すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「隠し部屋を査察して」 エリック・マコーマック (カナダ)  <東京創元社 文庫本> 【Amazon】
カナダ文学の奇才エリック・マコーマックの20編の短編小説を収録。
隠し部屋を査察して/断片/パタゴニアの悲しい物語/窓辺のエックハート/一本脚の男たち/海を渡ったノックス/エドワードとジョージナ/ジョー船長/刈り跡/祭り/老人に安住の地はない/庭園列車 第一部:イレネウス・フラッド/庭園列車 第二部:機械/趣味/トロツキーの一枚の写真/ルサウォートの瞑想/ともあれこの世の片隅で/町の長い一日/双子/フーガ
にえ 文庫化されるということで(2006年5月20日発売予定)、買うほどのものだかどうだか、先に読んでみることにしました。
すみ いや〜、予想していたよりもおもしろかったね。けっこうグロテスクだっていうから心配していたけど、なんというのか、強烈にグロテスクなことを書いてはいるんだけど、不思議とこざっぱりしていて粘着性がなくて、サラッと読めちゃうの。
にえ うんうん、なんか滑稽というか、どこかツッコミどころの隙を残してくれていて、単純に楽しく読めるよね。
すみ だけど、発想は豊かで奇想天外な話が次々と繰り広げられていくから、おお、こう来ましたかって嬉しくなっちゃう。
にえ あとさあ、文字を追って何を書いているのか必死に理解しようとして読むと、何がどうなってるかサッパリわからない話がいくつかあったんだけど、読み終わったあとで、パラパラッと見返すと、あ、なんだ、そういうことかって、わりと簡単にわかるの。わざとなのかしら、そういうのもおもしろかった。
すみ 短く切って、時間や人物が違う話が交錯しているってパターンのがあったからでしょ。わかればスッキリだよね。
にえ とにかくおもしろかった。思いっきり妙な話を期待しているけど、あんまりジメジメしてて気持ち悪くなるのは勘弁って方にはオススメかもですっ。
<隠し部屋を査察して>
入植地に建ち並ぶ建物にはそれぞれ、一人の管理人が住んでいて、その地下にも一人、「隠し部屋」と呼ばれる、地下牢と呼ぶべき部屋に入っている人がいた。そして、月に一度、担当する六つの隠し部屋を査察し、報告するのが「査察官」である私の役目だった。
すみ ここはどこなんだ、というのはナシです(笑) でも、どんな人がどんなことをしたら隠し部屋に入れられてしまうのかっていうのはわかるの。その話はどれも、ま〜、期待通りのグロ妙ですよ(笑)
<断片>
1972年夏、私はロバート・バートン「憂鬱の解剖学」の一節について調べるため、スコットランドに戻った。その一節とは、マル島の「教団」の隠者についての、おそるべき記述だった。
にえ まあ、隠者ってぐらいだから、苦行がつきものなんだけど、それがまあ、本当にアレですよ(笑)
<パタゴニアの悲しい物語>
ミロドンの生き残りをとらえるため、パタゴニアに上陸した探検隊の隊員たちは、最初の夜、焚火を囲んでひとつずつ、驚きと哀しみに満ちた話をしていった。
すみ ここで披露された話のひとつは、「パラダイス・モーテル」の話とかぶってるみたいなんだけど、繋がっているのか、単にかぶらせているだけなのか、「パラダイス・モーテル」を読んでいないからわかりません(笑) 紹介文を読むかぎりでは、著者自身が実際に祖父から聞いた話で、「パラダイス・モーテル」はそれを膨らませて小説にしたっぽいんだけど。
<窓辺のエックハート>
一年前の夜、古い警察署にエックハート警部好みの美女が訪れた。美女は恋人である男が事故で死んだことを通報に来たが、その家がどこだったのか、わからなくなったという。この街では、すべての通りが似て見えるのだから無理はない。
にえ 街も変だけど、死んだ美女の恋人はもっと変。というか、そこは意外とリアルなのか。死に方が妙すぎる? いや、その前にすべての事情を知っている恋人がいることが妙? じゃあ、この美女が一番妙ってこと? というお話です(笑)
<一本脚の男たち>
イースト・アルシャー州ミュアトンは、炭鉱の村だった。村の子供たちは学校嫌いで、炭鉱で働くのが夢。そして、大人たちの中には炭鉱事故のため、一本脚の男が多かった。
すみ これは「ものすご〜く」じゃなくて、「うっす〜ら」変な感じが漂ってくるお話。
<海を渡ったノックス>
スコットランドの宗教改革者ジョン・ノックスは、がれー船では奴隷という身分だったが、邪悪な目をした黒猫クルーティとともに、船上では怖れ、敬われていた。
にえ どーんこれはどーんわりとどーんむかしのどーんふんいきだどーん。
すみ ぜったいそれ言うと思った(笑) 船を下りてからの話がおもなんだけど、なんというか、まだ偏見があった頃のアフリカを舞台とした呪詛の物語みたいな感じなのよね。ちなみに、スコットランドがやたら出てくるのは、エリック・マコーマックがスコットランド出身だから。そして、にえが「どーん」と言っているのは、太鼓を通信手段にしているって場面があって、そこでこういうのが出てきたからです。
<エドワードとジョージナ>
