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2005年・けーはいの年間ベストほんやく本
日時: 2006/01/03 22:06
名前: けーはい

今年のベストは一位「肉桂色の店」、二位「イン・ザ・ペニーアーケード」、三位「バーナム博物館」、四位「三つの小さな王国」、五位「砂時計サナトリウム」、六位「エドウィン・マルハウス」で、個人的にはほぼ永久欠番状態なのですが、あえてシュルツ・ミルハウザーの私的二大巨頭を省くと―

一位「外套」ゴーゴリ
前もってラヒリとノルシュティンの熱い賛辞を読んでいなかったら、凄さがわからなかったかもしれない。些細な小品なのに、これぞ文学!と思わず快哉を上げたくなる古典。村上春樹の登場人物ばりに、ひきこもりで、自己完結型の万年書記をめぐる悲劇。
意匠はオーソドックスなものと違えど、よく見ればまぎれもない芸術家モノの変奏。訳(僕が読んだのは船木裕訳)も良ければ挿絵も凄い。幻想的な霧の都ペテルブルグが目の前に浮かびあがってきそうだ。一緒に収められた「鼻」も小躍りしたくなるほど見事な出来栄えでした。

二位「ヤーコブ・フォン・グンテン」ローベルト・ヴァルザー
現在ではカフカに影響を与えたことでのみ有名な、スイスの作家ローベルト・ウ゛ァルザーの長編小説。とるにたらない人間になるべくひたすら成熟を拒み続けるそのありようは、もともとドイツ教養小説のパロディなのだろうけど、このねじけたモラトリアム来賛は現代日本でこそ輝くんじゃなかろうか。

三位「その名にちなんで」ジュンパ・ラヒリ
ミルハウザーやシュルツの場合、モノの描写が執拗に続くのはフェティシズムや支配欲や妄想と密接に結びついている気がするが、そういう感情から自由な立場でモノの描写を精緻に組み立てられるのは、やっぱり女性の(あるいは移民二世という特殊な環境下にいる人たちの)特権なんだろうか。倫理的に見ればこっちの描写の方が、ミルハウザーやシュルツより断然正しいあり方ではあると思う。(でもまあ、ミルハウザーとシュルツのほうが好きですが。文学世界においてのみ、わがままなのは悪じゃない!)

また絵本だけでベストを組むと―
一位「三つの金の鍵ー魔法のプラハ」ピーター・シス
絵本とは思えない大量の薀蓄に満ちた、精緻に描きこまれた闇と夢のプラハ。
二位「きりのなかのはりねずみ」ユーリ・ノルシュティン
繊細なロシアの霧に包まれた森を旅するうちに、いつのまにかはりねずみを追体験してしまう傑作絵本。
三位「蒼い時」エドワード・ゴーリー
何を言っているのかさっぱりわからないにもかかわらず、読んだ後不思議に知的な気分になれる絵本。「ギャシュリーグラムのちびっ子たち」とどっちにしようか迷ったが、より知名度の低そうなこっちを。
メンテ

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Re: 2005年・けーはいの年間ベストほんやく本 ( No.1 )
日時: 2006/01/04 22:29
名前: すみ&にえ
参照: http://park8.wakwak.com/~w22/

けーはいさん、ベストご参加ありがとうございます。

なるほど、他と並べられない特別な作家は別として、の選出ですね。ローベルト・ヴァルザーは私たちもぜひ読もうと思います。「きりのなかのはりねずみ」はアニメが見たい〜っ。「その名にちなんで」評の文学論(?)については、なるほど、と深く納得でございます。たしかにそうですね〜。
メンテ

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