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 「ラデツキー行進曲」 ヨーゼフ・ロート (オーストリア)  <鳥影社 単行本> 【Amazon】
ソルフェリーノの戦いで、自分の身を挺して皇帝フランツ・ヨーゼフの命を救ったトロッタは貴族となり、その息子は郡長に、孫は軍隊に入って少尉となった。 トロッタ家三代の歴史は、皇帝フランス・ヨーゼフが治めるオーストリア=ハンガリー君主国とともにあった。
にえ ようやく読みましたって感じなんですが、私たちにとっては初のヨーゼフ・ロート(1894年〜1939年)作品です。
すみ これはヨーゼフ・ロートの「最大の、そして最高の作品」と言われているそうだけど、たしかに読みごたえ充分、綺麗にまとまって出来は上々って感じだったよね。
にえ この作品の邦訳本が初めて出たのは、昭和42年(1967年←巻末解説ではこの西暦が1964年になってしましたが)ということで、やっぱりちょっと当時の情報不足とかから、誤った認識による訳とかもあったりするそうで、今回の新訳がとうぶんは決定版ってことになるみたい。
すみ 訳者さんは他のヨーゼフ・ロート作品もたくさん翻訳していて、思い入れもしっかりある方みたいね。さすがにキッチリ訳してくださってましたっ。
にえ 原書が初めて出版されたのは1932年ってことで、今から75年ほども前だから、やっぱり読んでいて、現代の小説よりテンポはゆっくりで、古い小説って感触だったけど、最後まで読んだら、印象がけっこう変わったかな。
すみ うんうん。ああ、これは単に男三代の物語ってことじゃなくて、この一家の物語が、そのままオーストリア=ハンガリー君主国の興亡の物語となっていたのね、と納得して、凄い小説を読んだんだなと実感がわいてくるよね。
にえ まあ、歴史に弱い私は読んでるあいだ、第一次世界大戦はセルビアでオーストリア=ハンガリー君主国の皇太子が暗殺されたことから始まったという、たぶん歴史の授業で習ったはずの史実を思い出しもしなかったんだけど(笑)、とにかくそこに至るまでの流れが小説によってキッチリわかるし、オーストリア=ハンガリー君主国の内側から見ると、こんな感じだったんだとあらためて知ることができるよね。
すみ うん、古式ゆかしい、名誉を傷つけられたことでの決闘、初めての労働者のストライキ、デモ、高らかに歌い上げられるインターナショナル、軍隊との衝突、老いていく皇帝…と時代に沿って移り変わっていく様をまざまざと見せつけられた。
にえ ついでに、だれでも何度か耳にしているはずの「ラデツキー行進曲」がオーストリアの将軍ヨーゼフ・ラデツキーを称えて作られた曲だということも、あらためて認識してしまった(笑)
すみ それはべつに小説のなかで説明されているわけではないけどね(笑) でも、ラデツキー行進曲はたびたび懐かしい思い出のなかで流れる曲となって、とっても印象的だった。
にえ それにしても、ヨーゼフ・ラデツキー将軍、フランツ・ヨーゼフ皇帝ときて、三代の主人公の初代がヨーゼフ・トロッタ・フォン・ジポーリエで、その人に仕える下男の本名がフランツ・クサーヴァー・ヨーゼフ・クロミヒルで、ついでに言えば著者はヨーゼフ・ロート、って、フランツだらけ、ヨーゼフだらけだったね(笑)
すみ オーストリア=ハンガリー君主国では、フランツ、ヨーゼフがそれほど溢れかえってたってことなのかなあ。
にえ どうなんでしょう。とにかく、初代のヨーゼフ・トロッタ・フォン・ジポーリエは、ソルフェリーノの戦いで、たまたま皇帝の命の恩人となるの。それで男爵の地位が与えられたってところから、この物語が始まるんだけど。
すみ ヨーゼフ・トロッタ・フォン・ジポーリエは、その後、除隊して、「ソルフェリーノの英雄」と呼ばれ、教科書にまで載るほど讃えられるんだけど、そこには自分の思いとは違うものがあって、息子のフォン・トロッタは軍人にはしないの。
にえ 一代目は軍人で、二代目フォン・トロッタは軍人になりたかったのに、一代目にダメだと言われて軍人にはなれず、三代目カール・ヨーゼフは軍人になることを望んでいなかったのに、二代目から夢を押しつけられるように軍人にさせられるのよね。
すみ なんとも皮肉だけど、時代ならではの父と息子の関係だよね。
にえ 小説でおもに語られるのは、三代目のカール・ヨーゼフなの。さっきテンポはゆっくりと言ったけど、淡々とした流れの小説ではないのよ。カール・ヨーゼフには、いろんなことが起きるの。
すみ 好きになってはいけない女性を好きになったり、決闘事件が起きたり、自殺があったり、スパイがいたり、戦闘があったり、お金の問題が起きたり、その他もろもろ、いろんなことが次々に起こって、起伏はタップリよね。
にえ そんなカール・ヨーゼフの生き様を追っていくあいだにも、父であるフォン・トロッタ郡長の息子への深い思い、愛情を上手に表現できないまま息子のことを思い悩む姿が見えてきたりもするの。
すみ カール・ヨーゼフは、なんだかしっかりしてるようでも頼りなくて、読んでいて心配になってしまう青年だったよね。結局、いろんなことをやったけど、すべては他人の意志に沿ったまでという印象があった。恋愛にしても、人生での大切な選択にしても、突発事件への対処にしても。
にえ それは、あなたはギャンブル向きじゃないと断言されて、初めてギャンブルをやってみるところなんかにも象徴されてたよね。
すみ 一家には常に皇帝の後ろ盾があり、栄華を極めるかと思えば、内情は違っていたりもして、やがて一家は…、オーストリア=ハンガリー君主国は…とそういう小説でした。うん、読んでおいてよかったと納得の一冊です。読むつもりがあった方はこの機会にぜひぜひってことで。
 2007.3.6