すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「20世紀」 アルベール・ロビダ (フランス)  <朝日出版社 単行本> 【Amazon】
フランス19世紀の末、日本がまだ明治時代だったころに、そんな未来世界を想像し予想した作家がいる。 『地底旅行』『八十日間世界一周』のジュール・ヴェルヌと当時の人気を二分したフランスの奇才、アルベール・ロビダ。彼の幻の空想近未来小説が120年ぶりに新訳で登場。 訳者は『地底旅行』、レーモン・クノー『文体練習』(小社刊)などを手がけた、朝比奈弘治氏。 ロビダ自身による300点を超える挿画は眺めるだけでも楽しい。原典初版本(1883年刊)を完全復刻した美しい造本。(出版社の紹介をそのまま引用)
にえ こちらは厚くて、ちょっとでかくて、なんだか古めかしいSF挿絵のような表紙で、タイトルが「20世紀」。なんとも気になる本なので読んでみました。
すみ 小説を読むとき、いい意味での現実逃避がしたいってところがあるけど、これはまさに遠い見知らぬ世界へと連れていってくれる小説だったよね。不思議な感触。
にえ 1882年に刊行されたもので、1952年9月から始まる物語なんだよね。つまり、約125年前に書かれた小説で、現代の私たちにしてみると、1952年は55年前の過去だけど、この小説からすると、70年後の遠い未来。
すみ 「訳者あとがき」に書かれていることをそのまま使わせていただけば、1876年にベルが電話機を発明して、1877年にエディソンが蓄音機を発明して、1879年に伝統が発明され、1881年にはドイツで初の市内電車が走りはじめて…とまさに科学による文明の発達が著しい時期で、こんなに次々に驚かされて、70年後には世界はどうなっちゃってるの〜って思いを馳せたくなる時代だったんだろうね。
にえ ただ、この小説って未来を予想したSF小説って言い切ってしまうと違和感があるよね。なんかちょっと違うの。
すみ そうそう、古き良き小説って体裁が整っていて、小説としての斬新さはないんだよね。むしろ、かなり懐かしい感じ。でも、背景は科学が発達した不思議な未来世界で、でもでも、そこには懐古趣味的要素もたっぷりあったりして。
にえ だからってSF的未来予測がおざなりになっているかというと、そこはキッチリしてるんだよね。キッチリしてるんだけど、未来予測というより、こんなふうになっちゃってたりして〜的発想?
すみ うん、だけどさあ、意外というか、未来予想としてはかなり鋭いところも多くて、ドキリとさせられたりもしたよね。著者自身の書いた素敵な挿絵がたくさん入ってるんだけど、それがまた細かいところまで描かれていて、出来上がってるな〜って感心させられたりもするし。
にえ 今読むと、未来を扱ったSFというより、パラレルワールドを描いた小説だよね。それはそれでキチンと成立しているの。パラレルワールドって言い方はもう古いらしいけど(笑)
すみ で、どういう話かというと、主人公はエレーヌ・コロブリーという若き女性で、リセ帰り。つまりは、田舎の寄宿舎に長く入れられていたせいで、ちょっと世間知らずになっている、少女から大人への過渡期って感じの時期の娘なの。
にえ エレーヌは孤児なんだけど、世界一といっても言い過ぎじゃないくらいの裕福な銀行家ポント氏が後見人についているのよね。
すみ 学校を出て、なにをしたいっていうのもまだ決められないエレーヌなんだけど、ポント氏の二人の娘と久しぶりにパリへ帰ってみれば、街は急速な発展を遂げていて。
にえ 人々は乗合空中船(アエロネフ)に乗ったり、空中タクシーに乗ったりして移動して、遠い距離は地下を弾丸のようにすっ飛ぶチューブという乗り物に乗って、ものすごい速さで移動できたりするの。チューブといっても、地下鉄とは違うのよ。
すみ 家ではテレフォノグラフという、テレビ電話とテレビとパソコンの役割を果たしているような機械で、外からの情報を得ることができるのよね。食べ物は水道管みたいな管から配給されていて、各家庭で料理する必要はないの。
にえ でも、なんといっても変わったのは社会そのものよね。すべてが資本主義というか、経済主義というか、とにかくお金ですべてが動くようになっていて、お金さえあれば、国だって簡単に手に入っちゃう。
すみ 人々はやる気満々で活気に満ち、常に忙しく動きまわっているの。そして、女性は男性とまったく同等に社会で活躍し、あらゆる職業に就けて、気楽に離婚することもできて。
にえ 学校を卒業したエレーヌは、ちょっと前の時代なら、次は花嫁修業ってことになるんだろうけど、この世界では女性も、すぐにやる気の出せる職業について、男性同様、ガンガン頑張って社会的地位を築いていかなきゃならないのよね。
すみ でも、エレーヌはちょっと昔風の、心優しくおっとりとした女性で、競争主義のスピード社会に順応できないんだよね。
にえ 資産家のポント氏と政治家のポント夫人の後押しで、いろんな職業についてはみるんだけど…。
すみ さて、そんなエレーヌが最後には幸せになれるのでしょうかっていう、そういうドタバタがありながらもホノボノとしたお話。ホノボノしてても、発想豊かで、フランス以外の国がどうなってるかとか、かなり意外で興味津々だったりも。
にえ 経済を基盤とした新しい政治形態が語られたり、斬新な文明の機器が紹介されつつも、決闘があったり、革命が復活したりと不思議な感じだったよね。なんかとにかく楽しくて、いやな気持ちにまったくならずに夢中になって読むことができた。古めかしさを出しながらも、読みやすい文章がまた心地よくて、たまらんですよ。
すみ とにかく文章が楽しい、書かれた世界が楽しい、タップリ入った絵が楽しい、微笑ましくなるストーリーが楽しくて、なんといっても違和感が楽しみまくれる小説でしたってことで。
 2007.7.6