=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「サフラン・キッチン」 ヤスミン・クラウザー (イギリス)
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イギリス人の父、イラン人の母を持つサラは、夫ジュリアンとの子供を妊娠していた。父母のもとには、イランで亡くなった母の妹の息子サイードが一緒に暮らしはじめていた。 ある日、サラは母マリアムとサイードと出掛けたとき、母が学校で虐められて傷つくサイードを叩く姿を見てしまった。愕然とするサラ。しかし、その行動には表面的なこととは別に、マリアムが語ることのなかった過去の大きな影響があった。イランのマーズレーという村に残してきた……。 | |
これはデビュー作にして初邦訳本だそうで、ヤスミン・クラウザーはこの小説のサラと同じく、イギリス人の父とイラン人の母を持ち、イギリスで生まれ育った女性です。 | |
爽やかで、でもズシンと重い小説だったよね。 | |
うん、結論に関して言うと、正しいとも間違っているとも言えなくて、ただ、人それぞれの人生にはおいそれと他人が口出しできないものがあるんだな〜とシミジミ、そしてズシーン、ときた。 | |
母と娘の話なんだよね。イラン人で、イランで生まれ育って、大人になってからイギリスに来た母と、イラン人とイギリス人のハーフとして、イギリスに生まれ育った娘。根っこがイランにある母と、イギリス人でもありイラン人でもあるけど、イランは遠い国の娘。 | |
完全に理解し合えるっていうのは難しいところもあるよね。でも、血のつながり、強い愛情があるから、理解しようとする気持ちが途切れてしまうこともなくて。 | |
けっこう衝撃的なところから話は始まるんだよね。テムズ川の橋の欄干から飛びこもうとするサイードという少年、少年を止めようとして腹を蹴られてしまって流産するサラ、血の染みに驚くサラの母マリアム。 | |
マリアムは三人姉妹の真ん中で、サイードは妹の息子なのよね。妹のマラーは亡くなってしまい、夫とは離婚していたから、マリアムとその夫エドワードは、イランからサイードを引き取ることに。 | |
サイードはイギリスの学校に通いはじめるけど、ひどい虐めにあって、異国の人ばかりの環境にもめげてしまって。 | |
実はサイードが苦しんでいるとき、マリアムもまた、サイードの姿に自分の過去を重ね、苦しみはじめていたのよね。あとから思えば、いつかはこんな日が来たんだろうな。 | |
マリアムはイランの、マーズレーという村の出身なのよね。マーズレーというのは、マザール家という権力を持った家に治められていた土地だから付いた名前で、マリアムはそのマザール家の娘なの。 | |
父親は権力者であり、地主であり、将軍でもあるのよね。マリアムの母は三人子供を産んだけど娘ばかりで、父親は第二夫人を娶り、その第二夫人が男の子を産んだため、マリアムの母は母屋から出て行ってしまっていて。 | |
マリアムの姉メーリは父の勧めに従って結婚するけど、マリアムは父親の勧めどおりの結婚なんてしたくなくて、看護士になりたいと思っていたのよね。 | |
三人姉妹のなかで一番美しく、従順ではないけれど、それは父親似であるということでもあり、たぶん、父親は一番マリアムを愛していたんじゃないのかなあ。 | |
でも、一番愛している娘が自分に従わないっていうのは、最も腹立たしいことでもあるよね。こうなると、愛情の裏返しで憎悪にも結びつきかねないところ。 | |
そんな中、マリアムは父のもとで働いていた青年アリと親しくなるのよね。アリはラジオを聞いて独学で英語をマスターしたほどの賢い青年なの。 | |
でも、しょせんは貧しい農家から引き取ってもらった使用人ってことには変わりないのよね。気に入られてはいても。 | |
過去には思いを寄せ合いながらも結ばれなかったアリがいて、現在には、自分のことを大切にし、愛してくれながらも、完全には心を許せなかったイギリス人の夫エドワードがいて、その相関図からすると、ロマンスだよね。 | |
そうそう、二人の男性に愛される女性の話ってことで、結局のところ、ロマンスものなのかな〜なんて、読んでいる最中には思ったりした。でも、ちょっと、いや、そうとう違うんだよね。 | |
どんどん過去に引き戻されていく母に戸惑い、なんとか戻ってきてほしいと願う娘のサラ、どうしても語れない過去がありながらも、娘に理解してほしいと願うマリアム。……というと、ドロドロと重い感じがするけど、読むと意外に爽やかな感触もあるの。 | |
うん、サラとサラの夫ジュリアン、サラと両親とかの愛情ってものがしっかりあるから、落ち着いて読めるし、サイードとサラとの温かい交流とかもあるし、過去の話には良き理解者の、料理人兼乳母のファティマとか、ドクター・アーラヴィとかのホッとできる存在もあるしね。 | |
爽やかさもあったから逆に、最後はわかっていても真実の重みがズドンときたってところもあるけどね。 | |
ここまでコマ切れにしなくてもいいんじゃないのってぐらい、サラからの語りとマリアムからの語りが交錯して、ちょい読みづらくもあったけど、でもやっぱり読んで良かったよね〜。ということで、オススメです。 | |
2006. 9.16 | |