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 「風の影」 上・下  カルロス・ルイス・サフォン (スペイン→アメリカ)
                                   <集英社 文庫本> 【Amazon】 (上) (下)

1945年初夏のバルセロナ、10才のダニエルは亡くなった母の顔が思い出せないことに気づき、その衝撃に打ちのめされていた。古書店を営む父はそんなダニエルを「忘れられた本の墓場」へ連れていった。そこは宮殿の亡き骸か、残響と影の美術館のように見える建物で、なかには大図書館を思わせるほどの本が並んでいた。どこかの図書館が閉鎖されたり、どこかの本屋が店じまいをしたり、一冊の本が世間から忘れられたりするときには、かならずここに来ると知られている、古書店主たちの聖域。 そこでダニエルは1冊の本を選んだ。題名は「風の影」、著者名はフリアン・カラックス。それは、謎めいた作家の足跡を追う旅の始まりでもあった。
公式HP
にえ これは今年(2006年)の翻訳本でハリポタとかダヴィンチコードとかの引き続きってのを除くと、売り上げナンバー1になるかも? なんて噂も出はじめているスペイン発の世界的ベストセラー本でございます。
すみ なんかスゴイ紹介(笑) そういう紹介のしかたをすると、狙いまくった小説みたいで、読んだ感じとイメージがかなりずれちゃうかもよ。クチコミで売れたってほうを強調しないと。
にえ そうそう、まだ書いてる最中からガンガンに前評判を吊り上げて、出たら出たで大プロモーションを展開してっていうようなことではないみたいね。クチコミでジワジワ売り上げを伸ばして広がっていって、それで最終的には世界で販売総数が500万部を超える大々ヒットになったんだとか。
すみ 読むと、なるほどこれはクチコミで広まるわな〜と納得するよね。ちょっと若書きとでも言いたくなるっぽい印象のところも多々あるし、う〜んメロドラマってところもあるんだけど(笑)、最初から最後まで夢中になって読めるのが最高のエンタメ小説だっていうのなら、これはやっぱり最高のエンタメ小説でしょ。
にえ ほんわりした優しさもあり、重さ暗さもあり、ロマンティックさもありで、過去の謎がわかっていく起伏のあるストーリーだもんね、ツボつきまくりっ(笑) というか、こういう小説が売れてるっていうのが単純にまず嬉しいかも。
すみ せっかくベストセラーでも、けっこう小難しいところがあったりで、ふだんあんまり翻訳本を読まない人には勧めるのを躊躇ってしまうことが多かったりするんだけど、これは取っつきやすいし、読む楽しさが伝わりやすそうでいいかなって気がするよね。逆に、翻訳本を読みこんでる人には、楽しいエンタメ系ってことで大目に見てね、なんて言いたくなるところもあるけど(笑)
にえ なにに近いかっていったら、やっぱりディケンズかなあ。ディケンズ作品に甘酸っぱかったり切なかったりするロマンスの味付けをした感じ、と説明するのが一番手っ取り早いような。
すみ 冒頭からワクワクしてくるよね。10才の少年ダニエルが連れていかれたのは「忘れられた本の墓場」。ここは古書の卸売りって感じ? 買いに来ているのは古書店主たちで、一般の人には秘密にされているみたい。
にえ なかは迷路のようになっていて、とにかく本がたくさんあるんだよね。どこの本棚で見た本か忘れてしまうからって、本棚の脇に印をつけておかなくちゃ迷うぐらいなの。
すみ そこでダニエルは、最初にここに来たときには1冊だけ本を選んで、それを一生大切にするんだよと父親に教えられ、これだ! と決めたのがフリアン・カラックス著「風の影」。
にえ 残念ながら、フリアンの著作については作中作として内容が紹介されたりはしないのよね。読みたい〜っ。
すみ 想像するかぎりでは、けっこう陰湿でホラーっぽい雰囲気がありながらも、ストーリー性は高くて、複雑な展開に夢中にならずにはいられないって感じみたいね。
にえ ダニエルも夢中になってしまうのよね。で、当然のことながら、もっとフリアン・カラックスの著作が読みたいと思うのだけれど。
すみ フリアン・カラックス作品は、もともとはパリで出版され、その後、スペインで翻訳出版されているのよね。翻訳したのは本人らしいんだけど。で、どっちでもほとんど売れていなくて、そのうえ、謎の人物がフリアン・カラックスの本を買い集めては焼き捨てているらしくて。
にえ つまりはぜんぜん見つからないのよね。というか、「風の影」が手に入っただけでも奇跡。それでダニエルはフリアン・カラックスその人にも興味を持ち、調べはじめるんだけど。
すみ 単に好きなタイプの小説を書く作家についてもっと知りたいと思っただけなのに、いつのまにやらフリアン・カラックス本人の抱えていた複雑な人間関係のなかに引き込まれてしまうようなことになるのよね。そこには何人もの人の複雑な愛憎関係がからまりまくっていて。
にえ とにかく最初のうちにわかるのは、フリアンがバルセロナで生まれ育ち、パリに渡り、なぜだかこっそりとバルセロナに戻ったときに殺されたらしいってことなのよね。
すみ ダニエル自身も、倍も年上の盲目の美女へ恋心を抱いたり、辛く複雑な過去のありながらも、すこぶる面白くて頼りになる男性との出会いがあったり、いろいろと起きるの。
にえ フリアン・カラックスの著作を手に入れては焼いている謎の男につきまとわれたりもするしね。
すみ とにかくフリアンの過去の謎については、たっぷりいろいろとわかってくるのよね。家庭のことも、友人のことも、愛した人のことも、一筋縄ではいかない複雑なこんがらかり方をしていて。
にえ まさに光と影のバルセロナの景色が背景になっていたり、過去については、スペイン内戦が背景になっていたりして、そのへんも読物としての深みを増していてよかったよね。個人的にはダニエルのお父さんにウルウル来っぱなしだったんだけど。
すみ ホントに最初から最後までハラハラワクワクできたよね。すでにサフォンのファンを指す「サフォンマニア」なんて言葉までできているのだとか。読みやすいし、おもしろいしで、オススメですってことで。
 2006. 9.29