すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「バーチウッド」 ジョン・バンヴィル (アイルランド)  <早川書房 ブックプラネット> 【Amazon】
もともとはローレス一族のものであった壮麗な屋敷、バーチウッドは、ある日、忽然と現われたゴドキン一族のものとなってからは、品格をなくし、いつしか荒れ果てていった。ローレスの姓を持つ母親と、ゴドキンの姓を持つ父親が結婚したことで産まれたガブリエルは、やがてはバーチウッドを受け継ぐと定められているはずだった。
にえ 初めて読んでみました、ジョン・バンヴィルです。
すみ でもさあ、新しい作品なのかと思ったら、そうでもなかったのね。これはバンヴィルが28才の時に書いた作品で、バンヴィルにとっては3冊目の本。
にえ すでに日本に紹介されている「コペルニクス博士」や「ケプラーの憂鬱」なんかより前の作品なんだよね。ちなみに、この作品の発表から33年後の2006年、バンヴィルは「海に帰る日」でブッカー賞を獲っています。
すみ でもさあ、28才で書いたにしては、ずいぶんと落ち着いた作品だよね。いや、主人公は別の意味では落ち着いてないんだけど(笑)
にえ さすらいの物語だもんね。それにしても、なんとなく、今まではバンヴィルって名前とか、タイトルとかのイメージから、読むのが難しそうってイメージがちょっとあったんだけど、意外と読みやすくて驚いた。
すみ そうそう、各章が短くて、パスッパスッと切れながら進んでいくって感じだから、読んでて負担がないんだよね。まあ、逆に、続けて一気に読んじゃうってところがないから、妙に時間が掛かったりもしたけど。
にえ 内容的にも、ついていけない〜って感はなかったよね。普通にストーリーを追えるの。まあ、深読みしたくなったら、そこからは難しくなるんだろうけど。
すみ 出版社からの紹介文がストーリーの大部分を語っちゃてるから、なんか伏せながら内容を語るのが虚しい気もするけど、それでも伏せながら紹介すると(笑)、主人公の子供時代から、回想のお話が始まるのよね。
にえ 主人公は、喧嘩をふっかけるのが好きな、妙に重さを感じる祖母に、優しく気弱で、なにか哀しみを抱えこんでいるような母親、下に向かって進むことしか考えていないような父親、そんな家族と大きな屋敷の中で暮らしているの。
すみ 父親はなかなか格好いい感じの男性なんだよね。滅びの美学みたいなものを持っているのかな、なんて思ったりもしたけど、ただ自堕落というか、捨て鉢というか、良く生きることに対してやる気をなくしているというか。
にえ なんかもう、自分も含めて、みんな不幸になっちまえ、みたいな、そういう負の楽しみの中で生きているようにも思える男性なんだよね。
すみ 母親は愛情深く主人公を…と言いたいところだけれど、なんかそれも違うのよね。愛情深く接しているようでも、どこか無気力で、その場限りのような。
にえ 両親からの愛情を感じないまま、ガブリエルはお金がないからって理由で学校にも行かせてもらえず、大きな屋敷で、ほぼ独りぼっちのような状態で暮らしているのよね。そこに父親の妹である叔母と、未婚で産んだ叔母の息子が転がり込んできて。
すみ 叔母に、なぜかいなくなってしまった双子の妹の話を聞かされ、ガブリエルは妹を捜すことを生きる目標のようにしてしまうのよね。
にえ そこから屋敷を出て行って…まあ、最後には戻ってくることが冒頭で暗示されているのだけど。
すみ 最後には隠された真実も解き明かされるしね。その点では、しっかり話も結ばれていて、読みごたえ充分な小説。
にえ でも、巻末の訳者解説にある「アイルランドの風土と歴史に対する、真摯で切実な考察の書」という部分は、正直なところ、あんまりわからなかったけどね。
すみ アイルランドを強く意識した小説というと、私たちが今まで読んだ本はわかりやすすぎたかな。
にえ でも、なかなか好きな感じの小説ではあった。退廃的なムード漂いながらも、無茶な展開もまた楽しかったりもして。まあ、最後に謎が解けた時点では、あらまあ、なんだかこういうの読んだばかりのような、とか思ったりもしたけど(笑)、そこは若い頃の作品ってことで。
すみ うん、他の著作もがぜん読んでみたくなったよね。この本が初バンヴィルとしてお勧めかどうかはわからないけど、とりあえず、ビビッてる方がいたら、かなり読みやすいですよってことで。
 2007.10.25