すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「人類の子供たち」→「トゥモロー・ワールド」 P・D・ジェイムズ (イギリス)  <早川書房 文庫本> 【Amazon】
1995年に生まれた子供たちはオメガと呼ばれていた。その年を最後に、人類に子どもは生まれてい ない。それから四半世紀後の2021年、イギリスは国守ザンと4人の評議会員によって統治されていた。 わずかでも罪を犯したもの、精神病者は島送り、自殺志願者の老女たちは国の管理のもとで集団自殺させ、 国民には強制的に精液検査、国営ポルノショップが設けられた。ザンのいとこで元評議会メンバーのセオは、 そんな政府のやり方に抵抗する<五匹の魚>の5人のメンバーに出会い、協力を要請された。
すみ ミステリー作家P・D・ジェイムズの異色SF作品です。
にえ P・D・ジェイムズのキッツイ性格を象徴しているなと思った のは、この作品、1992年に発表されてるのよね。普通の作家なら、第一段階の子どもが生まれなくなる って設定を2000年以降にするでしょ、わずか3年後の1995年に設定するっていうことは、この作品 の賞味期限をすごく短いものにしちゃうよね。
すみ そういう両刃のやいばとなってしまうにしても、臨場感、緊迫 感を出したくて、すぐに来る未来に設定したんだろうね。強いな〜。この人には弱気ってものがないのかしら。
にえ そういう強さに敬服しつつも、気の弱い読者としては、今から 3年後ってことで2004年に子供が生まれなくなるって頭の中で設定をずらしつつ読む。こっちが へりくだるしかないわな(笑)
すみ 2021年にしては携帯電話もコンピュータも普及してない、 なんて細かいことも無視ねっ。
にえ そうそう、でもどっちにしろこの小説、全体の雰囲気はSFチ ックじゃないから、そういうサイバー関係は気にならないんだけどね。
すみ むしろ過去の歴史に基づいて書いた小説みたいな読感だよね。
にえ で、この本の主人公はセオって中年の男。なかなか登場当初は いやなやつ。
すみ インテリですぐに人を見下すし、自分だけが大事で、だれに 対しても冷たいし、卑怯だし。
にえ 国守ザンのいとこで幼なじみなのよね。ザンは金持ちで父親は 准男爵、家はデッカイお屋敷に住んでいる、セオは母子家庭で貧乏、夏休みをザンの屋敷で過ごす、そうい う少年時代の話が出てきて、これはいい感じ。
すみ ちなみに、国守っていうのは、2021年でも国王が残っている ってことだから首相なんだけど、まあ独裁者みたいなものね。
にえ この国守っていうのが台頭する背景は、最後に生まれたオメガ って呼ばれる人間たちがなぜか凶暴で、手に負えないからなの。そのへんでまあ、だれか強烈な手段ででも 平和を確保してくれる人が必要となって、国守が現れたってわけ、簡単に言うとだけどね。
すみ こういう話をしていると、一部の人たちは私たちと同様、うう うっ、SFってやっぱり面倒くさいって思うでしょう? ご安心ください、SF的な設定はこれだけです。
にえ あとはほとんどSFを意識せずに読めるよね。というか、あま りSF的な期待をしてはいけないというか。
すみ ここからがネタバレにならないように話すのが難しいんだけ どね(笑)。まあ、とにかくセオは反体制組織とはいえたった5人の寄り集まりの<五匹の魚>とともに 行動することになるんだけど、そこで大人な男女の愛憎関係があったり、揉め事があったり、逃げ回ったり、と。
にえ ぶっちゃけた話、目新しさはないと思う。こうなるかなと 思った通りのストーリー展開だし。ただ、読みだすと夢中になって読んじゃうんだな〜。
すみ こういう危機状態に際しての登場人物たちのそれぞれの行動も、 興味津々で読めたしね。
にえ とくに本の丸々うしろ半分は、緊張感がすごい! セオも いい奴になってくるから感情移入しやすくなって、5人のメンバーの人間性もモロに出てくるし、とにかく だれが死ぬか、この先どうなるかってドキドキもので一気に読めた。
すみ ちなみに、独裁者vs反乱分子の攻防戦というようなテロ系、 内戦系の話ではなく、もっと人間くさい話なので、私たちのようなカヨワイ婦女子がつらくなりません(笑)
にえ ただ、やっぱりP・D・ジェイムズですから、いわゆる楽しい エンタメ系よりはずっと堅い印象ではあるのだけれど。
すみ 軸になるのは、社会への問題提起というか、警鐘ってわけでしょ。
にえ 読み終わったあとでいろいろ話したくなるよね。
すみ 生物というのは栄えたり滅んだりするものだから、いつか人類 が滅びるとしたら、それもサダメと受けとめるべきなんじゃないかな〜、なんて、そういう話もしたりしてね。
にえ 人類最後の日ってことじゃなくて、新しい命が芽生えないま ま、自分自身はそのまま生きて、じわじわ人類が滅んでいくってわけでしょ。自分だったらこの状況なら どう生きるかな〜なんてことも考えるよね。
すみ 奇抜さはなくても、完成度の高い小説でした。ラストで「やっ ぱりな〜」と叫べる楽しみつきってことで(笑)