すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「睡蓮の教室」 ルル・ワン (中国→オランダ)  <新潮社 クレストブックス> 【Amazon】
1972年、文化大革命下の中国。12歳の水蓮は、母と暮らす地方の「再教育施設」で、ともに収容された知識人たちから学校では決して教えてくれないことを学ぶ。友だちのいない日々の慰めは、睡蓮の浮かぶ池のほとりで、カエルやコオロギに架空の講義をすることだった。やがて北京の学校に戻った彼女は、貧しさゆえに蔑まれる級友・張金を助け、彼女を最優等の地位に押し上げるのだが―。欺瞞と差別に満ちた時代を懸命に駆け抜けたふたりの少女。その友情と性のめざめを描く、野心的自伝長篇。ノニーノ国際文学賞受賞。 (「BOOK」データベースより)
にえ こちらは初邦訳の作家さんで、これがデビュー作だそうです。著者は中国で生まれ育って、26才でオランダに渡ったんだそうです。
すみ これはなんだろう、夢中になって読める魅力がタップリなんだけど、アラもはっきり目立つ小説だから、先にそのへんがわかって読んだほうがいいかもしれない。
にえ まず、2つの小説をむりやり繋ぎ合わせたような感じがしたよね。
すみ 主人公の水蓮が寄宿舎で白い斑紋が体に出る病気になって、母親の入れられている労改に連れていってもらうんだけど、そこで素晴らしい人たちと出会う話と、張金という女の子と友情を結ぶ話の2つでしょ。
にえ そう、なんか主人公の性格も微妙に違ってて違和感があったな。労改の話のほうでは、主人公は文革のなかでも現代っ子のキャピっとしたところもあり、母親に叩かれても思ったことをパッと口にしてしまう若さならではの軽薄さと率直さがあって、同じ寄宿舎の子にみんなで意地悪したりとか、負けん気の強さがあったりとか、そういう「そのまんま」ってところが魅力なんだけど、張金との友情の物語では、なんか急に用心深くて、顔色をうかがいながら動くようになっちゃって。
すみ 時系列でいうと、張金との友情→労改→張金との友情、なんだよね。だから時間とともに性格が変わったとも言えないかも。
にえ だからけっこう2つの話はつながってはいても別物と思って読んだほうがいいかもしれない。あとはやっぱりラストのところかな。
すみ うん、あれはリアルな話と思って読んでると、ギョッとしちゃうかもね。急にいかにもなフィクションの世界って感じになっちゃって。あそこは覚悟をしとかないと、裏切られたって気がしちゃうかも。
にえ そういう、読んでて気になりまくってしまうところはありながらも、魅力もタップリなんだよね。
すみ まず背景となる文革の矛盾とか、姑息な手口とか、それに対する人々の反応とかはホントにリアルで鳥肌ものだった。
にえ 労改のなかで出会う大人たちとの触れ合いもすごく良かったしね。インテリを叩き直すためのところだから、畑でこき使われていたり、ブタの世話をしていたりする人たちが、有名な著書で知られる中国でも指折りの学者だったりするの。
すみ 水蓮の両親も、父親が医者で、母親が大学教授なんだよね。父親は遠くに行かされていて不在なんだけど。
にえ 大人ばかりの労改にたった一人の少女、水蓮に、英語、歴史、数学など、それぞれ中国屈指の学者が教師となってくれるんだよね。みんな水蓮によって教える喜びを蘇らせ、未来のある水蓮に希望を託すの。
すみ お母さんもけっこう強烈だったよね。娘のために頑張るんだけど、つい鉄拳制裁にもなりがちで。
にえ 労改を出て、学校に通うようになってからは、コロコロと変わっていく方針に振り回される教師、生き残るためになりふりかまわない生徒たち、ってそのへんも自分だったらと考えずにはいられないような流れに迫力があって引き込まれた。
すみ 張金をめぐる階級差別も考えさせられるよね。インテリや富裕階層を軽蔑しろ、労働者を見習え、農民を身ならなえと言われながらも、張金のような貧しい家庭の子は凄まじい虐めにあって。
にえ 単純に貧しいと金持ちって分かれ方じゃないんだよね。親の職業によって、子供たちも何層にも分かれていて、教師も公然と区別しちゃってるの。
すみ 水蓮は最上階層に属していてで、張金は一番下の階層のなかでもまた見下されるたった一人、その二人の少女が友情を育んでいくんだけど、同じ文革のなかにあっても、まったく違う暮らしをしていることに愕然としてしまうのよね。
にえ 学生が農村に出される場面でも、インテリ層だったら口にしただけでとんでもないことになるところを、農家の人たちは平気で口にしていたりとか、そういう違う世界で生きているような感覚もヒシヒシと伝わってきたね。
すみ 生活じたいも全然違うしね。弾圧されているとはいえ、清潔な暮らしをして、きれいな服を着ている生活をする人々と、優遇されていても地を這うような生活をしている人たちと、そういう矛盾がホントにビシバシ伝わってくるの。
にえ そんな中でも熱い人と人との繋がりがあったりもするしね。でも、それで乗り越えられないものもあったりするんだけど。とにかく読みごたえがあった。
すみ 完成度というとどうなんだろうってところはあるけど、書く気迫がそのまま魅力ともなってるし、とにかく読み取るところも多かったしで、夢中になって読めたよね。ということで、そのへんモロモロ覚悟のうえでって条件付きでオススメですっ。
 2006.11.27