=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
スティーヴン・ミルハウザー 「バーナム博物館」 (アメリカ)
<白水社 白水Uブックス> 【Amazon】
ミルハウザーの頭のなかをのぞきこむような、10の想像世界の短編集。 | |
楽しい物語を期待したら、肩すかしを喰らうかもしれない。 | |
習作みたいなものが多いというか、絵でいうと、人間が感じら れる完成された人物がというより、指や耳だけのデッサンみたいな、そういう作品が多かったよね。 | |
未完成っていう意味じゃなくて、ひとつの部分をクローズアップさせてるってかんじ。 | |
一番最初に読むミルハウザーとしては、きっぱりオススメ しません! ただ、短編集なら、長編の短い版みたいな話の羅列じゃなくて、こういう実験的でさえあ る作品集であってよろしいのでは? ほんとに博物館のような楽しさです。 | |
<シンドバッド第八の航海>
『千夜一夜物語』がヨーロッパで翻訳された過程に関する解説と、ミルハウザーが創作したシンドバッドの第八の冒険。 | |
名前がやたら出てくる、ついていくだけで精一杯の解説と、 入りこみたいのに切れ切れになっちゃう物語が交差してて、けっこう読みづらくなかった? | |
う〜ん、でも、シェヘラザードの言及あたりで、オリジナルの 千夜一夜物語がググッと読みたくなってきた。 | |
冒険の物語が楽しくって、もっと読ませてよ〜ってかんじ。 | |
私は、想像がどんどん膨らんでいくきっかけを与えてもらったってかんじで得した気分。 | |
<ロバート・ヘレンディーンの発明>
優秀な成績で大学を卒業したロバートは、就職か進学かの前に一年間の猶予を与えられ、両親の家の 屋根裏で暮らすことになった。ロバートは詳細な想像でオリヴィアという女性をつくりだし、毎夜オリヴィアとの散歩を楽しんだ。 | |
ロバートが皮膚から血管から細かく、細かく想像していって、 一人の女性をつくりだす。だけどこんな生活を一生続けられるはずもなく……って、ち ょっと怖めの幻想小説。これはちゃんとストーリーになってたから楽しめたでしょ? | |
これはストーリーはおもしろかったけど、文章がかたくてちょっと読みづらかったかな。 | |
<アリスは、落ちながら>
『不思議の国のアリス』のアリスが、ウサギの穴を落下しているシーンだけをとりあげ、詳細に 綴ったミルハウザーオリジナル。 | |
これは好き! おもしろかった〜。 | |
『不思議の国のアリス』では、わずかな行数で穴に落ちたって だけの記述になっているのを、不思議な穴の壁の描写からアリスの心理まで細か〜く書いていて、それがま た読んでて飽きない楽しさだったよね。 | |
ひとつわかんなかったのは、なんで棚にあるのがラズベリージ ャムの壜なのかってこと。あれっと思って解説を見たら、やっぱり『不思議の国のアリス』に出てくるのは マーマレードの壜だった。不思議。 | |
<青いカーテンの向こうで>
父親に連れられて映画館に来た少年は、映画が終ったあとの幕の向こう、真っ白なスクリーンが見たか った。こっそり階段を上がった少年が見たものは……。 | |
これはいかにもミルハウザーって作品。映画館という現実世界 から、少年は幻想世界に迷いこんでいく。 | |
上映後の映画館のなかって、たしかに妙にガランとして、なにかありそうだよね。 | |
スクリーンの裏にいたのは当然……、ふふふ、これは読んでのお楽しみ。 | |
<探偵ゲーム>
末っ子のデイヴィッドの誕生日、兄と姉が久しぶりに集まったが、兄のジェイコブは恋人を連れて帰り、 姉のマリアンはそれが気に入らない様子。四人で「探偵ゲーム」というゲーム盤をはじめたが。 | |
「探偵ゲーム」はサイコロを振って進みながら、殺人事件の 犯人を見つけるってゲーム。容疑者や凶器はカードになってます。 | |
内容は細かく分かれてて、現実世界の四人に加えてゲーム盤の 探偵や容疑者の心のうちまでが一人ずつ独白のように書かれてて、それが積み上げられていくって形式。 | |
現実の四人も腹のさぐりあい、ゲームの登場人物たちも腹のさ ぐりあいってところがおもしろかったよね。 | |
ただ、この設定にしては話が長すぎたな。もうちょっと短くて よかったんだけど。ちょっと読み疲れた。 | |
<セピア色の絵葉書>
都会を逃れ、ブルームの村に滞在する私は、<プラムショー稀書店>という、本から骨董までさまざま な商品が並べられた店に入った。そこで買ったセピア色の絵葉書は、見れば見るほど……。 | |
ありがちな幻想小説ではあるけれど、やりすぎないところがよかったかな。 | |
そうそう、このさりげなさがセンスの良さよね。 | |
<バーナム博物館>
町の中心にあるバーナム博物館は、とても複雑な形をしていて、どんなに見て歩いても、見終わること はない。そして幻想・怪奇を極めた展示物は虜になる者も、批判する者もいた。 | |
これは『イン・ザ・ペニー・アーケード』の「東方の国」の 博物館バージョンってかんじだったよね。 | |
博物館の不思議な部屋や廊下をひとつひとつご紹介、奇々怪々 な博物館をまわってる気分で楽しめた。 | |
<クラシック・コミックス #1>
古い不思議な漫画の1コマ、1コマの絵やセリフを文章で読んでいく。 | |
これはミルハウザーだけの世界だよね。絵を見て楽しむはずの 漫画を、文章で読ませる。普通の作家じゃできないな〜、この手法は。 | |
実際に漫画を読むより、より鮮やかに印象的に感じとることができるから不思議よね。 | |
自分の頭に思い浮かべていかないといけないから、なんだか 想像力開発ゲームをやってるみたいでもあった(笑) | |
きっと読む人一人一人の頭に、微妙に違う漫画ができあがって いくんだろうな。見せあいっこできたらいいのに。 | |
<雨>
映画館を出ると雨だった。ポーター氏は濡れながら街を走り、車に乗りこんだ。 | |
これはスケッチ的な作品。ストーリーらしきものはなく、 雨の景色とポーター氏の行動の描写に徹してる。 | |
読んでるうちに、「総天然色」って言葉が頭に浮かんだ。 白黒の映画や写真にカラフルな彩色をしているような、そういう感触。 | |
わかる、わかる。雨が降ると街って白黒の世界になるじゃ ない? それをあえてミルハウザーは鮮やかな色を撒き散らして描写している。そういう不思議さが おもしろいのよね。 | |
白黒の世界に浮かび上がる鮮やかな色のひとつひとつが印象的だよね。 | |
<幻影師、アイゼンハイム>
19世紀の終わり、ハプスブルグ家の帝国が終局に近づいた頃、奇術の芸はかつてない繁栄をみせて いた。そこに現れたのは天才奇術師アイゼンハイムだった。 | |
これはもう文句なし。まさに私が読みたいミルハウザー。 | |
奇術の天才アイゼンハイムの人生の顛末と、その摩訶不思議な 奇術の数々を紹介しているのよね。 | |
もちろん奇術はミルハウザーですから、ありうる世界を突き抜けちゃってます。 | |
アイゼンハイムの人生も奇術そのもので、楽しいのだなあ。 | |