すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「タタール人の砂漠」 ディーノ・ブッツァーティ (イタリア)  <松籟社 単行本> 【Amazon】
士官学校を卒業し、将校となったジョヴァンニ・ドローゴは、9月、最初の任地であるバスティアーニ砦へと出発した。バスティアーニ砦は北の隣国との国境を守る砦だったが、今ではあまり重視されていなかった。だが、砦では国境の向こう側に広がる砂漠に何かを見たという者がたえず現われ、タタール人が攻めてくるとまことしやかに囁かれていた。
にえ ようやく読みましたっ。ってことで、新刊ではないんですが、これは私たちがいつか読まなきゃと思っていた本のうちの一冊です。
すみ 20世紀の幻想文学の世界的古典の一つとみなされていて、現代小説を読んでも、巻末解説によく「この作品は『タタール人の砂漠』に影響を受けて書かれた」なんてことが書いてあるのよね。
にえ 作品が発表されたのは1940年、ちょうどイタリアが戦争に突入してしまった年。だから、評価されたのは出てすぐじゃなく、1950年代末から1960年代にかけてのことだとか。
すみ さすがによかったよね〜。イタリア文学らしいって感じがしたし。
にえ なにを勘違いしたのか、私はずっと、この小説って、なんにも起きない砂漠をにらみつけて、なんにも起きない砦で兵士たちがダラ〜ンと過ごしている話かと思いこんでたのよね。読んだら違ってた(笑)
すみ うん、いろいろ起きたよね。私もけっこうゆったりした感じかなってぐらいには想像していたんだけど、意外と起伏のあるストーリーで、きっちりしたラストもあったし。
にえ 定番のセリフだけど、こんなことならもっと早く読めばよかったよ(笑)
すみ んで、この小説なんだけど、舞台はどこの国とははっきり特定されていないのよね。タイトルにもなっているタタール人というのも、現在のようにキチッと特定されているタタール人じゃなくて、もっと漠然とした伝説の存在で。
にえ 主人公のジョヴァンニ・ドローゴは士官学校を卒業したばかりの中尉。若くて、家に残してきた母親のことをちょっと心配しながらも、意気揚々と張り切る新米の将校。
すみ それなのに、最初の任地が古くて、忘れられかけたような砦なのよね。町からも離れて、遠くに村があるだけの閉鎖的な。
にえ 砦の向こうには谷間が見えて、その先には延々と砂漠が広がっている様子。雪みたいに白い石におおわれた砂漠ってことだから、かなり綺麗なんじゃないかと想像するんだけど、書き方的にはあんまり綺麗じゃないっぽいというか、つまらない景色と受けとったほうがいいみたいで。しかも砦の中にいるあいだは、その景色を見る機会もあまりないみたい。
すみ 2年間の勤務になるらしいってことなのよね。みんな来たがらない砦だから、2年勤務すれば4年分の評価をもらえるらしくて。
にえ 砦にいる将校や仕立屋などに会ってみると、どうやらここにいる軍人たちは2種類に分かれるみたい。とにかく早く出ていこうとする人たちと、15年、20年と長く居残る人たち。
すみ 長く居残る人たちは、なんだかいろいろ言い訳めいたことを言ってるけど、とりあえず自分で好んで居つづけているような様子なの。まあ、そのへんは追々わかってくるんだけど。
にえ で、本当に何にもない砦だから、若きドローゴ中尉はすぐに転属できるようにと、4か月後の健康診断で悪いところが見つかったということにしてもらい、それで出て行くことに。
すみ ところが、4か月経って、いざそうなると、ドローゴ中尉は出て行かないことに決めちゃうのよね。
にえ なんかそのへんの心理については、そう詳しく書いてはいないんだけど、なんかわかるな〜と思いながら読んでしまった。
すみ 砦のむこうの砂漠は、地平線にいつも霧がかかっていて、なにか来そうな気配はいつもあるのよね。珍しく霧が晴れかかってる時に、白い塔を見たとか、火山を見たとか、森の影が見えただとか、そんな噂もいろいろ流れてて。
にえ だれも真実は知らないんだよね。でも、噂だけで何もないんだろうと思っていると、実際になんか来たりします(笑)
すみ とにかく砦に勤務する将校、兵士たちのあいだには、常にいつかは何か来るだろうって予感めいたものがあるんだよね。その一方で、おかしな噂を流してはいけないって自制する風潮も、ものすごくあって。
にえ こういう言い方をしていると、やっぱり何も起きないんじゃないかって思われそうじゃない? でも、実際は本当にいろいろ起きるんだってば(笑)
すみ ただ、幻想小説といっても、いかにもってファンタジックな内容ではなくて、あくまでも現実に即したようなお話ではあるよね。最後の展開は、そう来たか〜って感じだったけど、これまた現実離れはしていないの。
にえ う〜ん、月並みな言い方だけど、これはほんとに人生そのものだね。他人事とは思えなくなってしまったせいか、読後に余韻引きまくりですわ。
すみ ということで、読みやすいし、長いってこともないし、読みたい方にはオススメです。というか、やっぱり読む価値ありでしたってことで。
 2007.4.27