=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「時の娘」 ジョセフィン・テイ (イギリス)
<早川書房 文庫本> 【Amazon】
マンホールに落ちて入院中のグラント警部は、女優マータが暇つぶしにと持ってきてくれた数枚の肖像 画のなかの、リチャード三世の絵に目を留めた。リチャード三世はイギリスの国王にして、甥二人を殺した 極悪人といわれているが、その表情は悪人のそれとはまったく異なっていた。マータの紹介でアメリカ青年 の助手を得て、真相を調べるグラントだが。 | |
主人公のグラント警部はベッドで寝たまま。こういうのを安楽椅子探偵っていうんだね。 | |
ただ、推理するのは殺人事件じゃなくて、歴史の謎。 | |
15世紀に兄の跡を継ぎ、国王となったリチャード三世は、 自分が王になりたいばかりに、兄の息子である少年二人を殺してしまった。これはイギリスでは教科書にも 載ってるくらい公然の事実らしいね。 | |
私たちは知らなかったけどね。なにせ地理と歴史は超苦手で、 世界史は一番最初に捨てた人たちですから(笑) | |
本文中にお医者さんが出てきて、歴史の授業では机の下で、 こっそり幾何学の本を広げて読んでたって言うんだけど、私もまさにそのタイプ(笑) | |
そんな私たちですから、日本人としては、リチャード三世を 知っているのが常識なのかどうかもわからない。 | |
まあ、とにかく悪名高き国王みたいね。 | |
でも、調べていくとなんだか違うってのがこの本の流れ。 | |
教科書で読んでるイギリスの人たちは、けっこうビックリしたんだろうね、この本読んだとき。 | |
うん、当たり前に信じてたことが覆されちゃうんだもんね。 | |
あと、この本を読んでると、不思議な気分になってくる。 大虐殺をした人が、現在の歴史では英雄として伝えられてたり、一人の人の感じたことが、そのまま常識 として伝わっていたり。 | |
疑問を持たずに、当たり前だと思ってたことを足もとから揺り 動かされちゃうおもしろさだろうね。 | |
だから私は歴史が嫌いだったのよ。数学ってさ、一つの公式を 覚えただけで、どこまでも広がっていろんな問題が解けていくでしょ、だからお得な気がして覚えようって 気になるの。でも、歴史っていくら学んでも、実際あったことのほんの一部でしょ、結局どんなに努力して も、すべてを知ることができないの。スッゴイ損した気分がしちゃう。 | |
う〜ん、損得勘定だけで勉強しちゃいけないんじゃない(笑) | |
まあ、それはいいとして、この本はいかにも女性が書いたって 雰囲気の漂う、柔らかい口当たり。 | |
登場人物にしても、賢くて、ちょっと自己中心的なところもま た魅力の女優とか、人に尽くすことを生き甲斐にしている大柄の看護婦とか、いい感じの人ばっかりで、 いやな奴は出てこないよね。 | |
で、助手の青年ブレントが、病室にやってきて調査したことを 報告する。つまりグラントとブレントの会話が歴史の謎を解いていくのよね。 | |
つまりは、良くできた論文を小説形式にして、とっつきやすくしたって感じ。 | |
ただ、作者の言いたいことは、リチャード三世の誤解を解くっ てことじゃなくて、歴史ってなんなのよ、なんでも鵜呑みにしていいのっていう問題提起だった。 | |
歴史を好きな人は、スッゴク考えさせられるんじゃないかな。 というわけで、とても良くできた小説。 | |
ただ、私はあんまり好きじゃなかった。歴史の部分が動きが なくて、大人数の名前は出てくるし、ひたすら同じ話の蒸し返しで、読んでてだんだんどうでもよくなっ てきてしまった。 | |
ブツブツ切れるのも、ちと辛かったよね。論文か、小説か、 どっちか一方だけのほうが私たちには楽だったかも。それか、歴史部分が登場人物に動きのある物語 だったら、もうちょっと助かったんだけどね。 | |
やっぱり多少なりとも、イギリスの歴史に興味ぐらいはあると か、王家の歴史とか薔薇戦争だとかの話が好きだとか、そういう人が読んだほうがいいかもね。私は読んでて、知恵熱が出そうだった(笑) | |
じゃ、多少なりとも歴史がお好きな方にはオススメってことで。 私たちはゴメンナサイでしたっ。 | |