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 「赤い帽子―フェルメールの絵をめぐるファンタジー」 ジョン・ベイリー (イギリス)
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ナンシー、チャールズ、クローイの三人はイギリスから、オランダのハーグにフェルメール展を見に来た。3人はフェルメールの絵「赤い帽子の女」に描かれた女性がナンシーとあまりにも似ていることに驚き、仮装パーティーでナンシーに赤い帽子をかぶせた。 そんな中、ナンシーは謎の男性に出会い、翻弄されはじめた。
にえ これは想像していたのとあまりにも違って驚いたよね。
すみ うん、著者から想像した感じでもなく、フェルメールで期待した感じでもなく、戸惑いまくりだった。やっぱり小説って読む前に内容を想像しちゃいけないとつくづく思ってしまった(笑)
にえ 初めて読む作家さんだったから、どんな方かとちょっと調べておいたんだよね、それがよくなかったのかなあ。
すみ いやあ、そんなことはないと思うけど。ジョン・ベイリーはブッカー賞の審査委員長もつとめた、オックスフォード大学の教授である文芸評論家。著作で有名なのは「作家が過去を失うとき―アイリスとの別れ」で、これは愛する妻である大作家アイリス・マードックがアルツハイマーとなった介護の日々を綴った作品で、映画「アイリス」の原作であるの。
にえ そんな著者がフェルメールの絵にからんだ小説を書いた…と想像してみていただきたいっ(笑) 絶対こういう内容は想像しないよね。
すみ これはこれで変わった味のおもしろい小説ではあったんだけどね。でもやっぱり戸惑っちゃったかな。
にえ どんな小説かというと、「第T部」と「第U部」に分かれてて、第T部はナンシーという若い女性の一人語り、この娘がなんというか、エキセントリックなのよ。
すみ ナンシーは少年のようだと言われるのを好む中性的な女性で、男性が好きなんだけど、男性から少年として愛されたいと望んでいるみたいなのよね。
にえ 一緒に旅をするチャールズに最初は恋心を抱いてるんだよね。チャールズは同性愛傾向がありながら、異性と付き合うことに決めたらしく、女性らしい魅力にあふれたクローイと恋人どうしなんだけど、実は少年のようなナンシーにしか性的な欲望を感じられない、とナンシーは思っているみたい。
すみ でも、ナンシーはチャールズが好きだといいながら、実はクローイに惹かれているようにも感じられるよね。知的で冒険好きなクローイにライバル意識も凄く強く持っているんだけれど、なんかこう、いざとなったらチャールズより、クローイにベッタリくっついていてほしいと願っているような。
にえ で、旅先ではナンシーは、「わたしの警察官」と呼ぶ実在するのかどうかも怪しいような、謎めきすぎるぐらい謎めいた男性に恋をするんだけど。
すみ ナンシーの語りを読んでいくと、なんか混乱させられちゃうよね。ちょっと知的な不思議ちゃんって感じ。
にえ ナンシーはオランダのハーグで行われたフェルメール展で見た「赤い帽子の女」の絵の中の女性と自分が瓜二つで、ビックリしてしまうんだよね。
すみ ナンシーはずっと「赤い帽子の女」は女装した男性だと主張していて、だからこそ自分とそっくりなんだと納得してるのよね。それはたしかに言われて見ると、そうかもしれないと思った。
にえ この小説では出てこなかったけど、「赤い帽子の女」は実はフェルメールの作品じゃないかもしれないと言われていて、そこがナンシーの語る内容の怪しさとピッタリだった。ナンシーの語りも怪しいし、「赤い帽子の女」もフェルメール作品かどうか、男か女かで怪しいし、怪しい相乗効果で物語がホントに怪しげだった(笑)
すみ エロティックでもあったよね。ナンシーはどうも性的なところから人を好きになる傾向があるみたいで、それで中性的だから、なおさらモヤモヤンとした雰囲気が漂って。
にえ で、フェルメールなんだけど、いよいよ3人がそれぞれフェルメールの絵の中の人の仮装をして、わ〜、フェルメールワールドに突入か〜と思ったら、そこはあっさりしたもので、あんまりフェルメール要素には期待しないほうがいいかもだった。
すみ うん、第U部なんてもうほとんどフェルメール関係なしだもんね。
にえ 第U部は語り手がローランドという男性になるの。この人によって、ナンシーの語りが真実だったのかどうか、検証されることになるんだけど。読者がローランドほどナンシーに惹かれるかどうかは疑問。でも、シックリいくようでシックリいかないような不思議さにはちょっと惹かれるよね。
すみ 読み終えてみれば、けっこうおもしろい小説だったと思うよ。風変わりテイストを試してみたい方にはオススメですってことで。
 2007.5.12