エドワード・バイフィールドはおとなしい男だった。その妹のジョージナ・バイフィールドは背が高く、合理的な女性だった。バイフィールド兄妹はみすぼらしいアパートの一室で、仲睦まじく暮らしていた。
にえ これは意外と正統派の妙な話で、逆にあれっと意外だった。
<ジョー船長>
祖父の親友ジョー船長は、1940年に中央スコットランドのこの村に一人でやって来た。村人たちは、どうしてこんな村にたった一人で住むことにしたのかと訝ったが、そこには話しても信じてもらえないような、怖ろしい理由があった。
すみ この話の祖父ってマコーマックのお祖父さんがそのままモデルになってるっぽいな。少年はそのままマコーマックっぽいし。というか、この話じたいが実話という可能性も。
<刈り跡>
一年前の日曜日、7月7日午前6時から、あれは始まった。あれが通り過ぎると、幅100メートル深さ30メートルの巨大な溝が残った。その溝の側面や底面は、たとえ水であろうとすっぱりとなめらかに切り取られ、そこにあったはずのものはきれいになくなった。
にえ これはいいですよ〜。この非科学的なところがたまりません。熱があるときに見る夢とちょっと似てるけど(笑)
<祭り>
二人は「祭り」に参加するために飛行機に乗った。その町では町長に歓迎され、体育館の観客席に座った。ロープマットの中央では、観客に見守られながら一人の女性が出産した。終わるまで、観客たちは女性のいきり声と声を合わせ、応援した。そして二日めの催しは……。そして三日めの催しは……。
すみ これも悪夢的よね。こういうのって書かれた話の内容以上に、ものすごい閉塞感があるなぁ。う〜、夢が覚めない〜、逃げられない〜みたいな。
<老人に安住の地はない>
あるクリスマスパーティーで、老人は大戦中にドイツ兵の少年を殺したことを語りはじめた。そして、それを聞いた若者が静かに語りはじめた。それは昨夜見たクリスマスパーティーの夢の話だった。
にえ これは老人の話と若者の話が二重丸みたいになるって構成。
<庭園列車 第一部:イレネウス・フラッド 第二部:機械>
庭園列車の7号車のそばで、私たちはイレネウス・フラッドを待っていた。不らっどは不自然な生き物だった。彼は胎児の頃、人工的なプラスチックの子宮に移され、水槽で魚たちと育った。
すみ 第一部と第二部が独立した2つの短編になっているんだけど、ひとつらなりのお話なんで、紹介は分ける必要はないかなと思って分けませんでした。まさに奇妙なものを書く作家の作品って感じ。なんかこの人の書くものって、グロいのに読んでいると笑いがこみあげてくるのよね〜。わざとそういう隙を作っているのかしら。本人が笑いながら書いてるから?
<趣味>
下宿人を募集していた夫婦のもとに、長く鉄道で働いたのちに引退した独りの老人が応募してきた。老人は自室に選んだ地下室にこもり、趣味である鉄道模型を作り始めたようだった。
にえ これはわりと正統派な奇妙な話。あはは〜、やっぱり〜と楽しめます。
<トロツキーの一枚の写真>
絞首刑にされた死後の男と処女の交わりによって男児と女児の双子が産まれた。女児の名はアビゲイル、死を写すカメラマンになった。
すみ ちょっとこれは時系列が崩してあって、混乱しそうになるかな。暗黒な雰囲気が良い感じだけど、意外とアビゲイルが健康的な印象だったりして?
<ルサウォートの瞑想>
ジョン・ジュリアス・ルサウォートは、アゾレス諸島の捕鯨の名人だった友人ダ・コスタの死を思い出していた。
にえ これは短くまとめられて、ちょっと詩的な印象だった。
<ともあれこの世の片隅で>
アパルトマンの地下にある荒れ果てた部屋で、彼はひたすら物思いにふけっている。年齢は70代、27歳の時に1冊の本を自費出版しているから、職業は作家だった。
すみ インタビューで紹介される、ある男についてのお話。その男の真の姿がどんどん透けて見えていく、という感じ。
<町の長い一日>
ホテルを探してその町を歩く私は、死んだ娘を荷車に乗せて運ぶ女、家族に命を狙われている男、つぎはぎだらけの絶世の美女、人間爆弾となった男の話を聞いた。
にえ どれもエピソードがおもしろいの。短編の中に、さらに短い話をいくつも入れるってパターンが好きみたいねえ、この方。奇抜なアイデアだけで、あんまりネチネチと同じ話を深く掘り下げていかないスタイルだから、どうしてもそうなるのかな。
<双子>
マラカイは二人の人間が一つの体に入った双子だった。しゃべるときはいつも同時で、口の右側で淀みない声が「ありがとうございます」と言うとき、口の左側ではザリザリとした声が「おまえはばかやろうだ」と言う。
すみ 双子文学に拒絶反応を起こしがちな私たちですが(笑)、これはくだらなくおもしろかった。いいなあ、こういう怖バカバカしいみたいな話。
<フーガ>
川沿いの高台にそびえる杉の丸太造りの建物に男がいた。男は本を読んでいる。女は本気で男に惚れこんだが、男が求めていたのはちょっとした変化だけだった。そして、刑事が訪れる。
にえ これはちょっとハードなタッチ。でもなんだかそこにも笑えるようなところもあり。あんまり徹しすぎるのは恥ずかしいみたいな感覚があるのかしら、この方は。おもしろいなあ。