すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「ザ・ロープメイカー 伝説を継ぐ者」 ピーター・ディッキンソン (イギリス)  <ポプラ社 単行本> 【Amazon】
ウッドボーンは長い間、平和な暮らしが保たれている谷だった。北は騎馬民族が猛威を振い、南からは帝国の収税官たちがいつ重税を課しにくるかもしれないというのに、ウッドボーンの人々はそんな心配をすることさえ忘れ、のんびりと暮らしている。 それは、森のそばに住むウルラスドウター家の女たちが代々、ヒマラヤスギに歌をきかせ、山に住むオルタールサン家の男たちが代々、雪に歌をきかせているおかげだったが、人々はそんな大切なことにも、気づいてさえいないようだった。しかし、その平和を保っていた力が崩壊しようとしている。 ウルラスドウター家の長女ティルヤは、代々の女たちが持つヒマラヤスギと話す能力がないにもかかわらず、祖母ミーナと、オルタールサン家の祖父アルナーと孫タールとともに、谷を救う旅に出ることになった。
にえ この本、大好きなピーター・ディッキンソンの小説に、大好きな影山徹さんの装丁なんです、どうしましょーっ。
すみ これはもう身勝手なファンの特権で、「きゃー、私のために作ってくれたのね〜♪」と大喜びするしかないでしょ。
にえ やっぱり? こういうときは思いこみに浸るしかないよね(笑) そうそう、それにね、絵は装丁だけじゃないの、3章に分かれているんだけど、それぞれにカラーじゃないけど扉絵もついてるのっ。うれしいな〜。こりゃもう宝物だよ。私のため、私のため(笑)
すみ んで、内容なんだけど、けっこうストレートなファンタジーなのよね。ディッキンソン作品のなかには、ひねり具合で好みが分かれそうなのもあるんだけど、これは安心して読んでもらえるはず。
にえ そうだね、ただ、さすがと思う目新しさは随所にあって、これぞディッキンソン・マジックって感じだった。
すみ そうそう、まず魔法のファンタジーっていう定番コースなんだけど、そうなると当然、主人公となる少女ティルヤが魔法を使えそうなものなのに、そうじゃないのよね。
にえ うん、ティルヤの生まれたウルラスドウター家は、代々娘がヒマラヤスギの声を聞けるようになる家系。それなのに、祖母も母親も妹もヒマラヤスギの声が聞こえるのに、ティルヤにはまったく聞こえないの。
すみ 谷の平和を取り戻すため、祖母のミーナ、オルタールサン家の祖父アルナーと孫タール、それにティルヤの4人で旅に出るけれど、谷から出て、帝国支配の地を旅してみるとそこは魔法の世界、ところが他の3人はビシバシ魔法を感じるのに、ティルヤはまったく感じないのよね。
にえ じゃあ、ティルヤは傍観者の立場になるのかというと、そうじゃないんだよね、魔法に対してまったく鈍感であることが、実はティルヤの武器の秘密だったりして。
すみ こういう発想はこれまでなかったんじゃない? わ〜、上手いな〜と思っちゃった。
にえ 嘘か誠かわからないぐらいに風化してしまった伝説と現代がリンクし、そして……って展開も、ディッキンソンらしいよね。
すみ あとさあ、不思議と守られている谷の集落と、その外に広がる広大な帝国。そうなると、谷に魔法があって、帝国には魔法がないって設定が普通じゃない? でも、この話だと、外界から閉ざされた谷では魔法なんて夢の話だって、だれも信じていなくて、帝国では当たり前に魔法があるの。
にえ とにかくそういう逆転した設定とかから、さて、それはどうしてか、そして、どうなるのかって空想を広げていってて、きっちり物語にまとめ上げられているのよね。
すみ ティルヤが生まれ育った谷は、北からは騎馬民族が襲ってきそうなものだし、南からは帝国の軍隊が襲ってきそうな場所。でも、実際にはとても平和に暮らせているの。なぜかというと、北は氷河に閉ざされ、南には森があって、その森は女の人なら普通に通れるけど、男の人が入ると、具合が悪くなってしまうから。
にえ なぜ森に男の人が入れないかというと……、これは表紙を見ればすぐにわかっちゃうか、ユニコーンが関係しているんだよね。
すみ 谷の安全を守る氷河と森、これはウルラスドウター家の女たちと、オルタールサン家の男たちが、それぞれヒマラヤスギに向かって、雪に向かって、歌を聞かせてあげていたためなんだけど、谷の人々はそのありがたみがよくわかっていないの。
にえ どうして歌わないといけないかという理由については、ずっとずっと昔の物語として残ってはいるんだよね。でも、とにかく昔の話だから、少しずつ違ったふうに語られていて、しょせんはお伽噺だと信じる人もいなくなっていて。
すみ それでも、ウルラスドウター家とオルタールサン家では、きっちり言い伝えが守られてきたんだよね。なぜなら、ウルラスドウター家の女たちにはヒマラヤスギの声が聞こえたし、オルタールサン家の男たちには川の声が聞こえたから。
にえ でも、その谷を守っていた力が失われつつあったの。それに気づいたウルラスドウター家の口の悪いおばあさんミーナとティルヤ、オルタールサン家の盲目のおじいさんアルナーと社交的な孫のタールが会って話をすることになり、4人は、伝説で魔法を与えてくれたとされているファヒールという魔法使いを探しに行くことに。
すみ でも、いざ足を踏み入れてみると、帝国のほうもなんだか落ち着かない様子なのよね。帝国には<番人>と呼ばれる、皇帝に雇われた魔法使いたちがいるんだけど。
にえ 魔法が使えないし、ミーナやアルナーやタールみたいに、ヒマラヤスギや川の声が聞こえるわけでもないティルヤがどんな活躍をすることになるのかってのはお楽しみ。読めば、そういうことか〜とビックリうれしくなるはず。
すみ ちなみに、ロープメイカーってのはティルヤのことでも、ファヒールのことでもないんだよね。だれを指しているかわかったときも、あらま、そういうことなのと意外だった。ということで、正統派のファンタジーって感じで安心して読めるけど、目新しさがいっぱいで飽きないってお話を求めてる方は、ぜひぜひっ。
 2006. 8. 9