すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「時の娘」 ジョセフィン・テイ (イギリス)  <早川書房 文庫本> 【Amazon】
マンホールに落ちて入院中のグラント警部は、女優マータが暇つぶしにと持ってきてくれた数枚の肖像 画のなかの、リチャード三世の絵に目を留めた。リチャード三世はイギリスの国王にして、甥二人を殺した 極悪人といわれているが、その表情は悪人のそれとはまったく異なっていた。マータの紹介でアメリカ青年 の助手を得て、真相を調べるグラントだが。
にえ 主人公のグラント警部はベッドで寝たまま。こういうのを安楽椅子探偵っていうんだね。
すみ ただ、推理するのは殺人事件じゃなくて、歴史の謎。
にえ 15世紀に兄の跡を継ぎ、国王となったリチャード三世は、 自分が王になりたいばかりに、兄の息子である少年二人を殺してしまった。これはイギリスでは教科書にも 載ってるくらい公然の事実らしいね。
すみ 私たちは知らなかったけどね。なにせ地理と歴史は超苦手で、 世界史は一番最初に捨てた人たちですから(笑)
にえ 本文中にお医者さんが出てきて、歴史の授業では机の下で、 こっそり幾何学の本を広げて読んでたって言うんだけど、私もまさにそのタイプ(笑)
すみ そんな私たちですから、日本人としては、リチャード三世を 知っているのが常識なのかどうかもわからない。
にえ まあ、とにかく悪名高き国王みたいね。
すみ でも、調べていくとなんだか違うってのがこの本の流れ。
にえ 教科書で読んでるイギリスの人たちは、けっこうビックリしたんだろうね、この本読んだとき。
すみ うん、当たり前に信じてたことが覆されちゃうんだもんね。
にえ あと、この本を読んでると、不思議な気分になってくる。 大虐殺をした人が、現在の歴史では英雄として伝えられてたり、一人の人の感じたことが、そのまま常識 として伝わっていたり。
すみ 疑問を持たずに、当たり前だと思ってたことを足もとから揺り 動かされちゃうおもしろさだろうね。
にえ だから私は歴史が嫌いだったのよ。数学ってさ、一つの公式を 覚えただけで、どこまでも広がっていろんな問題が解けていくでしょ、だからお得な気がして覚えようって 気になるの。でも、歴史っていくら学んでも、実際あったことのほんの一部でしょ、結局どんなに努力して も、すべてを知ることができないの。スッゴイ損した気分がしちゃう。
すみ う〜ん、損得勘定だけで勉強しちゃいけないんじゃない(笑)
にえ まあ、それはいいとして、この本はいかにも女性が書いたって 雰囲気の漂う、柔らかい口当たり。
すみ 登場人物にしても、賢くて、ちょっと自己中心的なところもま た魅力の女優とか、人に尽くすことを生き甲斐にしている大柄の看護婦とか、いい感じの人ばっかりで、 いやな奴は出てこないよね。
にえ で、助手の青年ブレントが、病室にやってきて調査したことを 報告する。つまりグラントとブレントの会話が歴史の謎を解いていくのよね。
すみ つまりは、良くできた論文を小説形式にして、とっつきやすくしたって感じ。
にえ ただ、作者の言いたいことは、リチャード三世の誤解を解くっ てことじゃなくて、歴史ってなんなのよ、なんでも鵜呑みにしていいのっていう問題提起だった。
すみ 歴史を好きな人は、スッゴク考えさせられるんじゃないかな。 というわけで、とても良くできた小説。
にえ ただ、私はあんまり好きじゃなかった。歴史の部分が動きが なくて、大人数の名前は出てくるし、ひたすら同じ話の蒸し返しで、読んでてだんだんどうでもよくなっ てきてしまった。
すみ ブツブツ切れるのも、ちと辛かったよね。論文か、小説か、 どっちか一方だけのほうが私たちには楽だったかも。それか、歴史部分が登場人物に動きのある物語 だったら、もうちょっと助かったんだけどね。
にえ やっぱり多少なりとも、イギリスの歴史に興味ぐらいはあると か、王家の歴史とか薔薇戦争だとかの話が好きだとか、そういう人が読んだほうがいいかもね。私は読んでて、知恵熱が出そうだった(笑)
すみ じゃ、多少なりとも歴史がお好きな方にはオススメってことで。 私たちはゴメンナサイでしたっ。