモンド『文明崩壊』
前作『銃・病原菌・鉄』で、近代文明は何故ヨーロッパでしか発展しなかったのかと言う設問に説得力のある解答を与えて、読書界を驚嘆させたジャレド・ダイアモンドの最新刊です。今作では、環境のコントロールに失敗して滅んだ文明と、逆に成功して栄えた文明の違いを解明し、現代文明がそのどちらに向かうのかを探ります。しかし、前作を絶賛したインテリの方々からは、全ての原因を環境破壊に帰するのはいかがなものかと言った批判も出ています。

スティーヴン・レヴィット/スティーヴン・ダブナー『ヤバい経済学』
ここに挙げた何冊かの本の中では一番好きな本です。「ちょいワル」なスタイルで通俗社会学に異を唱えるパオロ・マッツァリーノの『反社会学講座』と感じが似ていますが、こっちの方が2・3枚上手かと。大相撲が八百長である事や、ニューヨークの犯罪を減らしたとされる「破れ窓理論」が、実は正しくない事などを次々と明かして行きます。統計学を駆使していますが、本の中にはムズかしい数字は出て来ません。

トム・リーミイ『沈黙の声』
サンリオSF文庫からちくま文庫に移った何冊かの内の一冊です。作者のトム・リーミイには、同じくサンリオSF文庫に『サンディエゴ・ライトフット・スー』と言う作品もあって、これは『ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ』と同じくらいリズミカルなタイトルで好きです。もっとも、ル・カレのは「ティンカー・テイラー・ソルジャー・セイラー」のもじりですが・・・。リーミイの作風はブラッドベリと比較されることが多いらしく、確かに『沈黙の声』はかなりそれっぽいですが、もうひとつ、70年代アメリカ西海岸のテイストがリーミイの特色で、それは『サンディエゴ〜』の方に顕著です。『サンディエゴ〜』を読むとこの作家はゲイだなと感じます。それはともかく、この『沈黙の声』と、ブラッドベリの『何かが道をやって来る』、スタージョンの『夢見る宝石』は、アメリカの三大サーカス小説だと思います。・・・あ、『ラーオ博士のサーカス』を忘れてた。

アッレッホ・カルペンティエール『バロック協奏曲』
もうひとつサンリオSF文庫です。世評高く、古本屋でも滅多に見かけない本でしたが、全文を掲載してくれたサイトがあるので読んで見ました。技巧を凝らした作品で、中編程度の長さに膨大な内容が凝縮されているのですが、次々と開陳されるテクニックの羅列に手品師のショーにでもつき合わされている気がして、ちょっと辟易してしまったのですが、やっと読めたという事で・・・。私はカルペンティエールの作品では、あとは『この世の王国』(1949年)と『ハープと影』(1979年)しか読んでいなくて、『バロック協奏曲』は1974年の作品ですが、これらの3作品を比べて見ると、誰だったかが、カルペンティエールは段々悪くなって行ったと言っていたのには肯ける気がしました。この本の翻訳者である鼓直さんは解説の中で、日本語への翻訳が多いカルペンティエールの「持てはやされ方は幸運としか言いようがない」とおっしゃっています。それに引き換えホセ・レサマ=リマなど未だに翻訳が無い、と。ホセ・レサマ=リマって誰なのかと思いましたが、カルペンティエールと並ぶキューバ前衛文学の雄で、代表作の『パラディソ』が国書刊行会から永遠に刊行予定らしいです。

バルザック『ふくろう党』
「おじさん」として有名な内田樹さんによると、男も『若草物語』や『赤毛のアン』の様な「少女小説」を幼いうちに読んで、少女の恋心に同一化出来る様になるべきだそうです。さもないと「物語のもたらす悦楽の半分をあらかじめ失って」しまうのだとか。でも、そんな少女趣味な人には、バルザックの小説世界のとことん世俗的な容赦なさを楽しんだりは出来ないのではないかなと思ったりします。

