すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
マーガレット・ミラー 
1915年、カナダ生まれ。1938年、作家ロス・マクドナルドと結婚。 1941年デビュー。1955年、『狙った獣』でMWA最優秀長編賞受賞。のちに、MWAの会長となる。 1983年、MWAグランド・マスター賞受賞。1994年没。
にえ この人の場合、私は正直なところ、 『ミランダ殺し』以外の作品は、それほど高く評価はしてないんだよね。
すみ 紹介しといて、けなしますか(笑)
にえ 時代的にほんの少し古い作家だってことも あるんだろうけど、狂気ものも、サスペンスものも、なんかこう全体的にゆるい感じがする。
すみ ゆるいって?
にえ 流れもやや緩慢だし、全体のストーリー にもメリハリがちょっと欠けてて、高く上がってからガンと突き落とすっていうような読みごたえもない し、オチもきいてないし。
すみ でも、読みやすいよねえ。
にえ なんかねえ、品が良すぎるのかもしれな い。手でつかんで食べたほうが美味しいよって言われても、ナイフとフォークを使わないと食事ができない ような、そういう捨てきれないさのようなものを彼女には感じてしまう、だから中途半端な気がする。
すみ じゃあ、なんで何冊も読んだのよ。
にえ そこがおもしろいところで、そういう品の良さに惹かれちゃうのよ(笑)
すみ なんじゃ、そりゃ。でも、たしかに 『ミランダ殺し』はおもしろいし、私も彼女の作品のなかでは、これが一番好きかな。もっとこういう 作品を書いてくれてればよかったのに。
にえ あるのかもしれないけどね。私たちが 読んでないのかもしれないし、和訳されてないのかもしれないし。
すみ あ、わかった。ほら、書き上げたら、 やっぱり旦那様が読むじゃない。その時あんまりキッツイこと書いてあると、「てめぇ、ふだんは上品 ぶってやがるが、腹の底真っ黒じゃねえか」とか言われちゃうからじゃない?
にえ そんなにレベルの低い夫婦とは思わないけど(笑)
すみ ただね、レンデルの雰囲気は好きだけど、 あのネチネチには堪えられないって人は、マーガレット・ミラーのほうが読みやすいんじゃない の? 独自の美意識、世界観みたいなものは感じられて、物足りなくても私は嫌いじゃないよ。
にえ まあね。狂ってる人を書いてても、 妙に美しい感じがして、嫌悪感はわかないよね。これはこれでいいのかもしれない(笑)
  
「ミランダ殺し」    <東京創元社 文庫本>

会員制のビーチ・クラブに集まるのは変な人ばかり。匿名の中傷文の執筆にいそしむ偏屈な老人、 マフィアにコネがあると称する9歳の悪ガキ、寄る年波に必死の抵抗を試みる美貌の未亡人。 そのビーチ・クラブで、未亡人ミランダが姿を隠し、亡き夫の遺言を預かる弁護士アラゴンが彼女の 行方を探す。ユーモラスな話のようで、うしろには悲劇が控えている、これは本当に上質のミステリです。
「心憑かれて」     <東京創元社 単行本>

少女に対する性犯罪の前科を持つ32歳のチャーリーは、兄の保護監督下で倉庫番として地味に暮らして いたが、学校の校庭で遊ぶ一人の活発な少女から目が離せなくなっていく。チャーリーだけでなく、他の 人々も精神的に病んでいる印象で、狂気が描かれまくってますが、そのわりにやんわりとした印象の本 です。
「耳をすます壁」     <東京創元社 文庫本>

思いたってメキシコ旅行に出かけたエイミーとウィルマ。ありふれた旅路となるはずだったが、滞在なかば ウィルマがホテルのバルコニーから墜落死。居合わせたエイミーも失踪。私立探偵ドッドが捜査に乗り出す。 狂気ものに比べれば、こういう作品のほうがまだいいような気はします。
「見知らぬ者の墓」     <東京創元社 文庫本>

断崖の突端に立っていた墓碑を見て、デイジーは驚愕した。なんと、銘板には自分の名前が刻まれている。 没年月日は四年前。それは奇妙な夢だった。デイジーは私立探偵ピニャータの助けを借り、4年前の その日を探ってみることにした。他の作家の作品にも、「自分の墓もの」と名付けたくなるほど、この種の 設定は多いですね。印象は薄いですが、それなりにおもしろかったです。
「マ−メイド」     <東京創元社 文庫本>

自称22歳のクリーオウは、とある風の強い午後、スメドラー法律事務所を訪れた。謎めいた台詞を残して クリーオウが去ったあと、娘が失踪した、と知らせが届く。捜索に駆り出されたアラゴンだったが。 クリーオウや他の人々の精神状態もあやういが、設定もあやういし、物語の成立度合いもあやうい。 妙に美しい印象だけがあとまで残る作品です。
「狙った獣」     <東京創元社 文庫本>

ヘレンのもとに、おかしな電話がかかってきた。友人だというその女は、はじめおだやかだったが、 話すほどに悪意をむきだし、しまいにはヘレンの死をほのめかすような予言めいたことを言う。 不安になったヘレンは、相談役に助言を求める。それほど鬼気迫らない心理サスペンスです。
「殺す風」     <東京創元社 文庫本>

ロン・ギャラウェイが消息を絶った。妻と前妻のことで言い争い、土産をせがむ幼い息子二人に おやすみを言い、めまいのする体をひきずって友達の待つ別荘へと向かい、それきり、いなくなったのだ。 ロンの行方を捜すとき、隠れた物語が浮かびあがる。他人事の悲劇として、淡々と読めます。