すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「ページをめくれば」 ゼナ・ヘンダースン (アメリカ)  <河出書房新社 単行本> 【Amazon】
おもに1950年代、60年代に活躍したアメリカの女性SF作家ゼナ・ヘンダースン(1917年〜83年)の短編集。11編を収録。
忘れられないこと/光るもの/いちばん近い学校/しーッ!/先生、知ってる?/小委員会/信じる子/おいで、ワゴン!/グランダー/ページをめくれば/鏡にて見るごとく−おぼろげに
にえ これは、河出書房新社の奇想コレクションのシリーズです。この方は地球に住む宇宙人のことを書いた<ピープル・シリーズ>っていうのがライフワークだったようで、この短編集にもそのピープル・シリーズのなかの1作が入っています。
すみ ゼナ・ヘンダースンは小学校の先生をしながら、SFを書いた人なんだよね。お亡くなりになる3年前まで教職に就いていたそうで。
にえ これに収録されている作品も、ほとんどが小学校を舞台にしていて教師と生徒の話だったり、子供中心の話だったりするんだよね。正直なところ、最初の3編を読んだ時点では、いかにも小学校の先生って感じの、良い子のSFだな〜、こりゃ久々のごめんなさい宣言か〜と思ったけど、4つめからだんだん「良い子の」ではなくなってきて、最終的には、なかなか良かった、また読んであげてもよくってよ、という感想かな(笑)
すみ 異星人が地球にやってくる、子供に特殊な能力がある、って2つのパターンの話がほとんどだったよね。で、異星人の話にしても、子供の話にしても、直接、異星人や子供に語らせるんじゃなくて、わりと常識的な普通の大人からの視線で語られてるの。
にえ うんうん、だから、本当の話っぽく読めるし、安心できる範囲内でまとまってるって印象だったよね。大人が変なものを見てしまうってパターンの話も2つあったけど、これまた日常の範囲内でおさめているというか。
すみ そうだね、どれも綺麗にまとまっていて、安心して読めた。それに、物足りなさを感じてしまうほどの安心感ではなかったし。
にえ こういうまとまりの良い小説ばかり読んでると飽きてきちゃうってところはあるけど、逆に、今はこういうのを読みたかったの、ああ嬉しいって時もあるよね。
すみ うん、毎回、ひ〜っと叫ばせてくれる作家さんも確保しておきたいけど、こういう作家さんも確保しておきたいかも(笑) ということで、あなたが今、こういうのを読みたいときならオススメですってことで。
<忘れられないこと>
リンコンシロー校の私のクラスに、ヴィンセント・ロアマ・クロギノールドという9才の少年が転校してきた。ヴィンセントはボキャブラリーが豊富だったが、読みかたができない子供だった。それでもすぐにクラスに馴染んだが、ある日、地リスを助けようとしてクラスメイトの一人で岩を殴った。「彼で岩を殴った?」と私は訊き返した。
にえ 子供に理解のある女性教師と、素直だけど、ちょっと、いやそうとう普通ではないところがある子供の話。正直なところ、今読むとSFとしては古い、というか、ありがちの印象かなあ。1968年に書かれたものだってのはわかっておいたほうがいいかも。
<光るもの>
大恐慌時代、子だくさんの家に育つアンナは11才。ある日、ミセス・クレヴィディがアンナの家を訪ねてきて、夫の留守中、自分の家に泊まってくれる子供を貸してくれるよう頼んできた。10セントの褒美につられてアンナが泊まりに行ってみると、ミセス・クレヴィディはなにかを必死で探していた。
すみ ミセス・クレヴィディはなにを探していたのでしょう、というお話。このラスト、子供の頃に自分にもこういうことが起きないかなってよく考えた(笑)
<いちばん近い学校>
14人の子供が通う小さな学校に、両親と子供が入学手続きにやって来た。その家族はムラサキ色のムクムクで、目がたくさんある。外国人嫌いを必死で隠す、教育委員長のストリングラーはなんと言うだろうか。
にえ 想像したとおりの結末だけど、読み返してみると、これはこれで良かったかも。良いお話系の3つめだったから、初読ではケッと思っちゃったんだけど(笑)
<しーッ!>
ベビーシッターのアルバイトをしているジューンは、気管支炎の子供ダビーと二人で留守番をしていた。ダビーは寝ることに飽きて、やたらとうるさい。ジューンが考えたダビーもお気に入りの「想像ゲーム」をやったあと、どうにかベッドへ行かせたが、一人でやっていたダビーの想像ゲームはとんでもないことを引き起こしてしまった。
