=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
トーベ・ヤンソン・コレクション3 「クララからの手紙」 (フィンランド)
<筑摩書房 単行本> 【Amazon】
13編の短編、超短編の小説が収録された一冊。 | |
これは前2冊に比べると物語性が押さえ気味で、現実的 な生活の一部を切りとったって感じの話が多かったね。前の2冊が濃かっただけに、ちょっと淡白な印象。 ものたりない気がしなくもなかったかな。 | |
この本の全体のテーマは書いてなかったけど、私は <折り合いをつける>だと思ったな。 | |
<クララからの手紙>
老嬢クララが友人、知人などに出した短い手紙の数々。 | |
コレクション1と同じ手紙の形式をとった話からのスタートだ けど、これは1対1の手紙じゃなくて、いろんな人に宛てた手紙ってことになってるから、相手にあわせて 調子も変わってて、おもしろかったな。 | |
これはクララが、老いと<折り合いをつける>。最後の新聞社へ の手紙が、老いにたいするひとつの答えになってた。 | |
<ルゥベルト>
若き日にわたしが通っていた画学校にいたルゥベルトは、とても変わった絶交状をクラスメイトたち に出した。 | |
これはすごく短い話。むかし、こういう人がいたよ〜って感じ で、サラッと書いてある。 | |
これはルゥベルトの人間関係の<折り合いをつける>ひとつの やり方。すべてを断つというのも、手段の一つではあるけど無理がある、かな。 | |
<八月に>
八月の夕方、山荘のベランダで、アーダおばさんとイーダおばさんの姉妹は、母の死について語り合う。 | |
これもすごく短い話。八十歳をとうに過ぎてたおばあちゃんが、 浴室の天井のペンキを塗っていて死んじゃうって、最後の最後まで生きてたって感じがして好きな死に方だな。 | |
これは母の死と<折り合いをつける>。あれをしてあげればよかっ たとか、こうしていればどうだっただろうとか考えても、身内の死とは、どこかで折り合いをつけるしかないの よね。 | |
<睡蓮の沼>
カティは、恋人の青年ベルティルとベルティルの母の三人、睡蓮の沼のそばにある小屋で夏を過ごす ことにした。 | |
ベルティルはカティを「ぼくのちびネコ」と呼び、ベルティル の母はベルティルを「ちびリス」と呼び、自分を「でかリス」と呼ぶ。こりゃたまらん(笑) | |
この話は極端だけど、恋人の親と<折り合いをつける>って いうのは難しいのよ。家族どうしでしか通じない冗談とかあったりしてね。 | |
<汽車の旅>
少年の頃のアントンにとって、一級上のボブは憧れの人だった。二十年後、汽車の中でアントンは、たま たまボブと出会い、初めて会話をする。 | |
ありがちな話ではあるけど、とくに憧れの対象となってしまった ボブの細やかな心理描写は光ってたな。 | |
憧れの人の現実の姿と<折り合いをつける>。いくら素敵に見えて も、しょせん同じ人間なのよね。 | |
<パーティ・ゲーム>
セードラ・スヴェンスカ女学校が閉鎖されることとなり、かつての卒業生エヴァ、ノーラ、パメラ、 エディト、キティ、ヴィラ、アン−マリーはクラス会を開くことにした。 | |
懐かしいなと久しぶりに会ってみてから、あ、そういえば私、 この人嫌いだったんだ、なんて思い出す。これはだれしもクスリと笑ってしまうんじゃないでしょうか。 | |
過去のわだかまりと<折り合いをつける>。大人になったん だから、ちょっと嫌悪感を抱くていどの相手の性格とは、なんとか折り合いをつけましょう。 | |
<海賊ラム>
老嬢ヨンナとマリは、二人だけの島で暮らしている。そこに流れ着いた青年レンナートは、すべてから 逃げだし、死んでしまいたかったと言う。 | |
死ぬ気もないのに、おおげさに「死ぬ、死ぬ」という青年と、 死が迫った年齢でも穏やかに生きているヨンナとマリの対比がおもしろかったね。 | |
まわりの人たちと<折り合いをつける>ことができずに逃げ出し た青年は、この島で折り合いを学ぶのよね。 | |
<夏について>
誰にも知られず、わたしは道をつくる。小屋に秘密の小部屋をつくる。深い水の中を泳ぐ。 ボートを漕ぐ。韻のふみかたを発見する。薪納屋の壁に絵を描く。 | |
これはちょっと不思議な小編。主人公はどんな生活をして いるのかとか、情報は何も与えられず、やったことが書いてあるだけ。でも、印象的だったな。 | |
今の生活とも、将来持つことになる娘とも<折り合いをつける> ことを願う人のお話よね。不思議な感触。 | |
<絵>
ヴィクトルは、新進画家展で評価を受け、七週間の海外留学を手に入れた。家に残り、ヴィクトルを 送り出したパパは、自分の椅子に<狼>が座り、<やつら>がやってくるけれど、ヴィクトルにあたたかい 手紙を出す。 | |
これはぐっと来たな。精神を病んで幻覚を見続けながらも、 大丈夫だからと息子を応援する父親と、そんな父を気遣いながらも夢に向けてがんばる息子。二人とも、 ごくごく自然に、やわらかに接しあってる。 | |
幻覚と<折り合いをつける>パパと、精神を病んだ父親と<折り 合いをつける>息子。なんかいいよね。無理がなくて。 | |
<事前警告について>
わたしが住んでいた村にいた、世界中の出来事すべてが自分のせいだと思っていたフリーダのこと。 | |
これもすごく短いお話。でも、読んでくうちにフリーダが おかしいのか、正しいのか、わからなくなってくるおもしろさがあるよね。 | |
フリーダが強迫観念とあっさり<折り合いをつける>さまが、 なんだかいいのよね。 | |
<エンメリーナ>
四階に住む亡くなった<ばあさん>は、付添婦エンメリーナに立派な住居を残していった。一階下の 住人ダヴィドは、エンメリーナに惹かれるが、感情を表さないエンメリーナの本心がわからない。 | |
これは愉しい。エンメリーナの不思議なキャラクターは、トー ベ・ヤンソンならでは。行動から、まわりの反応まで興味深く読めたよ。 | |
ダヴィドにとっては、エンメリーナの世間との<折り合いをつ ける>やり方が、参考になったんじゃないかな。 | |
<カリン、わが友>
スウェーデンの母がたの祖父母の牧師館で、わたしはドイツから来たいとこの少女カリンと出会った。 カリンは美しく、まじめすぎる聖女だった。 | |
こういう一緒にいて息苦しい人っているよね。カリンの母親が、 なにげに可哀想だった。 | |
カリンのような人は変わりようがないから、まわりが<折り合い をつける>ことを学ぶしかないのよね。 | |
<リヴィエラへの旅>
ママとリディアは、リヴィエラへの旅をプレゼントされた。リヴィエラでは小さなコテージに滞在し、 出会った人々や犬と交流をはじめる。 | |
最後にふさわしい、異国ムードたっぷりの楽しめる作品でした。 いいなあ、リヴィエラ、行ってみたい。 | |
人は旅に出て、少しだけふだんと違う行動をして、それから 帰ってきて、ふたたび日常生活と<折り合いをつける>のよね。 | |