すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「十面埋伏」 上・下  張平 (中国)  <新風舎 単行本> (上) (下)
妻のために公安局勤務から刑務所勤務に移った羅維民(ルオウェイミン)は、受刑者仲間に重傷を負わせた王国炎(ワングゥオイェン)との面談中、未解決事件の重要な告白を聞いた。それは、公安局の多くの人々にとって忘れることのできない、1・13事件解決の糸口となるはずだった。 ところが、刑務所の上司たちは王国炎は精神に異常をきたしてデタラメを語っているだけだと言い、だれも羅維民の話を取り上げようとしなかった。それどころか、王国炎は刑務所の中で、受刑者とは思えないほど贅沢な暮らしをしていたのだ。 中国ベストセラー大賞、金盾文学賞、中国図書賞受賞作品。
にえ この作品は、中国3大文学賞を総ナメにした話題作で、映画化も決定しているのだそうです。
すみ 読んでみるとわかるよね、エンターテイメント性たっぷりで、映画にしても良さそうっ。
にえ ただ、あくまでもエンタメ系のサスペンス小説だから、それ以外のものを期待すると肩すかしだよね。夢中になって読める面白いエンタメ小説、それだけを期待して読んだほうがいいでしょ。
すみ そうだね。逆に中国文学は難しそうって敬遠してきた方にはオススメかも。ハリウッド映画並みの派手な演出が炸裂していて、ホントに一気に読めちゃうから。
にえ とはいえ、上巻ではそこまでの小説とは感じなかったよね。大きな悪の権力と戦う、孤高のヒーローみたいな、ちょい古の小説なのかな〜なんて思いながら読んでいたんだけど。
すみ 羅維民という一人の刑務所捜査官が、刑務所に入れられている、王国炎という受刑者の告白を聞くところから話が始まるんだよね。それが詳細で、未解決となっているいくつもの事件の、犯人でないかぎりは知るはずのない話ばかりなの。
にえ 告白した未解決事件のひとつが、羅維民もずっと気にしていて、羅維民が前に所属していた公安局全体にとっても忘れがたい凶悪事件、1・13事件なんだよね。
すみ 犯人と思われる人物は刑務所の中にいて、逃亡のおそれはない。自分からベラベラ重要なことをしゃべっちゃう。共犯者の名前まであげちゃう。こんな簡単に解決してしまうなんて、と羅維民は驚いてしまうんだけど、そうはいかないの。
にえ 刑務所内で、だれも王国炎の告白をホンモノだと信じてくれないんだよね。それどころか、王国炎は極刑のはずが理由もなく15年に減刑され、刑務所の上の方の役職の人から酒の差し入れまでもらっているという不可思議な事実がわかってくるの。
すみ つまり、刑務所内部にも悪がはびこっているということよね。
にえ 羅維民は公安局の仲間と連絡をとり、なんとか王国炎を未解決事件の犯人として逮捕し、告白の全貌を白日の下に晒そうとするんだけど、そこからが大変。
すみ 下巻にはいると、一気におもしろくなるよね。警察機構の上層部や、政治関係の上の人たちが登場したりするんだけど、とにかくだれが味方で、だれが敵か、まったくわからないの。敵かと思ったら味方だったり、味方だと思ったら敵だったり。どんどん入り組んできて。
にえ しかも、話が加速していくと、今度はだれが死ぬかわかったものじゃないようなことになっていくのよね。もう、この人は死んでほしくないとか、あの人にも死んでほしくないとか、ハラハラしながら読んでしまった。
すみ どんどん凄いことになっていくよね。最後のほうは、都市を丸ごと飲みこんでの大スケールの攻防戦となっていくし。
にえ じつは善玉だったとか、じつは悪玉だったとか、そのへんの急展開は最後の最後まで続くしね。
すみ 登場人物は多かったけど、私にしては珍しく、登場人物一覧を一度も見ずに読めちゃったな。
にえ うん、私も。一人一人が再登場のたびに、さりげなくだれだったかわかるようにしてくれているよね。それに、それぞれ個性があるから、混同するようなこともなかった。
すみ それぞれの登場人物の背景には、家族のことがあったり、抗えない生い立ちがあったり、社会的な背景には、私たちにはまだまだ把握しきれない中国というものがあったりで、深みもあったよね。
にえ この件を解決できても、その先にはまだ個々の人生があり、社会的立場がありで、もしかしたら、知らん顔していたほうが、本人や家族のためにはなるかもしれない。それでも、正義を貫き通そうとする男たちの腹の底での結びつき、信頼関係、そのへんが胸熱くするよね。
すみ 悪に堕ちていってしまった哀しみもでしょ。それに、本人とその家族というだけでなく、広い範囲の親戚にまで及んでいくものもキッチリ書かれていたし。ということで、中国発の一級のエンタメ小説が読みたいと思った方には、オススメですっ。