すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「インディアナ、インディアナ」 レアード・ハント (アメリカ)  <朝日新聞社 単行本> 【Amazon】
年老いて、農場に一人暮らすノアのもとには、あれこれと世話を焼いてくれるマックスの他に、亡くなってしまった人々の忘れがたい思い出もまた訪ねてくる。なにについてもよく語っていた父のヴァージル、信仰心篤かった母のルービー、そして、いとしいオーパル……。
にえ こちらは初邦訳本の作家さんです。レアード・ハントは1968年生まれ、シンガポール生まれで、インディアナ、ソルボンヌで学んで、国連の報道官としていろんな国へ行って、日本にも1年半いたことがあるのだとか。
すみ いろんな国にいたことがある、というと、この小説ではマックスだよね。マックスがなんとなく控えめなのは、そのせいなのかな。
にえ それはともかく、不思議な小説だったよね。読む前から普通じゃないことは予想していたけど、さすがに最初のうち、読んでも読んでもサッパリ内容が把握できないとなると悲しくなって、放り出そうかと思っちゃった。
すみ 私も最初のうちは何度か読み直したりしたよ(笑) でも、抵抗を止めて、とりあえず読みつづけてたら、少しずつ見えてくるの。
にえ 私は途中からそれに気づいて、あわててメモしまくった(笑) 主要な登場人物はノア、マックス、ヴァージル、ルービー、オーパルの5人だから、この5人についての情報を集めればいいと思って。
すみ 巻末解説を読んだら、レアード・ハントはW・G・ゼーバルト「土星の環」にインスパイアされてこの作品を書いたそうで、「土星の環」はまだ邦訳出版されていないから読んでないけど、ああ、ゼーバルト、納得〜と思わなかった?
にえ うんうん、写真はなくて文章だけだけれど、だんだんと見えてくる、でも、もやがかかってすべては見えない、みたいな感触がゼーバルト作品を意識していると言われると納得だよね。
すみ とにかく途切れ途切れなんだよね。前後の脈略もなくオーパル手紙が挿入されていたり、ヴァージルが語った話が出てきたり。
にえ キチンとまとまって説明されることもなく、飛び飛びの情報から少しずつわかっていって、全部がはっきりと見えてくるわけじゃないけど、最初のうちから垣間見えている、主人公であるノアに哀愁のような、喪失感のような、そういった漠とした悲しみがなんなのかわかってきて、ジワーっとこちらの心にもしみてくるようなんだよね。
すみ わかってくると、幻想小説のような設定も含まれていることに気づくよね。それが後半になって話に面白味を増させているようでもあった。
にえ これって、なにもわからないところから、少しずつ探って知っていくことに喜びを感じる人にはたまらないかも、全部がハッキリしないまま残されるのが嫌いな人には不向きかも。
すみ かなりのところまでわかってくるけどね。私もあまりにもわからないとイラッとしちゃうけど、ここまで見えてくるのであれば、充分に満足できる。あとは読後にボーッと考えさせてくれる余韻を残してくれてあって。
にえ それにしても、こういう小説だと、どこまで話していいものやら(笑) とにかくね、ノアというのは、ちょっと正常ではないところがあって、今はもう老人で、農場に一人で住んでいるの。
すみ その農場は両親から受け継いだもので、ノアが生まれ育った家、そして新しい小屋があるのよね。
にえ で、マックスという男性がノアの世話を焼きにときおり訪ねてくるの。
すみ ノアの頭に去来する両親は、もちろん亡くなっているのだけど、元教師の父親はやたらと語る人で、母親は信仰心の厚い人だったのよね。
にえ 何度も唐突に挿入されるオーパルという女性からの手紙は、いつも「いとしいノア」で始まっているの。
すみ オーパルの文章を読むと、なんらかの重い精神疾患を抱えていて、病院か診療所に入っていることだけは、わりと早くにわかるよね。
にえ なんというのかな、純粋な愛の物語でもあり、ノアという浮世離れした人の人生をたどる物語でもあり、柔らかな読み心地の幻想小説でもあり……ん〜、絶賛は避けるけれど、良かったです。
すみ そうだね、好きそうな人はわたしたちが勧めなくても勝手に読む本だしね(笑) 個人的な好みから言えば、ちょっと、なんというか若いかな〜ってところもあるけど、でも、普通って枠からはややはずれた小説だし、読む価値はあったよってことで。