すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「フロイトの弟子と旅する長椅子」 ダイ・シージエ (フランス)  <早川書房 単行本> 【Amazon】
長くフランスに滞在し、フロイト派の精神分析学を学んだ莫(モー)は意気揚々と故郷へ帰り、中国初の精神分析医になろうとしていた。ところが、大学時代に片思いをしていたフーツァンが政治犯として投獄されているのを助けるため、処女探しの旅に出掛ける羽目になってしまった。フェミナ賞受賞作。
にえ こちらはハヤカワepi〈ブック・プラネット〉の1冊です。フランス語で小説を書く、フランス系中国人作家ダイ・シージエの作品。
すみ ダイ・シージエは前作「バルザックと小さな中国のお針子」を読むつもりだったのにまだ読んでいなくて、なぜだかこちらを先に読むことになってしまったね〜。
にえ でも、「バルザックと小さな中国のお針子」はタイトルからして文学好きな雰囲気が漂っていたけど、こっちの作品も随所にカフカとか、ユゴーとか、ボードレールとか、名前や作品に触れることが出てきたでしょ。
すみ うんうん、そのへんは読者的にはニンマリうれしいところだよね。
にえ 小説としては、生真面目すぎる主人公があれこれ巻き込まれてしまうというストーリーで、さまざまな危機が訪れながらも、なんだかノホホンとした感じなの。
すみ まあ、この主人公ならいろいろひどい目に遭いながらも、ストーリー自体はそんなにひどいことにはならないだろうと予想がついて、わりと安心して読めたよね。
にえ 安心してたわりには、けっこうひどい目に遭ってたけどね(笑)
すみ 背景には文革が残した中国の暗い側面もしっかり垣間見えたしね。あと、他人にちょっと気を許すとなにか盗まれちゃったりとか。
にえ まあ、そういう社会の中での脱力系の笑いを楽しむというか、顔をしかめつつ苦笑いというか、そんな感じかな。
すみ 主人公の莫は、いかにもこういう小説にふさわしいタイプなんだよね。なんか理想に走りすぎて地に足が着いていないというか。本人はいたって真面目で、一生懸命なんだけど、どこかズレちゃってるの。これはフランス帰りというのが原因のすべてではないような。
にえ 性格的なところが大きいよね。だいたい、フランス語は流暢にしゃべるみたいだけど、自称「フロイトの弟子」のわりには、夢分析からして夢占いみたいになっちゃってて、本当にキッチリ学んできたのかどうか怪しいところ。
すみ とりあえず、フロイトの著書は読んだみたいだけどね。莫自身がけっこうな年齢なのに童貞で、あまり相手にもされなかったらしき初恋を引きずってる男性だから、受けとり方もフワフワになっちゃってるのかも。
にえ 莫はその相手にされていなかったんじゃないかと思われるフーツァンという女性を監獄から助け出すため、ディー判事という人を買収しようとするんだけど、ディー判事はすでにそういう賄賂で私腹を肥やしまくって、お金はもういらない様子。
すみ それでお金のかわりに要求されたのが、処女なんだよね。
にえ 莫はすべてを理解した上で、自分に協力してくれる処女を探すために、広い中国を旅することに。
すみ そこでいろんな出会いがあるんだよね。意外な民族との遭遇とか、トラブル巻き込まれとかが次々に。
にえ 莫は自分の夢をキッチリ記録に残すことにも情熱を傾けているから、夢の話もいろいろ出てきて、ちょっと気が弛んだ状態で読んでると、夢か現実かわからなくなっちゃいそうにもなるよね(笑)
すみ 現実で起きたことのほうが、夢より夢っぽかったりするしね(笑)
にえ とにかく莫はズレてるんだけど、なんだか惚れっぽいところがあり、利己主義に突っ走ってるはずなのに、ひたすら親切だったりするから、憎めないのよね。それで最後までどうなるのかと読んじゃったかも。
すみ そうだね、こういう小説って主人公に嫌悪を感じちゃったらそれまでだもんね。ということで、なかなかでしたってことで。
 2007.6.28