すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「異形の愛」 キャサリン・ダン (アメリカ)  <ペヨトル工房 単行本> 【絶版】
<ビネウスキの奇天烈カーニバル>は様々なゲテモノの見世物<ギーク>を売りとしてアメリカ中を 巡業している。団長アルは、一座の花形をつくるべく、妊娠中の妻リリーにあらゆる薬物を投与し、 奇形である<フリーク>の子どもたちを産ませていった。アーティは、手足が小さく変形してヒレのよ うに見える<あざらし少年>、プールの中を泳ぎまわる。エリーとイフィーは胴から下が一つにつながる シャム双子、アンサンブルのピアノが見世物。次に産まれたわたし、オリーは、残念ながら瘤のあるせむ しで、小人で白子なだけの平凡なフリーク。そして最後に産まれたチックは・・・。
にえ 当HPの条件からはみだすような内容の上、グロいうえに絶版 本でごめんなさい。一部のサブ・カルチャーを愛する人たちに絶賛され、グロテスクの極みといわれるこの 本、どうしても読んでみたかった。読んだら話さずにはいられなかった。
すみ どうせ絶版だし、手に入れるのも難しいでしょうから、今回は 一部ネタバレ的なところまで話しちゃうということで、ストーリーを追いながら。
にえ 覚悟していたとはいえ、かなりグロかった。最初はまだよかったのよ。
すみ 過去と現在の話で進行するのよね。なかばは過去ばかりになる けど。過去は最初のうち、グロテスク版『ホテル・ニューハンプシャー』って感じだったのよね。
にえ ちょっと暴走気味だけど、ママと子どもを愛するパパ、フリー クで産むことこそ、子どもたちが自分で金を稼いで自立できる、よい事だと信じきってるやさしいママ。
すみ 長男のアーティは、自分がナンバーワンでないと気がすまず、 負けず劣らず人気のあるシャム双子の妹に嫉妬してる。オリーは中途半端なフリークである自分に劣等感を 抱き、アーティを愛しきって、服従してるのよね。
にえ もちろん作り話だからって限定でだけど、まあ家族愛あふれる 物語だし、この辺はまだ大丈夫だった。
すみ パパもママも罪悪感なくノホホンとしてるし、子どもたちも 喧嘩したりするけど、基本的には幸せそうだったし。
にえ そこに狂って拳銃をぶっ放してくる男とかが現れたりとかして、 いろんな苦労と家族たちが戦っていくのよね。
すみ で、現在の話では、身元を隠したオリーが、自分の娘を見守って いる。フリークのオリーから産まれたとはいえ、この娘は尻尾がはえているだけで、あとは綺麗な普通の娘。
にえ この辺は、いったいいつオリーは子どもを産んだのかしら、と思わせぶり。
すみ で、過去の話がどんどん進んでいき、ここから本当のグロテス クが始まっていくのよね。これは参った。
にえ まず、アーティは次第に見世物の中で演説みたいなことをするよ うになり、信奉者が現われはじめ、信奉者はアーティと同じになりたいと、自分たちの手足も短く切り落とす。
すみ うげげ、でもこれは自分たちが好きでやってることだから、グロ くても、ゲロゲロとか言いながら読めた。
にえ ついていけなくなったのはそれから先よね。稼ぎも増えたアー ティは、だんだん家族に対しても支配的になっていく。
すみ パパとママは仕事をすべてアーティに取り上げられ、ふぬけの ようになっていく。オリーとチックは盲目的にアーティに従う。
にえ そこまではまだ許す、でも、最初からアーティと対立していた シャム双子に対してはむごすぎ。
すみ アーティは、自分たちに拳銃を撃ってきた男にシャム双子を 襲わさせて、妊娠したシャム双子はトレーラーに閉じこめられ、反抗的だったエリーのほうはロボトミー 手術をされて、植物人間のようにされてしまうの。うげ〜っ。
にえ 自分の妹にそこまでするアーティを理解しようとするの は無理だし、アーティを盲目的に愛するオリーの気持ちもまったくわからないとは言わないけど、自分の 姉がひどい目にあっても助けようともしないってのは、どういうことよ。チックもアーティに叱られるの 一点張りだけど、それもまた納得できない精神構造。
すみ そういう精神の歪みがグロテスクだったよね。このグロテスク さに比べれば、フリークだの、自分にピンさしたり、ニワトリを生き食いするギークの描写ぐらいグロテス クのうちに入らないって感じ。
にえ グロテスクだが、ここには家族愛がある、みたいなことを 書いた書評があったけど、言わせてもらえばこの本には、家族愛なんてどこにもねえよ、げ〜っ。
すみ なにもかも見失った、独りよがりの愛があるだけだったね。 それが異形の愛?
にえ ちなみに、たぶん意図的にでしょうが、主語をはずした 部分が多くて、ちと読みづらかったけど文章は上手で、様々なエピソードの重ねていきかたは秀逸。小説と してはレベル高かった。まあ、そういう問題じゃなかったんですけど〜(笑)