すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「世界の果てのビートルズ」 ミカエル・ニエミ (スウェーデン)  <新潮社 クレストブックス> 【Amazon】
スウェーデンとはいっても、フィンランドとの国境に接する小さな村、パラヤに生まれたマッティは、1960年代の初め、姉のレコードプレイヤーで聴いたビートルズに衝撃を受け、親友のニイラと手作りギターで練習を始めた。
にえ これはスウェーデンの北の北、北極圏内の寒村パラヤで成長していく少年のお話。
すみ タイトルと内容紹介のざっと見で、田舎の村の家族がバンドを組むって話かと思いこんじゃってたんだけど、読んでみるとまったく違ったね。
にえ バンドをやるってことじたいが、それほどメインのお話じゃないんだよね。実際にメンバーを揃えて練習するのなんて、この小説の終わりの方になってからだし。それほど音楽についての話も出てこないし。
すみ そうそう、練習風景なんて、ほとんど書かれてなかったしね。あくまでも北極圏内の小さな村パラヤとそこで成長していく少年ってのがメイン。
にえ パラヤ村はスウェーデンの北の端、フィンランドとの国境に隣接し、ロシアへも歩いていけるような場所で、村民は逃げ出すようにどんどんでていく寒村なんだよね。
すみ 言葉も両方だよね。フィンランド語もスウェーデン語も使うの。どっちも方言がかなりひどいみたいだけど。
にえ 仕事は木こりとか、猟師とかで、舗装道路が通ったのが1960年になってから。とにかく寒くて、白夜があって、森にはトナカイやオオカミやムースがいて、沼があるから蚊も多くてって、あんまり暮らしやすくはないところだよね。
すみ 無口な人が多いみたい。スウェーデンの他、つまり、パラヤより南から来た人たちがとても陽気に見えてしまうみたいだし。
にえ 貧乏で、知的水準は低くて、スウェーデンの全国テストでは、パラヤの学校が最下位だったそうだし、テレビなんてありゃしない、ラジオだってない家が多いってところなの。
すみ 黒人の宣教師が来たときに、黒人を初めて見るために村中の人たちが集まっちゃうってレベルだよね。ホントになんにも知らない、時代に取り残されたような村。
にえ そんな村で育つ子供たちは、けっこう暴力的な遊びが多くて、のどかな暮らしとはいかないんだよね。でも、主人公のマッティとその親友のニイラは、他の子みたいにたくましくなくて、ひ弱な少年で、いつもビクビクしてなくちゃならなくて。
すみ でもだからって、暗い少年時代ではないんだよね。それはそれで伸び伸びと、けっこう楽しく、興奮たっぷりに暮らしていて。
にえ そういう村に暮らしているからってのもあるんだろうけどね、結婚式なんて、ホントにもう楽しいというかなんというか、互いの家族でサウナがまん大会とかはじめちゃったりして(笑)
すみ ねずみ取りのアルバイトへ行ったり、空気銃の戦争があったり、けっこう刺激に満ちてたよね。
にえ ニイラがいいんだよね。無口で、やせっぽちで、不器用なんだけど、ある時には奇跡を起こして、村人たちを驚かすの。あと、ニイラの乱暴者の父親とニイラの兄との出来事は、ジーンと来るし。
すみ マッティの父親の男兄弟たちもおもしろいよね。みんな力自慢で、負けず嫌いで。あと、マッティが父親から一族の深い因縁の話を聞いたりするところとかも興味深かった。
にえ そんな暮らしの中で、ビートルズに出会うんだよね。ビートルズなんて、村の人は誰も知らなくて、マッティとニイラは、ニイラの親戚の子からシングルレコードをもらって、初めて知ってビックリしちゃうの。
すみ いくつものエピソードが積み重なっていくお話で、そのなかに、音楽との衝撃的な出会いってのがあるんだよね。衝撃を受けても、そこからまた情報を得ていくって手段がないんだけど。
にえ でも、二人は手作りギターでがんばるよね。そのあと、素敵な先生との出会いもあるし。
すみ とにかく、こういう北極圏の寒村で暮らす人々のことなんて、小説でも読まなきゃ、深いところまではわからないでしょう。読めば知らないことばかりで、こんな暮らしをしていた人たちがいるのかってビックリすることばかりだし。で、それをユーモラスで、キラキラとした少年の視線で語ってくれるから、ほんとにまあ、読んで良かった〜ってのが実感。
にえ でもさあ、最初のうちがちょっとわかりづらかったよね。マジックリアリズムなのかな、なんだかわからないけど、現実からいきなり幻想的な話の展開になるところがあって、それが普通に知っている現実から幻想へ行けばまだわかるんだけど、知らない現実から幻想に行くから、頭を混乱させられてしまった。まあ、それは最初の方だけだから、そこを過ぎれば、普通に楽しく読めるんだけど。
すみ なんにもないからこその豊かな暮らしの讃歌っていうんじゃなくて、きっちり閉鎖的な村のイヤなところとか、過酷なこととかも、不快感なしの少年の語り口でしっかりと伝えてくれているから、とにかくホントに良いバランスで読めるんだよね。この自伝的な長編は、900万人しか以内スウェーデンで75万部も売れて、世界20カ国以上で翻訳出版されて、映画化もされたってことだけど、それはもう読めば納得。うん、良い読書でした。オススメですっ。