すみ これはこの作家が一番得意とするところかな。子供の予想を超えた想像力、そこから来る超現実的な能力の発揮。それにしても、良い話が3つ続いたあとで、このラストは驚いたな。
<先生、知ってる?>
6才のリネットは担任教師のミス・ピータースンに話しかけた。「先生、知ってる?」その話によると、リネットの両親の夫婦仲はうまくいっていないらしい。
にえ これは良い意味での、小学校の先生だからこそ書けたって作品だな。ポツポツと話す子供のおしゃべりをつなげていくと、家庭にとんでもないことが起きているのがわかっていくという。SFではないのだけどね。聞いているだけでなにもできない先生の焦燥や恐怖がヒリヒリと伝わってくるの。
<小委員会>
リンジェニ人が地球にやって来た。彼らの狙いは地球征服なのか、それとも他に目的があるのか。凶暴な性格のようだし、彼らを怒らせれば、自分たちの星で出撃を待つ仲間に連絡されてしまうかもしれない。小委員会で話し合いは進められているが、これまでのところ、意思の疎通はまったくといっていいほどできていない。リンジェニ人を一時的に滞在させることにした区域に隣接する家に住むセリーナは、自分の子供たちがその区域に入ったことを知って驚愕した。
すみ 異星人=悪と決めつけるのはどうでしょう、というお話。そして、お互いに立場のある男どうしより、なんのしがらみもない女子供のほうがすぐに仲良くなれるというお話。
<信じる子>
野営地から学校に通う子供は、汚れが目立ち、出生証明書がなく、無料ランチが出ないのなら、お昼抜きで学校にいることになる子供たちだ。しかし、ディズミーは少なくとも清潔だった。珍しく母親が付き添って入学手続きをした。母親はディズミーのことを「信じる子」だと言った。
にえ ディズミーを虐める二人の男の子。なんでも本気で信じてしまうディズミーは、そんな子たちの言うことまで真に受けてしまう。信じる力が強すぎればどうなるか、この方のパターンはもう掴んだから、どうなるのかはわかったけれど、それでもなかなかおもしろかった。
<おいで、ワゴン!>
甥っ子のサディアスは3才の時、クリスマスプレゼントにもらったワゴンに、「おいで、ワゴン」と声をかけた。みんなは笑って自分で引っぱらなくてはいけないとおしえてやったが、あとでサディアスが「おいで、ワゴン」と声をかけると、ワゴンが自分で動いてサディアスについていくのを見かけた。
すみ これも子供だからの能力のお話なんだけど、ちょっと切なくていい短編だった。それにしても、アメリカ人の子供が戸外でワゴンを引っぱって、そのへんを歩きまわったり、ワゴン1つに子供数人で遠出をしたりする姿を映画やテレビや小説でよく見かけるけど、日本人の子供はあんまりやらないよね?
<グランダー>
クレイは妻のエレーナに対する嫉妬で悩んでいた。エレーナがちょっと男性と話しているのを見ただけで、激しく嫉妬してしまい、そのためにエレーナとの夫婦仲もまずくなってきていた。クレイは見知らぬ老人に、グランダーという魚が嫉妬心をなくすと教えてもらった。
にえ これは珍しく子供の出ない話。まあ、結末が見え過ぎちゃってるから、ちょっと退屈って気もするけど。グランダーのような魚の伝説はどこの国にもあるのかな。日本だと、私は地下クジラの話を聞いたことがあります。
<ページをめくれば>
小学校一年生の時の担任教師、ミス・エボーは魔法そのものだった。ミス・エボーが鳥になりましょうと言ったとたん、私たちは本当に鳥になった。
すみ これはまた小学校ものだけど、珍しく、というか、これだけは子供目線で先生を見たもので、不思議な力があるのも子供ではなく先生。話のなかでも良い子のお話とはちょっと違うし、なんとも言えない余韻が残るし、これは良かったな。
<鏡にて見るごとく−おぼろげに>
二焦点メガネのせいなのだろうか。私は二重に見えるようになった。たとえば自宅の居間を見ても、普通の景色と、サボテン、そして、ミチバシリのいる景色。眼科医のドクター・バーストウには過去が見えているのかもしれない、と言った。そして、それを楽しみなさいと。
にえ これも子供が出ない、大人の話。オチはないけど不思議な余韻。というか、長編にして全貌を語ってくれ〜、気になる〜(笑)