=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「アレクサンドリア四重奏1 ジュスティーヌ」 ロレンス・ダレル (イギリス)
<河出書房新社 単行本> 【Amazon】 イギリス領エジプトのアレクサンドリア、貧しいイギリス人教師である「ぼく」は、キャバレーの踊り子メリッサを愛していた。メリッサもまた貧しく、娼婦でもあった。ぼくたちは結婚するつもりでいたが、ある日、ぼくが依頼された講演をきっかけにジュスティーヌと知り合い、道ならぬ恋に堕ちてしまった。ジュスティーヌは貧しいユダヤ人家庭の出だが、ネッシムという裕福なコプト人の夫を持っていた。 | |
こちらは四部作<アレクサンドリア四重奏>の第一部「ジュスティーヌ」です。 | |
前々から読まなきゃいけない名作と聞いていたのだけれど、前に出た本はずっと絶版になって、このたびようやく全面改訳で刊行されたのよね。よかった、よかった。 | |
とはいえ、これって4冊ぜんぶ読まないと本当の良さはわからないってところがあるらしく、とりあえずこの1冊では、ちょっとまだなんだかわからないって感じだったね。 | |
まさに「四重奏」(笑) 巻末解説によると、3作でほぼ同じ出来事を別の視点から描き出し、最後の第4作でその先がわかるみたい。 | |
ロレンス・ダレル自身の「序」によると、「最初の三冊は連続しているのではなく、それぞれの同種同類であり、互いのなかに互いを差し込む形で繋がっている」でしょ。 | |
それ読んだ時には意味がわからなかったけど、小説を読んでみてわかったよね。つまり、この「ジュスティーヌ」では話が飛び飛びで、しかも前後していたりして、なにかが始まることが提示されていても、結果がどうなったか書かれていなかったり、結果だけで過程が抜けていたりしたけど、あとの2冊でそれが埋められてわかっていくってことよね。 | |
わかってくれば楽しくなってくるんだろうね。とりあえず、この1冊ではけっこう読むのが辛かった(笑) | |
まあね。切れ切れの話で、しかも唐突に違う話になってることがあったりして、混乱して前に戻って読み直しなんてこともたびたびだったしね。 | |
しかも、私が萎える2大要素である「感傷的な過去の恋愛の回想」「同じ内容の自分自身の苦しさを何度も何度も繰り返して語る、煮え切らない男性の語り手」から成り立つようなところがあって、精神的な負担もけっこう掛かったかも。 | |
とはいえ、今回は触りだけだったけど、恋愛以外のところでも面白味がありそうな感じはあったし、先になってそういうことかとわかってくれば面白くなってもきそうだし、これからでしょう。 | |
まあ、そうなんだよね。この1冊で判断してはいけないと、前もってわかってて読んだから、まあ、なんとか乗り越えましたよ(笑) | |
背景なんかはけっこういい感じで、これからも期待できそうだよね。少女を連れてキプロス島らしき島に滞在している「ぼく」が、イギリス領エジプトのアレクサンドリアにいた頃のことを回想しているんだけど、そのアレクサンドリアが独特の雰囲気を醸し出しているの。 | |
本文で「五つの種族、五つの言語、十にあまる宗教」って紹介されていたけど、読んでいるともっと多く感じるよね。本文と巻末解説を通して拾い上げると、イギリス人、フランス人、ギリシア人、ユダヤ人、イタリア人、エジプト土着のコプト人の一族、アラブ人、ベルベル人……。 | |
とりあえず、「ぼく」はイギリス人、その恋人だったメリッサはギリシア人、「ぼく」と愛人関係になるジュスティーヌはユダヤ人、その夫のネッシムはコプト人でしょ。 | |
あんまりそれぞれの容姿については語られてないけど、ジュスティーヌは黒髪に黒い瞳、浅黒い肌のエキゾチックな美人なんだよね。 | |
その主要人物四人の他に、絵を描く金髪美人のクレアとか、結社の一員である謎めいた男バルタザールとか、「ぼく」の同居人の外交官ポンバルとか、警察組織にいるスコービーとか…とにかくたくさん出てきたよね。これ一冊の小説だとしたら尋常ではない、多すぎる登場人物の数だった。 | |
どの人がのちのちの話に大きく関係してくるのか、どの人は軽く流していいのか、そのへんがわからないところも焦れったいといえば焦れったかったよね。 | |
記憶力に自信がなければ、ひたすらメモあるのみよっ(笑) | |
主軸となるストーリーは、メリッサという恋人がいながら、人妻であるジュスティーヌを愛してしまう「ぼく」、苦しみながらもそっと身を引くメリッサ、過去の恋人から浮気相手やらがたくさんいて自由奔放そうで、なにやら抱えこんでいるジュスティーヌ、妻と「ぼく」の関係に気づいて嫉妬に狂うジュスティーヌの夫ネッシム、そしてネッシムとメリッサの関係と、四角関係の縺れの愛憎劇ってことになるのかもしれないけど、そこにチラッと秘密情報部だとか、暗号だとか、カバラを研究する結社だとか、面白くなってきそうなキーワードも出てきたよね。 | |
そうそう、なにかが暗躍しているみたいね。「ヘルメス文書」なんて言葉がいきなり出てきた時には、おやっと思ったりしたし。 | |
あと、人がたくさん死んだよね。これも1冊の小説だとしたら、ちょっと多すぎる死って感じ。4冊分で薄めて考えれば、まあ、こんなものか(笑) | |
それもそうなんだけど、グッと来るような名ゼリフがけっこう多くなかった? そのあたりも要チェックかも。ということで、これ1冊ではまだわかりませんってことで。 | |
2007.5.16 | |