=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「異形の愛」 キャサリン・ダン (アメリカ)
<ペヨトル工房 単行本> 【絶版】
<ビネウスキの奇天烈カーニバル>は様々なゲテモノの見世物<ギーク>を売りとしてアメリカ中を 巡業している。団長アルは、一座の花形をつくるべく、妊娠中の妻リリーにあらゆる薬物を投与し、 奇形である<フリーク>の子どもたちを産ませていった。アーティは、手足が小さく変形してヒレのよ うに見える<あざらし少年>、プールの中を泳ぎまわる。エリーとイフィーは胴から下が一つにつながる シャム双子、アンサンブルのピアノが見世物。次に産まれたわたし、オリーは、残念ながら瘤のあるせむ しで、小人で白子なだけの平凡なフリーク。そして最後に産まれたチックは・・・。 | |
当HPの条件からはみだすような内容の上、グロいうえに絶版 本でごめんなさい。一部のサブ・カルチャーを愛する人たちに絶賛され、グロテスクの極みといわれるこの 本、どうしても読んでみたかった。読んだら話さずにはいられなかった。 | |
どうせ絶版だし、手に入れるのも難しいでしょうから、今回は 一部ネタバレ的なところまで話しちゃうということで、ストーリーを追いながら。 | |
覚悟していたとはいえ、かなりグロかった。最初はまだよかったのよ。 | |
過去と現在の話で進行するのよね。なかばは過去ばかりになる けど。過去は最初のうち、グロテスク版『ホテル・ニューハンプシャー』って感じだったのよね。 | |
ちょっと暴走気味だけど、ママと子どもを愛するパパ、フリー クで産むことこそ、子どもたちが自分で金を稼いで自立できる、よい事だと信じきってるやさしいママ。 | |
長男のアーティは、自分がナンバーワンでないと気がすまず、 負けず劣らず人気のあるシャム双子の妹に嫉妬してる。オリーは中途半端なフリークである自分に劣等感を 抱き、アーティを愛しきって、服従してるのよね。 | |
もちろん作り話だからって限定でだけど、まあ家族愛あふれる 物語だし、この辺はまだ大丈夫だった。 | |
パパもママも罪悪感なくノホホンとしてるし、子どもたちも 喧嘩したりするけど、基本的には幸せそうだったし。 | |
そこに狂って拳銃をぶっ放してくる男とかが現れたりとかして、 いろんな苦労と家族たちが戦っていくのよね。 | |
で、現在の話では、身元を隠したオリーが、自分の娘を見守って いる。フリークのオリーから産まれたとはいえ、この娘は尻尾がはえているだけで、あとは綺麗な普通の娘。 | |
この辺は、いったいいつオリーは子どもを産んだのかしら、と思わせぶり。 | |
で、過去の話がどんどん進んでいき、ここから本当のグロテス クが始まっていくのよね。これは参った。 | |
まず、アーティは次第に見世物の中で演説みたいなことをするよ うになり、信奉者が現われはじめ、信奉者はアーティと同じになりたいと、自分たちの手足も短く切り落とす。 | |
うげげ、でもこれは自分たちが好きでやってることだから、グロ くても、ゲロゲロとか言いながら読めた。 | |
ついていけなくなったのはそれから先よね。稼ぎも増えたアー ティは、だんだん家族に対しても支配的になっていく。 | |
パパとママは仕事をすべてアーティに取り上げられ、ふぬけの ようになっていく。オリーとチックは盲目的にアーティに従う。 | |
そこまではまだ許す、でも、最初からアーティと対立していた シャム双子に対してはむごすぎ。 | |
アーティは、自分たちに拳銃を撃ってきた男にシャム双子を 襲わさせて、妊娠したシャム双子はトレーラーに閉じこめられ、反抗的だったエリーのほうはロボトミー 手術をされて、植物人間のようにされてしまうの。うげ〜っ。 | |
自分の妹にそこまでするアーティを理解しようとするの は無理だし、アーティを盲目的に愛するオリーの気持ちもまったくわからないとは言わないけど、自分の 姉がひどい目にあっても助けようともしないってのは、どういうことよ。チックもアーティに叱られるの 一点張りだけど、それもまた納得できない精神構造。 | |
そういう精神の歪みがグロテスクだったよね。このグロテスク さに比べれば、フリークだの、自分にピンさしたり、ニワトリを生き食いするギークの描写ぐらいグロテス クのうちに入らないって感じ。 | |
グロテスクだが、ここには家族愛がある、みたいなことを 書いた書評があったけど、言わせてもらえばこの本には、家族愛なんてどこにもねえよ、げ〜っ。 | |
なにもかも見失った、独りよがりの愛があるだけだったね。 それが異形の愛? | |
ちなみに、たぶん意図的にでしょうが、主語をはずした 部分が多くて、ちと読みづらかったけど文章は上手で、様々なエピソードの重ねていきかたは秀逸。小説と してはレベル高かった。まあ、そういう問題じゃなかったんですけど〜(笑) | |