すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「サルバドールの復活」 ジェレミー・ドロンフィールド (イギリス) <東京創元社 文庫本> 【Amazon】 (上) (下)
リディア、ベス、オードリー、レイチェルの4人は、大学時代のルームメイトだったが、リディアが大学に講師として来ていた著名なギタリスト、サルバドールと結婚してから、互いに連絡を取り合っていなかった。 サルバドールの不幸な事故死のあと、すぐに亡くなったリディアの葬式で、残りの3人は久しぶりに再会した。そして、ベスとオードリーだけが、サルバドールの母が支配する壮麗な居城に招かれた。
にえ 前作の「飛蝗の農場」を読まなかったので、私たちにとっては初ドロンフィールドです。
すみ 「飛蝗の農場」もこの「サルバドールの復活」も、ミステリ・ファンの評価が高いのよね、そうなのか〜と読んで驚いてしまった。
にえ だよね、驚くよね。おもしろいことはおもしろいんだけど、これがミステリのファンに高く評価されるとは。なんというか、おもしろい「悪い冗談」って感じだったよね。
すみ ホントに。まさかこういう内容だとは想像もしてなかったから、驚いたね〜。上巻では、まだ正統派な感じだと思って読んでたんだけど。
にえ 出だしは正統派の雰囲気たっぷりだったよね。ずっと会わなかった大学時代のルームメイトである4人の女性、小出しにされていく、過去の出来事……。
すみ リディアは美人で性格のいいムードメイカー、オードリーはなにごとにも積極的で、力ずくで自分の未来を切り開いていくってタイプ、レイチェルはちょっとおデブで、鈍くさい子扱いされてるけど、やるときはやるってタイプ、ベスはわりと普通の娘? レイチェルと一番親しかったのがベスなの。
にえ リディアは大学に講師として招かれた、サルバドールという有名なギタリストの青年と恋に堕ち、結婚することになるのよね。
すみ サルバドールはギタリストとしての才能があるだけじゃなく、そうとう高い身分の家柄で、もちろん裕福で、お城を2つも持ってるような家なのよね。
にえ でも、母親は支配的で、サルバドールはその支配から、なんとか逃れようとしているみたい。そして、平民の娘レイチェルと恋に堕ち、城へ連れて行く、と。
すみ 実はいろいろあったみたいだけど、そのへんは話が進んでいくとわかっていくのよね。
にえ んで、サルバドールが死に、リディアが死んで、葬式で残る3人が再会することに。レイチェルとは途中で別れちゃうけど、ベスとオードリーは、サルバドールの母に城へ招かれるの。
すみ ちょっと寄るつもりが一泊することに、その後、修理工場に出したオードリーの車が戻ってこないし、電車は雪で止まってるしで、いつまでも城に引き留められることになっちゃうのよね。
にえ うう〜、いいわ〜、典型的なゴシックものじゃないの。女主人の支配する城、なんだかんだと言い訳をつけられ、出て行けなくなる若い女性二人、そのうちに城の古い言い伝えなんて知り始めちゃって、いろいろ怪しくなってくる。と、思ったら、だよね(笑)
すみ いやあ、上巻でもちょっと、おや、と思うところはあったけど、下巻に入ってからが凄かったよね。戸惑いまくった(笑)
にえ 定番のゴシックものの流れを続けながらも、回想シーンで「なんじゃこりゃ、漫画や〜ん」みたいなことが起きるし、セックスについての悪戯みたいなことを書き散らした短い章がいくつも挿入されだすし、本筋のほうも、どんどんふざけてくるしね。
すみ なんか小説の向こうで、ほっそりした青白い顔のイギリス青年がニヤニヤ笑ってるのが透けて見えるようだった。
にえ 大がかりな悪ふざけだよね。いや、でも、こういう悪ふざけなら、薄っぺらくもないし、賢さもあるし、嫌いじゃないよ。
すみ 薄っぺらくはないけど、あまり重厚さは求めないほうがいいかも、だけどね(笑)
にえ こういう歪みっぷりって日本のミステリファンの読者に受けるんだね。それを知らなかったから驚いた。
すみ まあ、悪ふざけだってのがわかってれば、話や謎が何層構造にもなってたりして、かなり楽しめるんじゃない? 正統派ゴシックをからかったパロディとも言えるし、セックスについてのちょっとお下劣でありながらも、かなり知的なジョークとも言えるし、まあ、そんな感じでした。そういうのを気楽に愉しめそうなら、かなり濃厚な読書体験となるかも、です。