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 「アフリカ農場物語」 上・下  オリーヴ・シュライナー (南アフリカ)
                                 <岩波書店 文庫本> 【Amazon】 (上) (下)

1862年、南アフリカのある農場で、二人の少女と一人の少年が育っていた。三人は仲が良かったが、その性格や考え方はそれぞれ大きく異なっていた。ある日、農場管理人のオットーが、ボナパルト・ブレンキンズと名乗る男を連れてきた。ボナパルトはアイルランド人で、赤く醜い鼻を持ち、汚れた一文無しだったが、自分は裕福な貴族だったが、不幸が重なって今は困っているのだと言い張った。
にえ これは、アフリカ文学の先駆者で、グラッドストーンやショウなど、多くの作家に感銘を与えたという、オリーヴ・シュライナー(1855−1920)の代表作、ということで読んでみました。
すみ 私たちの線の引き方だと、これは古典ってことになるよね。古典を読んだときって、「現代文学としても充分通用する」とか、「現代文学にはない良さがある」とかって褒め方があると思うんだけど、これは……。
にえ 褒める言葉が思いつかないよね(笑) 感想をあえて言うなら「なんだこりゃ〜」って感じ。でも、あまりにもなんだこりゃ〜だからなのか、やっぱり私らごときが気づかないところで優れたところがあったのか、放り出そうって気にはまったくならずに最後まで読んでしまった。
すみ まとまってないだけに先の予想がつかないよね。もうオチは読めた、と思って、止めるタイミングがなかったかも(笑)
にえ 部分、部分では予想がつくけどね。なんというのか、全体的には「つぎはぎ」の印象なの。
すみ まず上巻は、平和な農場に悪の心を隠し持った男がやって来て、善良な人がその男のために悪者にされてしまうという、まあ、ありがちな話がかなり下手に感じてしまうストーリー展開で語られているのよね。
にえ その悪い心の持ち主、ボナパルト・ブレンキンズが薄っぺらい悪人像なんだよね、ハリボテ人形のようでございました(笑)
すみ ボナパルト・ブレンキンズより、この舞台となる農場のほうが謎だらけだったよね。エム、リンダル、ウォルドーっていう三人の子供がいるんだけど、三人とも素性があまり明かされていないというか。
にえ エムはこの農場の持ち主の娘なのよね。イギリス人の両親の元に生まれたんだけど、母親が亡くなって、父親がサニーおばさんと呼ばれるボーア人(南アフリカ共和国に住むオランダ系の移住民とその子孫のこと)と結婚して、そのあとに父親が亡くなって、それで継母のサニーおばさんが遺産管理人になっているみたいで、大人にならないと農場はエムのものにならないの。
すみ リンダルはエムのいとこで、一緒に暮らしているんだよね。両親はいないみたいなんだけど、どうしていないんだか。
にえ ウォルドーは農場管理人のオットーの息子なんだけど、オットーはドイツ人で、ウォルドーのような子供がいるっていうのはかなり違和感のある老人なの。しかも、母親はいないし。両親が亡くなって、祖父が養子にしたとかじゃないのかな〜と思うんだけど、それについてはなにも語られていなかった。
すみ 流行病が通り過ぎたあと、とかって設定なのかなあ。働き盛りの大人がここまでいなくなっているってことは。それにしたって、なにか書いてくれていてもよさそうなものなのにね。
にえ エムは見た目は平凡だけど、思い遣りあふれる少女なのよね。リンダルはかなりの美少女で、賢く野心的。で、ウォルドーは体が大きくて童顔で無口だから、周囲の人には知的障害者として扱われているみたい。
すみ でも、本当は知識を渇望して本をよく読むし、発明をしたりとかもする子なのよね。ただ、神は好きじゃないけど、キリストは好きだから死んでキリストのそばへ行きたいとか、なんかそんなことばかり考えていて、ちょっと不気味な子なの。
にえ で、下巻に入ると、まずはストーリーとはほとんど関係なく、ウォルドーが宗教論を長々と語りだし、続いて、なんかの啓示を与える役目らしい男が現れて、唐突に宗教的な物語を語り出し、それからようやくストーリーに戻ったと思ったら、今度はリンダルが独自のフェミニスト論を語り出し、それからリンダルをめぐる愛の攻防戦の物語へと展開していって。
すみ その最後のロマンスのところでも、前後にあまり関係なく、ウォルドーの放浪記が割り込んでたよね。全体としてはホントに、まとまりがないというか、いくつかの違う話を寄せ集めて、むりやり一つにまとめたって感じだった。
にえ しかも、全体としては妙に野暮ったいしね(笑) 
すみ でも、カルーブッシュにミルクブッシュ、こんもりと盛り上がったコピに、棘だらけのプリックリー・ペアー、なんて景色の描写には、わ〜、南アフリカ〜みたいな、食いつきどころはあったよね。
にえ 人種が混在している不思議さも、ならではだったよね。イギリス人、ボーア人、アイルランド人、ホッテントットにカフィール、あとのほうではもっと他にも。
すみ ストーリーで、こりゃオリジナリティにあふれてるわと思ったのは、ある男性が愛のために女装をするんだけど、そこのところかな。これって当時としてはかなり斬新なんじゃないの。
にえ まあ、でも、その女装をした人もイマイチ人物像としてはまとまりがなかったし、無茶と言えば無茶な話ではあったけど。
すみ でもまあ、出来損ないっぽい感じがしたにしても、書く熱意だけはヒシヒシと伝わってくる感じで、意外とおもしろかったですよってことで(笑)
 2006.10.26