=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「19本の薔薇」 ミルチャ・エリアーデ (ルーマニア)
<作品社 単行本> 【Amazon】
エウセビウ・ダミアンは、ルーマニアの生存するなかでは最高の大作家といわれているパンデレ(通称 ADP)の助手、自伝的小説『回想』の口述筆記の最中だった。そこに、ラウリアンという青年と ニクリナという謎めいた美女が現れた。ラウリアンはパンデレの息子だと主張するが、パンデレは肝心な時 期の記憶が抜け落ちている。二人のスペクタクルに魅了され、次第にのめりこんでいくパンデレだが。 | |
これはまあ、なんというか、複雑(笑) | |
難しい、わけわからない、おもしろいってところでしょうか。 | |
そうそう、まず初っぱなからルーマニアの芸術論、これはわからな〜い。 | |
エリアーデは亡命してからも、ルーマニア語で小説を書きつ づけた人。ルーマニアの芸術についての知識をある程度はもってる読者を想定して書いてるんじゃない? この本読んだだけじゃ理解しきれないよね。 | |
だからこれは軽く読み流〜す(笑) | |
ただ、演出家イエロニムの主張する「演劇は絶対的自由」って いうのは記憶にとどめておいたほうがいいよね。 | |
で、そのイエロニムの劇団で、演劇とのマジックを組み合わせ たようなスペクタクルをやってるのがラウリアンとニクリナ。 | |
大作家パンデレは、そのスペクタクルに魅了されて、劇団とと もに行動するようになり、『回想』は放っぽいて、戯曲を書きはじめちゃう。 | |
ここからは神経集中! 謎、謎、謎の嵐。 | |
しかも、最後まで読んでも、はっきりした答えを書いてくれて はいないのよね。考える材料だけ提供してくれてて、あとは読んでるこっちが答えを考えなくちゃいけない。 | |
まず、スペクタクルの謎。最初は衣装の早変わり程度なんだけ ど、途中からはニクリナが背丈も違う老女になって現れたり、ラウリアンが少年になって現れたり。 | |
謎の美女ニクリナは、父親や母親についてちょっとだけわかっ てくるんだけど、まだまだわからないところが多いよね。 | |
語学にたけ、哲学などの学問にも精通している天才、どうい う経緯でイエロニムの劇団に入ったのか、ちょっとだけ触れられてるから、あとは想像していくのだよ。 | |
ラウリアンの母親とパンデレの関係も謎。むかし、パンデレが 一度だけ書いた戯曲と、その芝居の主演女優らしいんだけど、なぜかパンデレの記憶は抜け落ちている。 | |
パンデレは記憶を消される薬らしきものを飲まされたよう なんだけどね。 | |
演出家イエロニムの目的も謎。政府のナンバー2という要人の 息子を劇団に誘いこみ、うまくたちふるまってるけど、その裏にはどんな目的があるのか。 | |
そして、パンデレやラウリアンやニクリナは、謎をとくヒント が隠れているというパンデレ著の戯曲を残し、忽然と姿を消す。 | |
これはまず、ルーマニアが社会主義国で、芸術家や思想家にた いする締めつけがどんどんきつくなってきていて、だれもが自由を求めているってことをわかっておかねばなりませぬ。 | |
パンデレたちが消える前に、主人公ダミアンは、博物館にある ような昔のスタイルの橇に乗せられ、過去にあったけど今はもうない森を抜け、現存していない小屋に連 れて行かれてる。 | |
イエロニムはニクリナたちの出演する映画『天涯の孤児たち』 を残してるんだけど、これはルーマニアでは社会主義の最高の讃歌として評価されるけど、カンヌ国際映 画祭で大賞をとって海外で上映されるようになると、社会主義の強烈な諷刺が含まれていることがわかってしまう。 | |
どんな映画かはちょっと紹介されてるのよね、これのどこに 社会主義批判が含まれてるのか、これも推理と想像を駆使して考えなくちゃいけない。 | |
まだまだ謎はあるけど、列挙してもキリがないね。 | |
理解できない芸術論はつらかったけど、迷宮に取り残されたよ うな読後感はたまりませんでした。ちょっとした知的ゲームってかんじ。 | |
気を抜いて読むと、だれかさんみたいに2度読みかえすことになります(笑) | |