=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「鏡のなかの鏡」 ミヒャエル・エンデ (ドイツ)
<岩波書店 文庫本> 【Amazon】
題名もない、ごく短い30の大人向けの幻想短編小説。(1)どこかの世界から、呼びかけてくるホル。 (2)師匠である父のもとで、翼をつくった息子。(3)ほこりをかぶった相続人たちに追い出されそうな 屋根裏部屋の住人。(4)通過駅でありながら、二度と出られない駅。(5)ここがどこなのかわからない まま、幕のうしろで待つ踊り子。(6)大切な言葉を失って彷徨う集団と貴婦人。(7)夜の森の空き地で 起きた殺戮の証人。(8)激しく言い争う法廷の傍聴席に座っている大きな天使。(9)いびきをかいて寝 ているあいだに三人の子供を出産する奥さん。(10)回転する丸テーブルで言い争う二人の男。(11) 帰郷した天使の殺し屋。(12)片側からしか建設していない橋。(13)ぼろぼろの服を着て砂漠を行進 する花婿。(14)城で行われた婚礼の客は踊る炎。(15)凍った空を滑るスケーター。(16)文字だ けで出来ている紳士。(17)羊を強要する血まみれの肉屋の集団。(18)窓のない建物の展覧会に行っ た夫婦。(19)食べ続けていないと太るデブの婦人などを見学する青年医師。(20)市街電車に乗る魚 の眼をした男。(21)白馬に乗った乞食と売春宮殿の娼婦の女王。(22)世界旅行者が女郎屋で少女に もらう宝物。(23)空から落ちてきた綱渡りとマストで出会った半盲の老船乗り。(24)黒い空と果て しない砂漠にある人の住めない国の無人の都市の真ん中に立つ少年。(25)坊ちゃんと坊ちゃんに仕える ジン(イスラム教の善も悪もいる霊鬼)。(26)先生が来ないけど出られない教室にいる生徒たち。( 27)王座に縛りつけられているために殺される王を演じる老役者。(28)閉じこめられたひげの独裁者。 (29)サーカステントの火事のなか、舞台に一人立つ道化(クラウン)。(30)どこにも通じていない扉を守る門番たち。 | |
私たちがつけた粗筋を最後まで読んだ方、ご苦労様。途中で読み飛ばした方、どうぞお気になさらずに(笑) | |
ぜんぶ独立した話だから、縮めようがなかったよね。 | |
短いものは2ページ程度、長くても20ページぐらいまで、そういう短編集です。 | |
それに、ミヒャエル・エンデのお父様、エトガルさんの19の絵がついてます。 | |
絵は遺品だから、別にこの本のための挿絵でもなく、絵から ストーリーが生まれたってわけでもないのよね。 | |
ただ、この絵があってよかったよね。この絵がなかったら、 ミヒャエル・エンデがこの本で、何をしようとしていたかわからなかったと思う。 | |
エトガルさんの絵はシュールレアリズム。シュールレアリ ズムとは超現実主義、写実を排して現実を超越した世界に真実を得ようとする芸術の傾向。つまり、 この本はシュールレアリズムの文章版ってことよね。 | |
そうそう、時間も空間も歪んでるっていうか、超越してるっ ていうか。高熱を出したときの悪夢みたいな感じよね。 | |
私は正直に言うと読みはじめ、ミヒャエル・エンデって薬物中 毒なんじゃないの? と思ってしまった(笑) | |
とにかくグニャグニャと場面の移り変わる感じとか、不毛な 会話とか、異常な登場人物たちとか、正常な精神状態とは思えないような歪ませっぷりよね。 | |
それがネチネチしつこくは書かれてなくて、妙に冷めた感じに 書かれてて、なんだかやけにおもしろかったな〜。 | |
うん、私も好き。子どもの頃から風邪で熱が上がってくると、 おもしろい夢が見られるんじゃないかってワクワクしてたもん、だからこの本も好き(笑) | |
大人向けだから、売春だの娼婦だのって言葉も平気で出てき て、エンデさんも楽しんで書いたんだろうな〜と思えたよね。 | |
そうそう、(22)の女郎屋で少女がくれる宝物ってなんで しょう、あれしかないよな〜みたいな暗示はちょっとイヤらしい笑みを浮かべて読んでしまった。 | |
そういう遊び心もきいてたよね。(24)の誰もいない都市に 一人いる少年は誰でしょう、なんてのも。読みはじめで、お、これはもしかしてあの人? おお、やっぱり やっぱりそうか、ってムフフな感じ。 | |
でもさ、(1)〜(20)までの話は、もう悪夢そのもので、 途中から次々に話が変わっていくような不思議感があったけど、(21)以降はわりと話に一貫性があって、 起承転結までとは言わないものの、急にわかりやすくなったよね。 | |
あとで思うと、あそこから漂っていたものを軌道に乗せたって いうか、まとめとも言える(30)にうまく導かれちゃったよね。 | |
うん、こういう短い話の集まりですから、当然(30)は(1) につながり、本の中をグルグル回ることになるだろうなという予想通りに、最後はけっこうキッチリという か、チャッカリというか、そつなくまとめてました。 | |
さすがドイツ人(笑) | |
これ1冊で、絵と文を楽しめば、シュールレアリズムがわかったような気になれるよね。 | |
なれる、なれる。ちなみに私は、あとがきで親が芸術家で、 ミヒャエル・エンデは子供もいなくて、奥さんは女優さんだったと知って、かってに描いてた人物像を かなり変更することもできた。 | |
加えるならば、前は映画・演劇評論家で、自分でも俳優や 脚本をこなすし、政治についても語るし、経済学者でも哲学者でもあった人のようだね。 | |
そうなんだ、知らなかった〜。でも、あなたに教えてもらうと異常にムカツク(笑) | |