すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「ゾウを消せ 天才マジシャンたちの黄金時代」 ジム・ステインメイヤー (アメリカ)
                                    <河出書房新社 単行本> 【Amazon】

フランス人でマジックの父とされるロベールウーダン、脱出業師の王フーディーニ、マジック界の名門マスケリン一族、ロンドン工芸大学の学長にして、初めて舞台に幽霊を登場させたペッパー教授、などなど、19世紀から20世紀にかけてのマジック界をきら星のごとく駆け抜けた、天才マジシャンたちの軌跡をたどる1冊。
にえ 素敵なカバー絵に惹かれまくって読んでみました。おもしろかった〜。
すみ おもしろかったよね〜。有名なマジシャンたちの話なんだけど、そっけなく経歴を紹介してあるんじゃなくて、他のマジシャンとライバルだったり、弟子の引き抜きがあったり、技を伝授したり、影響を受けてマジシャンを目指しはじめたり……とにかくいろんな人間関係が見えてきて、まるで長編の小説を読んでいるようだった。
にえ いろんなことがあったんだね〜、ホントに夢中になって読んじゃったよ。あと、有名なマジックの種あかしもしてくれているし。
すみ 著者はマジック界ではそうとう著名な方なんだよね。私たちでも知っているようなのだと、デヴィッド・カッパーフィールドの「自由の女神」消失マジックは、この著者が企画提案、シナリオを担当したものだとか。
にえ もうホントにマジックを愛しているんだなっていうのが行間からヒシヒシ伝わってくるよね。
すみ それにしてもさあ、デヴィッド・カッパーフィールドの「自由の女神」消失マジックだって、私たちは本人が自分で考えて、自分でやってるもので、他の人はアシスタント、ぐらいに思っていたじゃない。それがじつは、企画して提案して、シナリオを書いた人が別にいたなんて、驚いちゃう。この本を読むと、そういうマジックの舞台裏みたいなものがタップリ見えてくるよね。
にえ やっぱり紹介されたマジシャンの中で際だっていたのはハリー・フーディーニだよね。稀代のエスケープ・アーティストでありながらも、O脚で背が低く、筋肉質で無骨。繊細さに欠けて、マジックの腕はなかったんだって。
すみ 生きているあいだは、ハワード・サーストンっていうマジシャンのほうが人気があって、有名だったんだってね。こちらは鮮やかな腕前で観客を魅了する正統派のマジシャン。それが二人の死後はフーディーニはどんどん有名になり、伝説の人となり、サーストンはあまり思い出されない存在に。
にえ フーディーニが象を瞬時に消してしまうという凄いマジックをしたってのが、この本のタイトルにも関わってくるわけだけど、それだって一番最初に見せたときには、フーディーニがあまりにもへっぽこだから、それほど凄いマジックでありながら、観客はシラーっとしてたんだよね。
すみ フーディーニはマジックに関する逸話以上に、ふだんの言動がおもしろいよね。子供っぽくて、嫉妬をすると容赦がなくて、やたらと好戦的で、自分に最大の影響を与えた先人ロベールウーダンのことまで悪口言いだしちゃって、暴露本まで出しちゃう。
にえ あとさあ、ペッパー教授の話は驚いたよね。ロンドン工芸大学の学長でありながら、学内で興業をやって大成功した人なの。
すみ とりあえず、光学原理に基づいたマジックで、きちんと科学的に説明するようにしていたみたいだけどね。
にえ でも、幽霊のマジックで観客が熱狂したときには、ネタばらしが出来なくなっちゃったんだよね。もう立派なマジシャンです(笑)
すみ ペッパー教授にからむ話や、他の人のところで、特許のことが出てきたでしょ。権利を守るためには特許を申請するしかないけど、特許をとると、すべてを公開されてしまうから、マジックでもなんでもなくなってしまう。複雑よね〜。
にえ でもさあ、特許をとってもとらなくても、技の盗みあいだったよね。アシスタントを引き抜いたり、マジックを見に行って上演中に舞台に近づいたり、凄まじい盗みあいだった。
すみ 降霊術師との戦いも凄かったみたいね。これまたネタのばらしあい。あっちはインチキだけど、こっちはホンモノだって主張のしあいで。
にえ 降霊会の全盛期だものね。おもしろいことに、その降霊会がきっかけで、マジシャンになった人も多いんだけど。
すみ あとはやっぱり、マスケリン座長のもとから出てきた、二人の若き天才マジシャンの話がドラマティックでおもしろかったよね。
にえ 対照的なんだよね。チャールズ・モリットーは座長と喧嘩をして飛びだし、ゴシップネタになるような人と組んでマジック、挙げ句の果てに酒に溺れ、いなくなって死んだと噂。デヴィッド・デヴァントは、座長の下でスター街道まっしぐら。最後には共同経営者にまでのしあがって。
すみ でも、それで終わったと思ったら、さらに二人が交わる運命なんだよね。そこにフーディーニの名前も出てきて、もうワクワクしてしまった。
にえ 他の人の話も、いろいろ繋がりがあったりして、ホントに楽しかったよね。じつはマジックショーじたいはそんなに好きじゃなくて、テレビでやっててもほとんど見ないんだけど、こういう話になるとがぜん興味がわくし、知れば知るほど楽しくってしょうがないな〜。
すみ 昔のマジックは単にマジックを見せるんじゃなくて、演劇仕立てになってたんだよね。そういうのも、どんな感じだったんだろうと想像しながら読めて、楽しかった。分量もタップリで読みごたえ充分だったし、ちょっとでも興味のある方にはオススメだね。もちろん、前知識不要ですっ。