=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「魔術師マーリンの夢」 ピータ−・ディキンスン (イギリス)
<原書房 単行本> 【Amazon】
愛する女性に裏切られ、岩に閉じこめられたマーリンが、まどろみ、意識を戻しかけてはまた夢を見る。 マーリンの見る夢は、様々な神秘の魅力に満ちた物語だった。 <さまよえる騎士> しょぼくれ騎士サー・トレマリンのもとにやって来た少年デイは、ドラゴンのいる森を抜け、三人の邪悪な 騎士からボーソレイユという町を救ってくれと頼みこんだ。 <石> 大きな箱をしょったスライが、しけた村にたどり着いた。スライは、にらまれた者が石となるコカトリスが 箱の中に入っている、金を払えば鏡越しに見物させてやると村人たちにもちかける。 <剣> 逃げ足が早いことから韋駄天(いだてん)王子と呼ばれていたリオネスは、人魚の一族の助けを借り、ドラ ゴン退治に乗りだした。 <隠者> 路傍の宿屋。長年会うことがなかった幼なじみの漁夫と司祭が出会い、会話をするという設定の詩。 <一角獣> 森のはずれの村で祖母と暮らすリアノンが森にはいると、白い馬がどこからともなく姿を現す。その馬は ユニコーンの仔馬、リアノンにトリュフの場所を教えてくれる。 <乙女> 城に迷い込んだ犬に誘われ、冒険の旅に出た少年騎士ヒューは、犬と魂を入れ替えることができる少女シ ネラと出会った。シネラは父を殺した叔父の狼を退治してほしいという。 <王さま> 助けを求めて王を探しにきたセリは、不思議な男の助けで、ボロ服をまとい、酒に溺れた王を見つけた。 <スキオポド> 旅芸人の一団が、ヘルノの村にやってきた。彼らの運ぶ檻から逃げ出した動物は、一本脚で草しか食べない 不思議な人間。ラルと名づけられ、村で暮らすこととなった。 <魔女> ”あの女”の住む城のまわりは土地が肥え、収穫に恵まれていた。ただ、美しい子供が生まれると、14歳 で”あの女”の城に行き、姿を消してしまう。そんな地で、とびきり美しい女の子ファラと、二目と見れな いほど醜い男の子ダンが同時に生まれた。 | |
まあ、ビックリ、ビックリ。なにが驚いたって、この美しい挿絵! | |
挿絵画家は、アラン・リーっていう人で、『指輪物語』愛蔵版 の挿絵で有名な人だそうです。 | |
どう綺麗って、まさに挿絵のなかの挿絵、挿絵としての美しさ を極めてるよね。 | |
光の入れかたが巧い絵だよね。顔に特徴がなくてイメージを膨ら ませやすいとか、文章に忠実な背景とか、そういう挿絵の基礎をきっちり固めつつ、光が溢れて華やかで 奥行きがあって、とにかく綺麗。この人が描くと、暗闇までも光が溢れてるの。 | |
その超一流の挿絵が惜しげもなく、ふんだんに使われてて、しか も翻訳したのは、アーサー王やケルト神話の本を多数訳しているイギリス19世紀文学の専門家、で、文章 はもちろんピカイチのディキンスンでしょ、この一流ぞろいで1900円はいまどき安い! | |
テレビショッピングじゃないんだから(笑) でも、カラーの 挿絵も多くて、ほんとに美しい本だよね。 | |
そう、で、その美しい挿絵にひっぱられるように読んでいくと、 物語がまた楽しい。 | |
マーリンの意識が戻りかける部分の重厚な雰囲気の文章が 差し挟まれながら、短編が連なっていくってかんじになってるのよね。 | |
そう、そのマーリンの夢の部分の、ひとつずつの物語が楽し いの。 | |
あらすじで紹介すると、ストーリー的には正統派の童話って かんじだけど、読むと昔話っていうよりずっと現代的な雰囲気だよね。 | |
ディキンスンが少年少女のために書いたSF、大変動シリーズ に近いかも。神話や中世の騎士物語を土台にしたファンタジックなSFってよく見かけるけど、そういうも のを読んでるって感覚、なかった? | |
あった。なんだろう、物語の展開としては、童話的世界に終始 してたのにね。 | |
言葉を使いつくしたような説明部分の文章と、からっと割り切っ たような登場人物の性格、めでたし、めでたしで終らせないラストへの持っていきかたのせいかもね。 | |
そうそう、少年と少女が出てきて、協力して敵をやっつけても、 最後は、じゃあ、終ったから私は私の道を歩みます、あなたはあなたの道を歩んでください、みたいなこと になって、二人は結婚して幸せに暮らしましたとさ、とはならないんだよね。 | |
女の子は特にね。なよなよしたお姫様とか出てこなくて、 やけに独立心旺盛で、やっぱりディキンスンだな〜ってちょっとほくそ笑んでしまいましたよ(笑) | |
男の子だってそうじゃない。ドラゴンだの魔法使いだのを やっつけても、たんまりご褒美もらって、親孝行して、なんてことにはならない。ああ終った、終った、 みたいな恐るべき冷めかたで(笑) | |
でも、年寄りは賢者だし、王さまはワガママだし、継母は あやしいし、脇役の登場人物はきっちり定石を踏んでるよね。 | |
そうそう、ひねりすぎてないから安心して読めるよね。 | |
あと、騎士とか、ドラゴンとか、人魚とか、別に新たな知識を 身につけなくても知ってる範囲で出てきてくれるから、ついていくのも楽だった。 | |
ストーリー自体も、悪者をやっつけに行くとか、不思議な生 き物を悪者から守るとか、非常にわかりやすかったし。 | |
わかりやすすぎて、ややネタバレしすぎてる気がした部分も あったけど、まあ気楽に読めるってことでそれは許そう(笑) | |
あ、それだったら私は、マーリンの独白的な部分のじとっと した重厚さと、短編部分のカラッと明るい色調がどうしてもつながっていかなくて、違和感かんじまくり だったよ。 | |
まあ、それもメリハリってことで(笑) とにかく美い本な ので、見かけたらパラパラとめくるだけでも、ぜひどうぞ。 | |