すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「時間割」 ミシェル・ビュトール (フランス)  <河出書房新社 文庫本> 【Amazon】
ジャック・ルヴェルはフランスから、濃霧と煤煙に包まれた都市ブレストンを訪れた。この都市のマシューズ親子商会で一年間、フランスとの通信連絡係として働くことになっていた。 ブレストンは旧大聖堂にあるカインのステンド・グラスが有名だった。そのステンド・グラスは「人殺しのステンド・グラス」と呼ばれていた。ジャック・ルヴェルは書店で、ブレストンを舞台にしてカインとアベルの物語になぞらえたミステリー小説「ブレストンの暗殺」を見つけた。そして奇遇にも、その著者であるJ=C・ハミルトンと知り合った。
にえ 初めて読みました、ミシェル・ビュトール作品です。
すみ ふっふっふ、ストーリー紹介見ておもしろそうだと思った方、舐めてかかっちゃいけませんぜ、って感じだったよね(笑)
にえ ホントにホントに。というか、舐めてかかってたのは私たちかも。いや、ある程度の覚悟はしていたんだけど、ここまでとはね〜。
すみ ページ数以上に長さのある小説だったよね。楽しみどころも多いんだけど、とにかく長い道のりだった。
にえ 楽しみどころを先に挙げれば、まずなんといっても濃霧と煤煙に包まれた都市ブレストンだよね。とにかく緻密というか、濃厚というか、しつこいというか、まあ丁寧に描写されたブレストンの景色や雰囲気が濃厚に迫ってくる感じで、酔いしれますわよ。
すみ なかでも旧大聖堂のステンド・グラスは圧巻だよね。メインの部分にカインが描かれているから「人殺しのステンド・グラス」と呼ばれているけど、実際にはソドムとゴモラとか、バベルの塔とかの物語もあって、それと対になるように皇帝時代のローマも描かれていて。
にえ ルネッサンス期の巨大なステンド・グラスなんだよね。どんだけ巨大なんだろうと想像するだけでもクラクラしてきちゃう。
すみ あとはジャック・ルヴェルとアンとローズの姉妹、それに他の男性も含めた恋の行方、そして、ミステリー小説「ブレストンの暗殺」の著者が殺されかけて、その犯人は? というミステリー要素と、けっこう楽しみどころはたっぷり。
にえ じゃあ、なにがきつかったのかというと、まず、このお話は、ジャック・ルヴェルが10月にブリストンに来てからのお話なんだけど、書かれたのは、ジャック・ルヴェルが書くぞと決めた五月から。日記に回想しながら書いているの。
すみ その回想ってところが大変なのよね。話が微妙に前後して、先に新しい登場人物が出てきてから、あとで親しくなったときのエピソードが挿入されたりとかして、把握しづらかったり。
にえ 先に進んだり、前に戻ったりしながら、同じ話がクドクドと繰り返されたりね。
すみ それに加えて、濃密な情景描写でしょ。さすがに読んでいて疲労困憊してしまう。あ、あと、息抜きとなりそうな装画が入ってるんだけど、これがまたなにを描いているのかよくわからない点描画で、ブレストンの雰囲気を盛り上げてくれるけれど、息抜きにはならない(笑)
にえ 書いているジャック・ルヴェルの精神状態も良好とは言い難いしね。かなりナーバスな状態で書いているから、それに付き合わされることになるの。
すみ いろいろと必要なのか?ってエピソードも盛り込まれてるしね。しかもけっこうタップリ(笑)
にえ でもまあ、へとへとになりながらも読み進めれば、アフリカから来た黒人ホーレス・バックとの親交があったり、「ブレストンの暗殺」に書かれた場所を訪れるという興味深い場面があったり。
すみ うん、面白いか面白くないかと言えば、面白くはあるんだよね。どうしてここまで長々しいのとは思っちゃうけど。
にえ ここまで長くするなら、「ブレストンの暗殺」を全文載せてくれなんて贅沢言いたくなるけどね(笑)
すみ そうそう。「ブレストンの暗殺」は、「人殺しのステンド・グラス」についての著述から始まる小説で、カインとアベルになぞらえて、バーナードとジョニーという兄弟の間で、殺人があったというお話みたいなの。
にえ 弟は新大聖堂で殺されたけど、ステンド・グラスのある旧大聖堂でも、だれかが殺されたみたいなのよね。
すみ とにかくブレストンが正確に描写され、物語の背景となっているみたいなのよね。んで、その小説の舞台となっている殺人の家もまた、どうやらモデルになっている家があるみたいで。
にえ 正体を隠している著者と偶然知り合ったことで、ジャック・ルヴェルはJ=C・ハミルトンの本名を知ってしまうんだけど、秘密にしておいてと言われたのに漏らしちゃうの。それが殺人の家のモデルの本当の住人にも伝わってしまったらしくて……。
すみ なんて紹介のしかたをしてしまうと、ミステリー小説かと思われちゃうでしょ。いえいえ、これは違います。じゃあ、なにかと言うと、ブレストンと、ブレストンに摩耗するフランス人青年のお話? まあ、とにかく読むときには精神的にも時間的にも余裕を持ってどうぞということで。そうまでしても読む価値はあると思いましたっ。
 2007.4.5