J・G・バラード『楽園への疾走』
バラードの文体はリアリズムなのに変にまわりくどいので、SFファンでも苦手とする人が多いのですが、私は好きです。『楽園への疾走』は近作の『コカイン・ナイト』や『スーパー・カンヌ』以前の作品で、内容的には、閉塞状況で人間性が崩壊して行く過程を可能性としても捉える、みたいないつものパターンなので、環境破壊を扱っているのはただのネタだろうと思って読んでいたら、本当にネタだったのですが、その意味合いが違いました。これをバラードの代表作と呼ぶのは無理かなとは思いますが、あまりに図式的過ぎると思われる最近の作品とは違った複雑さを備えた作品ではないでしょうか。あと、バラードの小説はタイトルがかっこいいですね。 原題 “Rushing to Paradise”。

サイモン・シン『ビッグ・バン宇宙論』
『フェルマーの最終定理』と『暗号解読』で有名なサイモン・シンの第3作です。今さらビッグ・バンかよとつい思っていしまったのですが、知らないエピソード満載でした。今後、宇宙論の入門書として定番になるでしょう。でも次はもっとニッチを狙って欲しいです。

カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』
みなさん挙げておられるので私も入れて見ました。私はこの本を読む前にカズオ・イシグロの最近のインタビューを読んでいて、その中で彼が村上春樹は重要な作家だと強調しているのがよくわからなかったのですが、なるほど『わたしを離さないで』は最近の村上春樹と方向性が似ていますね。高級ライトノベルと言うか・・・。少年少女の三角関係の話だもんな。読んでいてゲンナリさせられる事もありましたが、文章の魅力のおかげで読み切る事が出来ました。所で、この小説ではクローン人間が臓器移植に使わる社会が描かれていて、そんな乱暴なことがどうして許されているのか、私には気になって仕方が無かったのですが、最後まで読んでもそれは全くわからないんですね。多分、作者もそこらへんはあまり考えていないのでしょう・・・。クローン技術の成立とその臓器移植への適用がなされている以外は1970年代(?)と同一の社会を舞台にする事で、メンドクサイ問題をうまく避けていると思います。あと、語り手の愚かさが功を奏していますね。おかげで、小説の設定が曖昧な訳では無く、語り手には見通せない事情があるのだ、みたいな言い訳が出来そうです。語り手が語る内容と読者の認識の間に齟齬を生じさせるのは『日の名残り』でも用いられていたテクニックですが、今回のそれは『日の名残り』よりも成功しているでしょうか?ともかく、作者が追求したかったのは、特異な環境下に生育した主人公の少女たちの運命だけで、あとの事は意匠に過ぎないのだろうと思いました。「臓器移植=過酷な運命」に過ぎません。柴田元幸さんは、この小説が生命倫理について考えるきっかけになればいいみたいな事を解説の中でおっしゃっていますが(うろ覚えです、本が手元に無いので・・・)、そんなのを「教師風を吹かせる」と言うのでは?ま、何にせよ、主人公の少女たちが何故逃亡しないのか、実はこれが私には一番の謎でした。
メンテ

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Re: 2006年上半期・エラーのベストほんやく本 ( No.1 )
日時: 2006/07/19 03:40
名前: すみ&にえ
参照: http://park8.wakwak.com/~w22/

エラーさん、ご参加ありがとうございます♪ お邪魔なんてとんでもない。あ、小説じゃなくてもぜんぜんOK、大歓迎ですよ。ただ、ビジネス書なんかを10冊並べられたりすると、はあ、そうですかとしかレスが書けなくなりますが(笑)

わわ、初っぱなから知らない作家さんの知らない作品です。ジャレド・ダイアモンドですか。あわてて調べたら、ピューリッツァー賞など数々の賞をおとりになっていて、すでに翻訳本も何冊か出ている方なのですね。タイトルで難しそうと思ってしまったけれど、内容紹介を見たら、意外と興味深い感じで、読んでみたくなりました。読むなら、まずは『銃・病原菌・鉄』ですね。
他にも、知らない方が多くて参考になります〜っ。
メンテ
Re: 2006年上半期・エラーのベストほんやく本 ( No.2 )
日時: 2006/09/24 12:24
名前: エラー

暇つぶしにちょっと書き変えてみました。付け加えた本もあります。
メンテ

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