すみ=「すみ」です。 にえ =「にえ」です。
トーベ・ヤンソン・コレクション7 「フェアプレイ」 (フィンランド)  <筑摩書房 単行本> 【Amazon】
七十歳を過ぎた二人の老嬢、版画家のヨンナと作家のマリが主人公のごく短い話ばかりの短編集。
<掛けかえる>
マリのアトリエの壁を、ヨンナは勝手に模様替え。マリはなにも言わないが、雑然と並べられた写真には、それなりの意味があった。
<ビデオマニア>
二人は港に近い大きなアパートの両端に住んでいる。二人で古い映画のビデオを見て、語り合うのが好きだった。
<狩人の発想について>
二人は珊瑚礁をとりかこむ環状の岩島に住んでいる。ヨンナはピストルを撃つのが好きだが、マリはそれが嫌だった。
<猫の魚>
島に住む二人は、猫を飼い、時々食べるための漁をする。使うのは、マリの叔父トルシュテンが作った中でも最高傑作の網だった。
<あるとき、六月に>
島に住む二人のもとに、ヘルガという女性が訪ねてきた。ヘルガはガールスカウト時代のマリのママの信奉者で、マリのママのスクラップブックを作っていた。
<霧>
島に住む二人はボートで沖に出たが、霧に囲まれてしまった。時間をやり過ごすために話すのは、二人のママの話だった。
<キリング・ジョージ>
マリは出来上がった作品をヨンナに読んできかせるが、ヨンナはなかなか気に入ってくれない。
<コニカとの旅>
ヨンナはコニカの八ミリカメラがお気に入り。二人はコニカで撮影するため、<大水族館>に向かった。
<B級ウェスタン>
ヨンナはバーボンのウィスキー、コルテス葉巻をおともに、B級ウェスタンのビデオを見るのが好きだ が、マリはウェスタンが好きではなさそうだ。
<大都市フェニックスで>
二人は旅をして、アメリカのアリゾナ州フェニックスにたどり着いた。そこで知り合った女性ヴェリテ ィが、なじみのバーに連れていってくれた。
<ウラディスラウ>
二人は街の中に住んでいる。マリのもとに、マリの作品をマリオネットに仕上げるウラディスラウという九十二歳の男性が訪ねてきた。
<花火>
マリのもとに、リネアという女性から手紙が届いた。リネアは五十歳ぐらいの女性で、人生の意味についてきいてきた。
<共同墓地>
マリが突然、共同墓地に関心を持つようになった。ある日二人は、共同墓地で不思議な少年に出会った。
<ヨンナの生徒>
ヨンナがミリィヤという銅版画の生徒をひきうけた。愛想もなく才能も感じられないミリィアの面倒をみすぎるヨンナに、マリが言った決定的な言葉とは。
<ヴィクトリア>
島に住んでいる二人の船は、ヴィクトリア号という。嵐の夜、ヴィクトリア号を心配しながら、二人は それぞれのパパの思い出を語り出す。
<星について>
マリの弟トムは、二人が住む島のすぐそばにある島に住んでいる。マリの旧友のヨハンネスが、孤島で 一夜を明かしたいと連絡してくる。準備をするマリとヨンナとトムだったが。
<手紙>
ヨンナはある手紙をきっかけに様子がおかしくなってしまった。心配するマリだったが。
にえ 上の紹介がすんごい長くなってしまいましたが、ほんとに短い お話の積み重ねです。
すみ 主人公は老嬢のヨンナとマリ。ヨンナは絵の関係の仕事をして いて、マリは挿絵も描く作家、これはもうトーベ・ヤンソンの分身ってかんじよね。
にえ それだけでもう、ちょっとニンマリしちゃうでしょう。
すみ 積み重なっていく話がまたニンマリよね。なんの説明もなし に、二人の住むところが街のアパートになったり、島になったりするんだけど、ここでまず「おやっ」と。
にえ トーベ・ヤンソンは七十歳過ぎまで島に住んでいて、それから アパートに引っ越したからね。
すみ おまけにトムなんて弟まで登場するし。これでまた「あらっ」と。
にえ トーベ・ヤンソンに弟がいるのは、ファンなら誰でも知っ ていること。ムーミン・コミックスは二人の共同作品だからね。
すみ 家族といえば、ヨンナとマリは、それぞれのパパやママのお話 をするんだけど、それがまたはっきりと区別がつかないような、二人のパパと二人のママが溶けあっちゃう ような話になってて、これまたトーベ・ヤンソンのパパとママを連想してしまうの。
にえ もちろん、トーベ・ヤンソンのパパとママがそのまんま出てく るわけじゃなくて、そこに創作が加わってるんだけどね。
すみ マリのママは、ヨンナ相手にトランプをするとき、平気で いかさましちゃうのような人だったりするのよね。
にえ ヨンナのパパは密輸をしてて、マリのパパは森のキノコ狩りが 得意だったらしい。二人の話の節々に出てくる、そういう発見をするのがまた愉しいの。
すみ とにかくトーベ・ヤンソンの小説は、むだな説明をいっさい 省いちゃってるからね。読者が見つけていかなきゃならない。
にえ 特にこの本は、そういう宝探しをする喜びが詰まってるよね。
すみ 二人の関係も愉しいし、性格の違いも愉しいし、そういう二人 の微妙に合ってるような、合わないような会話が心地よい。
にえ とにもかくにも、ニンマリしまくりながら読む本でした。