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トーベ・ヤンソン・コレクション2 「誠実な詐欺師」 (フィンランド)
<筑摩書房 単行本> 【Amazon】
フィンランドの小さな海辺の村、働きもせずに雑貨店の二階に住む二十五歳の女性カトリ。 名前もつけずに犬を飼い、子どもたちに雪玉をぶつけられ、誠実にこだわるゆえに愛想のないカトリは、 冷たく黄色い眼をしていた。カトリの夢は大金を得て、十五歳の弟マッツと金の心配をせずに暮らすこと。 そんなカトリが目をつけたのは、親から譲られた大きな屋敷に住み、花柄のウサギを主人公にした童話で 収入を得ている老嬢アンナ。アンナは悪意を剥きだしにする必要に迫られたことのない、親切そのものの ような女性だった。 | |
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この本は短編集じゃなくて、『誠実な詐欺師』というひとつのお話が入っている本だったね。 |
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それにしても最初から最後まで、ものすごい緊張感だったよね。 |
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これはトーベ・ヤンソンの作品だからとかそういうのは外して 考えて、私が読んだ小説の中でも最上級中の最上といえる、すばらしい小説だったな。 |
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作者の強い感受性が、電気となって伝わってくるような小説だっ たよね。ページをめくる手が痛いほどだった。 |
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静かに淡々と書かれていても、二人の女性の精神が互いに影響を 与えあって、信じきっていた世界を破壊して、再構築を迫られる話だからね、これは痛い。 |
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少ない登場人物だったけど、みんな際立ってたしね。本当に無駄 がなかった。 |
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まず、カトリ。彼女は数字だけを信じる孤高の人なのよね。 村人たちから魔女と呼ばれても、信じる道だけを突き進んでる。 |
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でも、彼女なりの弱さもあったよね。人を信じないのに、 人を傷つけることに怯えてる。 |
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カトリに反応するアンナはおもしろいよね。常に人に媚びている ようで、カトリが目的を達成させるために、少しでもカトリらしくない媚びた態度をとろうとすると、すぐに 気づく。 |
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二人のあいだに挟まれる犬とマッツの存在も、なにげないようで 鮮烈だったよね。 |
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アンナとマッツはすぐに仲良くなるのよね。同じ冒険小説好きと いう共通点があるから。 |
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マッツは村人からは愚鈍で、いてもいなくてもいいような存在と して扱われてるけど、自分のボートがほしいっていう明確な夢だけにとらわれてるから、二人のあいだに挟 まれてもまったく揺るがない、この小説の中では一番強い存在だった。 |
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犬がまた不思議な存在だったよね。カトリは犬と親しいってわけ じゃないの、互いを尊重しあってるの。 |
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犬を飼いながらも、犬の洞察力に怯えてるのよね。それに飼いな らして犬が持つ野生を失わないように気を使ってる。 |
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アンナは犬が怖いんだけど、じょじょに飼いならそうとしてい く。犬が好きじゃないのに、犬らしくさせようとしているのね。 |
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マッツと犬は、カトリとアンナの緊張関係のあいだで、奪い合 われる。共有はできないのね、この人たちは。 |
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二人とも共同生活ってものに慣れてないからね。カトリとアン ナの上下を位置づける争いにもそれが現れてて痛々しい。 |
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でも、つらいばかりじゃなくて、彼らをやさしく見守るエドヴ ァルドっていう青年のほっとするような暖かい眼差しもあったよね。 |
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興味をそそられる、雪に閉ざされたフィンランドの村っていう 舞台背景もあったし。 |
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トーベ・ヤンソンがもともと持ちあわせてる童話的な柔らかい 雰囲気もあったよね。だからこのピリピリしててもふんわりとした、不思議な肌触りがあるのかな。 |
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うん、読んでて暗さや重さは感じないのよね。ただもう緊張感 だけが伝わってくる感じ。 |
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アンナの描く童話の絵も、すごく効果的に使われてたしね。 この完成度の高さは尋常じゃないよ。 |
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これはもう、あいだをあけて二度、三度と読みかえすべき小説 でしょう。まいった、諸手をあげて降参です(笑) |
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