=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「万物の尺度を求めて メートル法を定めた子午線大計測」 ケン・オールダー (アメリカ)
<早川書房 単行本> 【Amazon】 1972年6月、二人の天文学者がパリから正反対の方向へそれぞれ出発した。彼らの役目はダンケルクからパリを通り、バルセロナに至る範囲の子午線の長さを測ることだった。その結果によって、いよいよ物の尺度が不統一だったフランスに、唯一の尺度が定められることになる。その尺度はメートルと名づけられていた。 | |
これはメートル法が定められたときのお話です。著者は科学技術史を対象としたデクスター賞、そしてこの本で、科学史を対象としたデイヴィス賞、ディングル賞を受賞した方なんで、内容は保証付き(笑) | |
おもしろかったよね〜。科学史という以上に天文学者たちの人間ドラマだった。 | |
それに、歴史が大きく変わる時代のことを書いているから、そういった歴史の大きなうねりについてもけっこう詳細にわかるし、けっこうな冒険物語でもあったよね。 | |
もともとフランスでは、なんと25万種類もの長さ、重さの単位があって、その単位じたいもまた、場所によって測り方もバラバラ。これでは不便だし、経済的な発展もありえないってことで、統一しようということにあったのよね。 | |
長さは、王立のアカデミーによって、北極から赤道までの距離の一千万分の一の長さを「メートル」と定めようってことになるんだけど。 | |
それじゃあ、きっちりその北極から赤道までの距離を把握しておきましょうってことで、とりあえず、ダンケルクからパリを通り、バルセロナに至る範囲の子午線の長さを測ることになったの。その任務を負うことになったのが、ジャン-バティスト-ジョゼフ・ドゥランブルとピエール-フランソワ-アンドレ・メシェンという二人の天文学者。 | |
二人はともに天文学者ラランドの弟子。でも、性格はまったく違うんだよね。 | |
ドゥランブルは学識深い国際人で、社交上手、部下を扱うのもうまくて、ちょっと軍人気質。メシェンは生真面目で用心深くて几帳面、悩みを一人で抱えてしまう質で、人とうまく接するのが苦手なの。 | |
二人とも、学者一家で育ったとか、そういう恵まれた環境ではなかったんだよね。ドゥランブルは生地商の息子、目の病気のためにまつげを失い、ずっと失明すると思いこんでいたんだけど、だんだんと目が良くなって、ようやく天文学者になったときにはもう三十歳を過ぎていて。メシェンは貧しい苦労人。 | |
ドゥランブルはパリから北のダンケルクへ行き、そこから南下しながら測量をすることに。メシェンは南のスペインはバルセロナから北上しながら測量することに。で、二人が出会ったところで調査終了となる予定。だいたい一年もあれば終わると思われたこの調査、実際には七年もかかることに。 | |
それもそのはず、始まった直後にフランス革命が起こるんだよね。そのせいで、スペインへ行ったメシェンも、フランスの北端ダンケルクへ行ったドゥランブルも、行く先々で怪しい奴だと捕まって、アカデミーの正式な調査だといっても、もうアカデミーを持っていた王そのものがいなくなったんだから、認められないと言われたりして。 | |
それだけじゃないよね、パリに残った支援者や仲間の天文学者たちは投獄されたり、処刑されたり。で、そのあとまたひっくり返って、アカデミーの実権を握ろうとしたものが逆に投獄されたり、処刑されたり。 | |
そんな大変な状態のなかで、調査をまっとうすることになるんだよね。しかもさらに、個人的に事故にあったり、悩みも抱えたりして。 | |
二人はそれぞれ、小さな嘘と大きな嘘を抱えて、ミッションを遂行することになるんだよね。特に生真面目なメシェンはその精神的な圧迫に押し潰されそうになるんだけど、その凄まじさったら。 | |
任務が終わる頃にはナポレオンの台頭があって、これまた大きく歴史が動くんだよね。それによってメートル法が世界へ一気に広がることにもなるんだけど。 | |
ドゥランブルとメシェン、それぞれの人間的な違いがだんだん大きく広がっていくところとかもすっごく面白いんだけど、それ以外の天文学者の話も面白かったな。特に魅力的なのは二人の師であるラランドだよね。 | |
ラランドはおもしろいよね〜。チビのブ男で、その容姿の醜さを自慢にしていて、昆虫嫌いの人たちをあざ笑うかのように蜘蛛や芋虫を食べ、無神論者であることを公然と言い放つ、虚栄心が強くて不潔な人。でも、女性の知性を認めて学問の門戸を開いてくれたり、弟子たちへの面倒見がすっごくよかったりもするの。 | |
カッシーニは名前にまず驚いたな。120年ものあいだ、天文台に君臨した天文学者一家なんだけど、この名前が土星探査機につけられてたのね。 | |
唯一、メートル法を受け入れなかった大国アメリカについても語られていたよね。著者がそのアメリカの人だったりするのもおもしろいところかも。 | |
でもさあ、メシェンにはけっこう感情移入しちゃったなあ。くよくよ悩みすぎて、まわりの人をうんざりさせてしまうけど、完璧さを求める学者としては当然のことだとも思うし、同じ立場だったらと思うと、同情せずにはいられなくなる。 | |
表紙の絵にもある二人の使った最新の測角器とか、建てた高所観測所とか、そういった小道具的なものにもしっかり物語があったりして、興味深かったよね。写真もたっぷりでわかりやすいし。 | |
とにかく個人の魅力というものがキッチリ描かれているから、最初から最後までワクワク、ハラハラさせられておもしろかった。なんか最後にはジワーンと感動してしまった。オススメですっ。 | |
2006. 9.26 | |