すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「サブリエル 冥界の扉」 ガース・ニクス (オーストラリア)  <主婦の友社 文庫本> 【Amazon】 (上) (下)
アンセルスティエールと古王国(こおうこく)は隣接する異世界だった。アンセルスティエールは20世紀初頭のイギリスのような普通に文明が発達していっている国、古王国は魔術が栄え、死霊が徘徊する、冥界への扉が開かれる国。アンセルスティエールの寄宿学校を卒業しようとしている18才の少女サブリエルは、古王国のアブホーセンの娘だった。アブホーセンとは、ネクロマンサーでありながら、死者を生き返らせるのではなく、死者を正しく冥界に送る役割をする、古王国でも特殊な存在だった。 大学進学について父に相談しようとしていたサブリエルのもとに、父からアブホーセンとしての大切な道具である剣とベルが届いた。それは、父が亡くなったか、冥界で拘束されてしまっているということだった。サブリエルは父を捜すため、『壁』を越えて古王国へと旅立った。1995年オーストラリア・ファンタジー大賞受賞、1997年米国図書館協会ベスト・ブック選定。
にえ これは<古王国>シリーズ三部作の第1部に当たる作品です。というか、この作品が人気沸騰で、続編、そのまた続編ができて三部作となったらしいけど。
すみ 翻訳本は単行本ではもう3作とも揃っているんだよね。で、今年(2006年)になってから、第1部のこれ、そして第2部の「ライラエル―氷の迷宮」が文庫化され、もうちょっと待てば第3部「アブホーセン―聖賢の絆」も出るかなというところ。
にえ んで、とにかく評判がいいので読んでみたんだけど、上巻の半ばぐらいまではちょっときつかったかな。 
すみ ともに行動することになる猫のモゲットや青年タッチストーンが出てくるまででしょ?
にえ そうそう。主人公のサブリエルがアンセルスティエールの学校から、父を捜しに古王国へ行って、父の家にたどり着くまでは、サブリエルは典型的な優等生タイプで感情移入できないし、話は見えてこないしで、ちょっと辛かった。
すみ サブリエルは古王国でアブホーセンの娘として生まれながらも、5才の時から隣の国アンセルスティエールの寄宿学校に預けられているから、古王国についてはほとんどなにも知らないんだよね。
にえ なんで隣接する二つの国がまったく違う世界なのかって説明は最後までなかったよね。とにかく、アンセルスティエールはそろそろ飛行機も飛びはじめたっていう普通の文明社会、古王国は魔術に死霊に冥界に…とまったく別世界。
すみ しかも、古王国は王がいなくなって、かなり荒れてしまっているんだよね。国境は軍隊が守っていて、なんとか死霊がアンセルスティエールまで入ってこられないようにしているみたいだけど。
にえ とにかくサブリエルはまったくと言っていいほどなにも知らないから、謎だらけで旅が始まって、サブリエルについては学校の成績がいいとか、監督生だとか、そういう説明だけだから、とりつく島がないって感じで。
すみ でもさあ、あとになってくると、サブリエルはこういう性格にするしかないんだなと納得するよね。なにも知らないのに重責を担うことになるから、やっぱり責任感の強い優等生タイプじゃないとやり遂げられないって感じで。
にえ そうだね。とにかくわけがわからないままのサブリエルの旅が、父親の家にたどり着いて猫のモゲットに出会うことで、ようやく説明も入り、活き活きとした会話も始まるの。
すみ なにしろモゲットは猫のようで猫じゃない、話もできる猫だからね(笑)
にえ モゲットは何代にも渡ってアブホーセンに仕えてきたんだよね。でも、もとは魔物だったりするみたいで、今でも逃げ出す隙を狙っているような? とにかく謎の存在なの。
すみ そのあとで出会う青年タッチストーンも謎の存在なんだよね。200年ぶりに目ざめて、なんだか古王国が今のような無法地帯になってしまった原因になるようなことをしてしまったみたいなんだけど。
にえ 古王国のことをほとんど知らない少女サブリエル、200年ぶりに目ざめた青年タッチストーン、魔物の化身らしき猫のモゲット、この3人で悪と戦う旅をすることになる、と、そういうお話よね。
すみ 冒険ファンタジーと言いたいところだけど、明るく楽しいイメージじゃなくて、けっこう暗いし、怖ろしげなのよね。人はけっこうざくざく死ぬし、残酷なところもあるし。
にえ いろいろ謎があって、サブリエルも疑問をタップリ抱えこむことになるけど、最後までに全部はわからないんだよね。けっこう謎として残った部分が多いかも。
すみ 重苦しいし、スッキリはしないよね。でも、まだまだたくさんの謎が残されているってことで、気に入れば、どんどんハマっていける世界かも。
にえ わからないことだらけでも、一気に読めるおもしろさはあるしね。チャーターとか、剣とかハンドベルとか、冥界を行き来したりとか、ファンタジー好きの食いつきどころもタップリあるし。
すみ うん、ちょっと全体には、文章にこなれていない硬さも感じられたりもして入りこみづらさもあったりしたけど、ダークな世界で、謎もタップリ、道具立てもタップリがお好みの方だったら良いかもですよってことで。
 2006.11.15