=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「マリー・アントワネット」 アントニア・フレイザー (イギリス)
<早川書房 文庫本> 【Amazon】 (上) (下)
女帝マリア・テレジアの末娘にして、フランス王ルイ16世の妃であったマリー・アントワネット(1755〜1793)の生涯を、豊富な文献から追った伝記。フランス国民に憎まれ、断頭台の露と消えた王妃マリー・アントワネットはいったいどんな女性だったのか。 | |
はい、ということで(笑)、この本が原作の映画が公開ということで読んでみました。 | |
読むとわかるけど、原作というより原案って感じだろうね。これはストーリー性のある小説的なものではなかったから。 | |
伝記小説じゃなくて、伝記なんだよね。マリー・アントワネットの生涯が順を追って語られていくんだけど、残存する手紙や覚え書きなどがたくさん引用されてて説得力はあるんだけど、物語に酔ったり、感情移入したりするような、そんな感じではなかった。 | |
淡々と調べ上げた事実を並べていくって感じだったよね。 | |
そのわりには、ポリニャック夫人とか、フェルセン伯爵のこととかは抑えめにして、ルイ16世との心温まるエピソードは多めにしてあったりとかして、著者の意図が透けて見えるような感はあったけどね(笑) | |
でも、これまで持ってたイメージがかなり変わることはたしかだよね。ずいぶんと間違った認識を持ってたんだな〜とシミジミ思った。 | |
うんうん、しかも残ってる文献でキッチリ説明してあったり、どうしてこういう性格になったのかとか、調べたことから詳細に説明してくれてあるから、説得力があったし。 | |
マリー・アントワネットについては、産まれる前から出産、0才…とそういうところからシッカリ追っていたよね。 | |
まあ、出産やら0才やらでのまわりの出来事となると、主人公であるはずの人がいないも同然だから、ちょっとつまんないと言えばつまんないんだけど(笑)、性格とか教養とか、どうして母親のマリア・テレジアを恐れることになったのかとか、そういうことをわかるためには必要だった。 | |
女帝マリア・テレジアは、夫を差し置いてオーストリアを統治し、勢力を広げながらも、なんと16人の子供を産んだんだよね。マリー・アントワネットが産まれたときには娘が3人亡くなっていたそうだけど、それにしたって末娘として産まれたマリー・アントワネットに充分愛情を注いで、甘やかして育てるってことは無理だったかも。 | |
それじゃなくてもキツイ性格だったみたいだしね(笑) 愛情はほとんど示されることなく、ただただ怖い存在の母親が遠くにいるだけのマリー・アントワネットは、まわりの人にかわいがられたい一心で、愛想のいい子供になっていくの。 | |
甘えたがりで、出しゃばりではなくてちょっと控えめ、人なつっこい笑顔にはだれもが心惹かれる、そういう少女だよね。 | |
勉強が苦手だったことも、どうしてそうなったか詳しく説明されてあったよね。マリー・アントワネットは勉強が苦手で読み書きもままならず、歴史はサッパリ、集中力がなくて怠惰だったみたい。 | |
でも、音楽の才能があって、とくにハープ演奏が得意だったんだよね。ダンスの優雅さは際立っていて、そのためにふだんの身のこなしもとっても優雅だったみたい。 | |
いろいろ細かい欠点があって美人とは言えなかったみたいね。でも、肌が美しくて立ち振る舞いが優雅だったから、美人というのが定説になったみたいだけど。 | |
そうそう、マリー・アントワネットといえば美しい王妃ってイメージだったから、顔の欠点をいろいろ挙げられているところには驚いた。そうだったのか…。 | |
あと、性格では、好奇心が強くてよく笑い、下々の者にも分け隔てなく親切で、とにかく、だれかに親切にして感謝されることに生き甲斐を感じていたみたい。人に親切にするチャンスをいつも狙っているような。それから、子供がとっても好きで、子供を見ると、もう猫っかわいがりしちゃうの。 | |
そんな少女が、母マリア・テレジアの策略によって、わずか14才でフランスの皇太子ルイ16世のもとに嫁入りしちゃうのよね。 | |
ヴェルサイユ宮殿の描写については、驚くことが多かったな〜。「私は全世界が見ている前で紅をはき、手を洗います」というのはマリー・アントワネットが書いた言葉だけど、まさにその通り、町の人たちも観光客もヴェルサイユ宮殿に入ることができて、好き勝手に歩きまわることができたそうなの。だから、マリー・アントワネットは食事をするときも人に囲まれて見つめられていたし、なんと着替えをするときもじろじろ見られて、あげくに出産するときまでベッドのまわりにワイワイ人が集まってくる始末。 | |
一般人が入れたっていうのはなんとなく知っていたけど、そこまで極端とは思わなかったよね。自分が住んでいるところに見ず知らずの人たちが大勢で入ってきて、生活しているところをその大勢の人たちに、四六時中、間近で見つめられてるっていうのはどういう気分のなのか。 | |
いったんはフランス国民に愛されたマリー・アントワネットが、どうして多くの誤解を招き、最後には嫌われまくったのか、そのへんについても資料からキッチリ説明されていたよね。 | |
でもさあ、一番思いこんでいたのと違っていたのは、ルイ16世かも。なんか政治にも家族にも愛情にも興味がなく、自分の趣味ばっかりに没頭していた人ってイメージがあったんだけど、実際に残っている資料を紹介してもらうと、家族愛に満ちあふれて、妻であるマリー・アントワネットを男らしくかばっていたし、ちょっと優柔不断なところはあっても、政治についてはきちんとやっていこうとする姿勢が見られたみたいだし。 | |
マリー・アントワネットにもルイ16世への愛情がたしかにあったみたいだしね。その愛情が私たちの感覚とはちょっと違うのかもしれないけど。当時は政略結婚が当たり前で、好きでもない人どうしの結婚が多かったから、結婚後に他の人と恋愛をすることが夫婦間でそれほど責められることではなかったみたいで。 | |
恋人は入れ替わっても、一生をともに過ごす夫とは運命共同体という深い絆で結ばれているという感じかな。とにかくルイ16世をとても大切に思っていたのはたしか。 | |
母マリア・テレジアの教えが強く胸に刻まれていたみたいだしね。夫に従順であれ、フランス国民に愛されるようにしろっていうのが、マリア・テレジアがしつこいほどにマリー・アントワネットの頭に叩きこんだことで、マリー・アントワネットはその教えを忠実に守ろうとしていたみたい。 | |
マリア・テレジアはそのわりに、自分は夫を差し置いて女帝となったし、マリー・アントワネットにも自国オーストリアのためにフランスを利用しろ的なことを何度も言ってきたりとかしているけどね。 | |
とにかくまあ、情報量はたっぷりで、これまで書かれてきたところとは違う面がいっぱい紹介されているから、そういう発見の楽しさはあるよね。小説的に楽しむって感じではなかったけれど、マリー・アントワネットの短い生涯については、あらためて悲しみがわいてきた。 | |
映画を楽しんだあと、マリー・アントワネットをもっと知りたいと思った人が読むのにいいのかもね。先にこの本を読めば映画の理解も深まるだろうし。とりあえず、映画とセットがいいのかも、と思った私たちでしたってことで(笑) | |
2007.1.22 | |