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トーベ・ヤンソン・コレクション6 「太陽の街」 (フィンランド)  <筑摩書房 単行本> 【Amazon】
アメリカ、フロリダ州にあるセント・ピーターズバーグは、金に余裕のある老人たちが集まって暮らす <太陽の街>だった。風光明媚な景色の中、屋根のないベランダに並べられた揺り椅子に、同じ方向をむい て座る老人たち。良い子ぶることが癖になっている、悪気のない老女ピーボディ、胃痛と頭痛に苦しみつづ けるフレイ、鋭い知性をくすぶらせるだけのレベッカ・ルビンスタイン、言葉で人を苦しめることを生き 甲斐にするトンプソン、往年のミュージカルスター、ティム・テラトン……。老人たちは憎みあい、 言い争い、庇いあい、老いても尽きない命の火を燃やしていた。
にえ この本は、短めの長編『太陽の街』の一話だけが収録されていました。
すみ トーベ・ヤンソンが愛してやまないという老人たちのお話よね。
にえ それにしても、登場人物が多かったね。登場人物の早見表も ないし、どうしようかと思ったけど、結果としてはぜんぜん大丈夫だった。
すみ あれ、この人誰だっけと思っても、そのまま気にせず読んでいけば、問題なかったよね。
にえ あんまり誰がどんな人かって必死に把握して読もうとしないで、 ふわ〜っと読んじゃったほうがいいみたい。
すみ みんな死が迫っていることの怯え、衰えて相手にされない存在 となっても、本人は自覚しきっていない、などなど共通するものを持ってるから、いろんな人が出てきても、 区切って読むものじゃなくて、ひとつの流れとして読むべきなのよね。
にえ そうそう、ただ、こんな話をしていると、だら〜っとした小説 かと思われちゃいそうだけど、ストーリーはけっこう起伏があったよね。
すみ うん、つねに老人間の諍いはあるし、死人もでるし、ダンス パーティーや小旅行もあり、新しく訪れる人あり、とにかく次々と出来事があるから、だらけたところは なし。
にえ 重苦しくもないしね。老人とはいえ、わりと元気な人たちだ から。寝たきりになっちゃってるような人は出てこないし、老女はちょっと少女めいていたりもして、暗くはないでしょ。
すみ 二人だけだけど、若い人も出てくるしね。家政婦として働くイ タリア娘のリンダと、観光船で働くバイク青年のジョー。この二人もなかなか個性があって、邪魔しない ていどの効果的な登場のしかたをするのよね。
にえ 野外でエッチなことをしたがる一面があっても、おだやかで寛 容な性格のリンダと、明るく軽く生きているようで、イエス・キリストの復活を本気で信じてるジョー、 二人と老人たちとの交流が、老いを際立たせてるよね。
すみ あとの登場人物とか出来事とかは、とにかくひとかたまりじゃ なくいろいろあったんで、それぞれの印象に残った箇所のさわりだけ話しておきましょうか。
にえ 私はねえ、ちょこっと出てくるだけだけど、黄金の二十年代の レヴュー歌手アリシア・ブラウンが、歌いなれてるはずの歌詞を忘れたときの行動が素敵だなと思った。 黄金の二十年代っていうのも、レヴュー歌手っていうのも雰囲気だけでどういうものかはわからないんだけど(笑)
すみ 私はビーボディの少女時代の思い出が好きだった。ピクニックに行った話とか、パパがやけに切ないの。
にえ 帽子コンテストのシーンも良かったな。素敵な帽子を作っていって、それをかぶって行列で歩くの。
すみ レベッカ・ルビンスタインが息子に書く手紙。息子相手とは思えな いような痛烈な文章にニンマリ。
にえ あとさあ、わざとぼやかして多部分もやけに印象だったよね。 数奇な運命を辿った末に、化石のように年老いたピハルガ姉妹の過去、二人が読んでる本、気になった。
すみ エリザベス・モリスのピアノにからむ過去。ただ者じゃない ピアノの腕には、なんか過去があったのよね。これも気になる。
にえ 忘れられかけたスターのティム・テラトンは、もっと痛い目に あわされちゃうのかな〜と思ったけど、そこはトーベ・ヤンソン、残酷な仕打ちはなしでよかった。
すみ うん、ティムに限らず、全体的に切なくも哀しくもあったけど、 うっすらと残酷だとしても露骨さはなかった。
にえ 衝撃はなくても、すべてにじわっとくるお話だったよね。 他の作品より景色の描写も多くて、美しかった。老いを意識する人たちと、鮮やかな彩りの景色の描写、 この対比がきいてたな。
すみ ヤンソンの老人は、オバアチャンであっても自意識的には オバアチャンじゃなかったり、オジイチャンであってもふんばってたり、だからこそ哀しかったりする のよね、かえって老いをリアルに感じるし。
にえ 老いるってそういうことなのかな〜なんて、しみじみ考えちゃう作品でした。