すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「停電の夜に」 ジュンパ・ラヒリ (アメリカ)  <新潮社 文庫本> 【Amazon】
ジュンパ・ラヒリは1967年ロンドンに生まれ、アメリカで育った。両親はともにインド人(正 確に言えば、カルカッタ出身のベンガル人)。そんなラヒリが、アメリカに暮らすインド人を、インドに暮 らすインド人を、インド人と知り合ったアメリカ人を主人公に書いた9つの短編集。
にえ 私は読む前、完全に勘違いしてた。まず、男性作家かと思っちゃってた。
すみ 女性だったのよね〜。しかも写真で見るかぎりは、そうとうな美人。インドの女性って、なんでこんなに綺麗なんでしょ、うらやましい。
にえ で、白人が中心のちょっとスカした感じの短編集かと思ったら、 インド人の話だった。
すみ おもにアメリカで暮らすインド人。在米中国人の女流作家 エイミ・タンのインド人バージョンって感じがしなかった?
にえ でも、もっとメッセージ性を押さえてて、もっとフンワリと 仕上げてたよね。とにかく読んでて心地いい。
すみ アメリカで評価がとっても高くって、すでにO・ヘンリー賞、 ヘミングウェイ賞、ピューリッツァー賞などなど大きな賞をたくさんとってるらしいね。
にえ うん、いかにもアメリカで受けるタイプかも。まず作者が アメリカで暮らす有色人種、で、望郷の意識や夫婦の問題などを、やさしく滑らかな雰囲気がくるみこ んで、柔らかな読後感に仕上げた小説、これは受けるな〜。
すみ そろそろ在米日本人作家も活躍して欲しいところだね。
にえ で、この本は、読みやすくて、後味のいい余韻を残す短編集が 読みたいと思ってる人には絶対オススメ。きっと気に入ってくれるでしょう。
<停電の夜に>
死産したショーバとシュクマールの夫婦は、会話もなくなっていき、冷めた関係になっていた。 そんなとき電力会社から、午後8時から1時間だけ、5日間のあいだ停電になると知らせが来た。ろうそ くのもとで食事をしていると、ショーバは互いに秘密をひとつずつ打ち明けていこうと言う。
にえ アメリカで暮らすインド人夫婦、夫は大学院で研究、妻は教育 図書の校正の仕事。ちょっと冷めた夫婦が会話を再開するわけね、ふふふん、となめてかかってたから、 ラストにちょっとドキッとした。
すみ ただ、これに関しては、登場人物はインド人でも何人でも関係 ないよね、まだこれは私にとって、読みはじめるとっかかりに過ぎなかった。
<ビルザダさんが食事に来たころ>
1971年、十歳の少女の家に、ビルザダさんという男性が足繁く通っていた。 少女の家族もピルザダさんもともにベンガル人だが、その故郷はインドとパキスタンと分かれていた。 消息のわからなくなった家族を心配しながら、少女にやさしく接するピルザダさんだが……。
にえ 1947年のインドとパキスタンの分離、1971年のイン ド・パキスタンの戦争、そういう深刻なテーマを少女の視線で書くことによってノスタルジックに仕上げてました。
すみ 悲惨なテレビニュースの映像と、楽しげなハロウィーンの 様子が少女とピルザダさんを挟むことで、悲しいまでに綺麗に溶けこみあってたよね。
<病気の通訳>
インドで暮らすカパーシーは、平日は病院で患者の通訳を、土日には外国人への観光案内を仕事にして いる。そんなカパーシーが出会った観光客、アメリカで暮らすインド人、ダス一家は、なにか様子がおかし かった。カパーシーはダス夫人に思わぬ打ち明け話をされて……。
にえ 自分の力が活かせず、悶々とインドで過ごすカパーシーと、 アメリカで倦んでいくダス夫人の関係がおもしろかったよね。
すみ カパーシーもダス夫人も、かってに互いを自分を助けてくれる ような都合のいい人に思いこもうとするから、無理が来るのだなあ。
<本物の門番>
インドで四階建てのアパートの階段掃除を仕事にするブーリー・マーは、インド・パキスタンの分離の 前までは、アパートの住人では想像もできないような贅沢な暮らしをしていたという。それが言うたびに膨 らんで大袈裟になっていくから、真に受けるわけにもいかなかったが。
にえ これは好き! こういう滑稽と悲哀が同居したような話は大好き〜。
すみ こういう人って身近にいると単なるほら吹きにしか見えない のよね。ちょっと離れて小説で読むから悲しみが伝わってくるのよね。
<セクシー>
アメリカ人女性のミランダは、インド人男性と不倫に陥ったことを、インド人の女友だちラクシュミには話せなかった。
にえ これはインド人の男性を好きになった女性の話。女性は白人、かな。
すみ 遠かったインドが、偏見の対象でなかったインド人が、男性に よって近づいてくるなんて、とても自然で、ありそうなことだよね。
<セン婦人の家>
母子家庭で育つエリオットは、母の仕事中、インド人のセン夫人の家に預けられることになった。 新聞紙を広げて大包丁を振う、セン夫人は、遠い悲しい目でインドを語っていた。そんなセン夫人に インドから手紙が届き……。
にえ これもまた、知り合いができて初めてインド人を身近に知る アメリカ人。今度は少年だけどね。
すみ 微力ながらもセン夫人を庇おうとする少年のやさしさが素敵だ ったよね。異国に住んで故郷を思う気持ちはせつなすぎる。
<神の恵みの家>
新居での生活をはじめた新婚のインド人夫婦。その家には、前の住人の置いていったキリストの ポスターや石のマリア像が、あちこちに隠されていた。それを見つけては大事にする妻トゥインクルが 気に入らないサンジーヴだが。
にえ これはアメリカに住むインド人の話。インドの人って、親族 から決められた人と結婚するのが基本らしい。この二人も、そういう経緯で結婚したから、どことなくぎこちない。
すみ でも、そういう結婚のあり方を批判的に書かず、こういう 夫婦の形もあるのよって書き方をするのがラヒリ流だよね。
<ビビ・ハルダーの治療>
生まれてからずっと奇病に悩まされつづけたビビは、普通の人と同じような結婚をすることを夢みて いた。だが、ふらりと倒れては狂躁状態になるビビは扱いづらく、ビビの面倒をみる従兄夫婦にとって、 ビビはやっかいなお荷物だった。
にえ これはインドで暮らすインド人の話。わかりやすすぎてみ っともなく、キツイ性格のビビは私の好きなタイプの登場人物だな。
すみ 近所の人たちが助け合うインドの庶民生活も垣間見えて楽しかったよね。
<三度目で最後の大陸>
1964年にインドを発ち、イギリスに渡った私は、さらにアメリカに渡って図書館の仕事に就いた。 インドから妻が来るまでの6週間、百歳を過ぎた口うるさい老婆の家で暮らすことになった。
にえ これはもう素敵、の一言。親族が決めた結婚で、インドからは るばる海を越えてやってくる花嫁、かくしゃくとした老婆とインド人青年の心のふれあい、ジンと来たな。
すみ たぶん、ラヒリの両親がモデルになってるんじゃないかなあ。 作者の愛を一番感じる作品だよね。